表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/579

浜中紗夜子の章_2-4

 で、十五分くらいすると、紗夜子がキッチンから戻ってきた。


 冷たいトマトのパスタを右手に持って。


「できたよ。手洗ってきなさい」


 何だか、母親みたいなことを言って来た。


「はーい」


 子供みたいに言ってみた。


 そして手を洗う。


 で、その間に紗夜子は一度キッチンに戻り、もう一皿パスタを右手に持って戻ってきた。


「さ、食べようか」


「おう。いただきます」


「いただきます」


 二人での昼食。


 俺はスパゲッティよりも細いパスタ麺をフォークでくるくると巻き、口に運んだ。


「うめぇ。なにこれ」


 超美味しかった。


「そ。よかった」


「何て料理?」


「トマトの冷たいカッペリーニとでも言うのかな」


「へぇ。こんな美味いの食べた事ないよ」


「ありがと」


 言って、紗夜子もパスタを口に運んだ。そしてモグモグして飲み込んだ後、言う。


「……久しぶりだな。誰かと一緒に何か食べるの」


「俺もそうだな。今朝は話しかけたら皆が逃げていくという不思議現象が起きてな。ショックだったよ」


「皆に逃げられるって、たっちー、一体何をしたの……?」


「何もしていないはずなんだ。だが、皆が俺に冷たくしたんだ」


「かわいそうなたっちー……」


 憐れみの目を向けられた。


「いつでもこの理科室に来ていいからね。わたしは、いつもここに居るから」


 もはや理科室とは呼べないけどな。だが、


「そう言ってくれるとありがたい」


「実はわたしも、一人で居るの好きじゃないからね。皆に、一人で居るのが好きみたいに思われてて、誰も来てくれなくて寂しいの」


 そりゃま、理科室改造してる人の所になんて誰も来ようなんて思わないよな。


 俺だって知ってたら近付かなかった。


「でも、これからはもう寂しくないだろ」


「うん」


 こくり、と頷き、パスタを口に運んだ。


「あ、たっちー」


「何だ」


「わたしにあだ名つけてほしいな」


「あだ名……?」


「うん」


 また、こくりと深い頷きを見せた。


「あだ名……か。難しいな」


「何でもいいよ」


 とは言ってもな。


 細い体ってのが一番の特徴と呼べるかな。おでこが広めでチャーミングだったり、良い鎖骨をしてたり、黒髪だったり、制服の右腕にイタリアっぽい色合いのラインがついてたり、目がちょっと腐ってたり、でもとてもキレイだったりするけど、やっぱすげー痩せてるってのが一番この子を表すには適してるんじゃないかな。


「じゃあ……」


「何なに?」


「カッペリーニ」


 俺がそう言ったところ、紗夜子はトマトパスタの載った皿を指差して言う。


「それ、これじゃん」


「いや、お前、体細いじゃん。それで」


「あー、でも、なんかヤダ」


 こいつ、さっき何でもいいって言わなかったか?


「じゃあ、どんなのが良いんだ?」


「サヨたんとかサヨぴょんとかサーヤとか言ったらどうなの?」


 それが、紗夜子の望むあだ名らしい。


 だが、俺のカッペリーニというのも捨てたものではないと思う。


 ここは、常に折衷案を求めたがる俺らしく、二つのあだ名を混ぜてみようじゃないか。


 というわけで、これならどうだろう。


「じゃあ、サッペリーニ」


「混ぜないでよ、きもちわるい!」


 がーん……きもちわるいって言われた。


「じゃあ 紗夜子。リカちゃんなんてどうだ!」


 ちょっとひねってみる。


「理科室に住んでるから?」


「そうだ」


「ヤダ」


 うぇい、ワガママな子!


「じゃあ、サッチー」


 たっちーに対応するあだ名だ。


「サイアク」


 これもダメか。


「だが、サヨたんとかサヨぴょんは恥ずかしいだろう」


「そういうものなの?」


「ああ、男らしい俺は、そんなサヨたんとか呼ぶことはできないのだ!」


「ふぅむ……じゃあ、しょうがないか……でもカッペリーニは嫌」


「だったら、名前で呼ばせてくれ」


「んー。わかった。確かに、まだ会ったばっかりだもんね。そのうち嫌でもあだ名で呼びたくなる日が来るよ」


 何をそんなにあだ名にこだわってるんだ、こいつ。


 まぁ正直に言おう。面倒くさくなった。はっきり言って、俺にあだ名のセンスは無いしな。


「ところで紗夜子。そんなことよりもほら、さっさと食べないと、パスタが冷めちまうぞ」


「はっ、最初から冷めてるし。何バカなこと言ってんの、たっちー」


 冷静なツッコミだった。


 ふむ、ツッコミスキルはそこそこありそうだ。だが、何だか冷たいツッコミだな。


「紗夜子は、なかなかにできるヤツだな」


「は?」


「いや、何でもない。こっちの話だ」


「あっそ」


 それにしても、会話のある食事って良いっ!


 たとえそれが無表情無感動に見える子であっても、食堂で避けられるのよりは百倍良い!




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ