浜中紗夜子の章_2-1
※この章は、二日目から始まるので、2-1からです。
なお、一日目は、上井草まつりの章と同じです。
果たして、生きていたのだろうか。
まだ生き返る余地があるのだろうか。
賑やかな世界に戻れるのだろうか。
一人きりの世界、その壁を崩して。
俺が出会った時、そいつは理科室の中で夢も希望も無いような目をしていた。
何とかしたいと心から思った。
★
「ようし、サボろう」
俺は呟いた。
サボるのは得意だ。
何故サボるのかといえば、学校に行く気がしないからだ。
昨日あった出来事を振り返れば、俺がサボる道を選択するのも頷けるというものである。
昨日は、屋上で紅野明日香とか名乗る変な女子に頭上から踏み潰されるようにして蹴り倒されされた上、職員室に呼び出され、職員室前で上井草まつりとかいう女に撥ねられ、教室では自己紹介でスベり、クラスメイトたちに聞こえよがしに陰口を叩かれまくり、笠原商店で靴を受け取ったはいいものの、下らない冗談を言ってしまったがために、笠原みどりに叱られた。
散々すぎた。落ち込んだ。
新しい学校に転入してきてまだ二日目ではあるが、新しい世界に馴染める気がしない。
そして男子寮でも皆に避けられ続けている感じがして、もう嫌だ。
だから、サボる。サボタージュである。
もう登校なんてしないのである。授業なんて、受けないのである。
さて、そうと決まれば、どこでサボろうか。
しかし、ううむ。特に良さそうな場所は思いつかなかった。
「よし……」
サボると言いつつ学校に行くか。
いいや、勘違いしてもらっては困るぞ。
俺は登校するわけではない。学校には行くが、授業をサボるのはもう決めたのだ。一度決定したことは曲げない!
俺の男らしい部分がほとばしるぜ。
さぁ、というわけで、寂れた商店街や、回転する巨大な三枚羽の風車が草原に建ち並ぶ中を突き抜ける、心臓を破るくらいに急な坂道を登って、学校に来た。
堂々と登校したが、所属するクラスである三年二組には向かわない。
何故なら、サボることは、決定事項だからだ。
何というか、昨日スベったからな。転校の挨拶で。
もう、教室がこわいんだ俺は。集団のシラけた空気という名の現象がトラウマとなってしまって、もう教室なんておそろしいんだ!
で、廊下に来た。
どこの廊下だかわからん。
何せ、まだ転校二日目だからな。
この学校のどこに何があるかなんてサッパリだ。
適当にぶらぶらしていると、何だか良い匂いがしてきた。
何だかイタリアンな匂いだ。
トマトが加熱される匂いというかな……。
すげぇ美味そうな良い匂い……。
だが何故?
まだ授業が始まっていないから調理実習というわけでもないだろう。
料理部の朝練とかか?
そんなの聞いたことないぞ。
「気になる……」
気になるので、俺は匂いのする方へと向かった。