浜中紗夜子の章_2-5
さて、食事が終わって、俺は進んで後片付けをすることにした。
カチャカチャと音を立てて皿を洗う。
紗夜子は料理の手際が良いらしく、洗うのは食卓に上った二皿だけで、しかも美味しかったしな。
で、洗い終えて理科室に戻ると、紗夜子は先刻まで俺がダラダラしていたベッドで眠っていた。
仰向けで、両手の指をお腹の上でしっかりと組んで、すーすーと寝息を立てている。
綺麗な顔。
無防備だ。無垢で、少女みたいな。
俺は横に丸められていた布団を掛けてやった。
まったく知り合ったばかりの男の前で眠るなんて、油断しすぎだ。
俺は紳士なので何もしないが、俺でなくて不良どもだったらどうなってたことか。
「しかし……紗夜子が寝ちまったら俺が暇になっちまったじゃねえか……」
そこで俺は、紗夜子が本棚にろくに整理もせずに並べている漫画コレクションの中から先刻まで呼んでいたもの続きを選び取り、それを読んだりして時間を潰すことにした。
放課後のチャイムが鳴った。
が、紗夜子は一向に起きない。
俺は、何故かあったソファに座って漫画を読み続けていたのだが、その間、紗夜子はずっと止まったように眠っていた。
死んでるんじゃないかと疑ったが、呼吸はしているみたいなので、大丈夫そうだ。
眠っている顔は、とても白くて、とても綺麗だったけど、どことなく悲しそうな顔だった。
「学校に自分の部屋を作るなんて、とんでもないヤツだよな……」
しみじみと俺は言った。
「もうちょっと居ようかな……」
何だかとても居心地の良い部屋だった。
数時間後。
すっかり暗くなったので、置かれていた電気スタンドを点けて読書(漫画)に興じていると、
『間もなく、下校の時間です。全校生徒は、すみやかに帰りましょう』
との声。校内放送だった。
「……そうだな。さすがに帰るか」
紗夜子が起きてくれるのをずっと期待していたのだが、どうもマジ睡眠らしく、全く起きる気配すら見せてくれなかった。
「よっし」
俺は立ち上がり、近くにあったメモ帳に、
『帰ります。また明日。』
と書いて電気を消し、理科室を出て薄暗い廊下に立った。
よぅし、帰ろう。
寮に戻った俺は、寮の食堂で夕食を摂った。
で、自分の部屋に帰って考えたんだが……。
「俺、今日一日中、漫画読んでただけじゃん!」
不毛な一日だと思ったが、紗夜子に出会えたから全く意味が無かったわけでもないか。
にしても……紗夜子……か。何なんだ、あの子は。
勝手に理科室を改造して快適ライフを満喫して、しかも昼休みが終わったら就寝する。
推測だが、昼に寝るのが彼女の生活習慣なのだろう。
規則的に不規則。
綺麗な顔立ちをしていて、折れそうなくらいに細くて、悪い言い方をすれば不健康だ。
良い言い方をすると、お人形さんみたいでずっと見ていたい子なんだがな。
ともあれ、明日は漫画以外のこともしよう。
紗夜子の部屋にはかなりの量の漫画があったからな。
漫画喫茶みたいに考えてると抜け出せなくなりそうだ。
紗夜子と一緒に、健全に外で遊ぼうじゃないか。
今頃、紗夜子は起きているんだろうか。
心配だな、なんか。