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浜中紗夜子の章_3-1
朝食を済ませた後、すぐに家を出て、紗夜子の待つ理科室へと向かった。風の強い通学路を歩く生徒は少なかった。
で、今、理科室の前に居る。
着替え中だったら悪いのでノックをする。
コンコン、と。
「…………」
返事が無い。物音もしない。
ガラッ。
開けてみた。
居ない。
どこかに行ったのだろうか。
その時、「たっちー」と背後から背後から声。
「お、おう、おはよう」
振り返りながら右手を挙げて言うと、
「おはよ」
返事があった。
私服姿の紗夜子が居た。黒いワンピース。相変わらず良い鎖骨。
胸の前で、制服を両腕で抱きかかえるようにして持っていた。
「どこかに行ってたのか?」
「シャワー室」
紗夜子は右手を短く湿った髪の中に滑り込ませてクシャっと握った。
「そうか」
「これから着替えるから、ちょっと外で待っててくれる?」
紗夜子は言って、俺の前を通り過ぎた。
洗い髪の、良い匂いがした。
「おう」
「じゃ、また後で」
ピシャンと戸は閉じられて、カチャンと施錠の音がした。