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笠原みどりの章_プラネタリウム-2

 特に、俺が何をするでもなく、二日が経った。


 工程はもう大詰めである。


 俺は町を歩いていた。


 みどりに「布を集めて」と頼まれていたものの、まつり様がひと睨みしただけで体育館いっぱいの布が集まったので、俺の役に立てることはなかった。


 まつりに負けた気がして少し悔しかった。いや嘘だ。少しどころじゃない。かなり悔しかった。


 みどりの計画は進み、街中から色んな種類の布が学校に集まった。


 シーツ、布団、衣服、時々ぱんつが混じったり。


 で、それを多くの人が縫い合わせていて、街を歩くと、道端のそこかしこで針仕事をしている人が見えた。


 まるでどこかの戦場で、屋根のある家を失ったゲリラ兵や現地住民等が色んな場所で休息しているかのようだ。


 銃が縫い針に代わっただけで、それは戦いと呼んでいいかもしれない、なんてのは言いすぎだろうか。


 そんな中、俺を含む針仕事のできない人間の仕事はといえば……。


「キミは、北の端っこ。で、キミは西の学校裏で。あ、若山さんは、お店の人でも使って南側にアレを運び込んで。車使っても良いけど、風に注意ね」


 言って、まつりは若山さん達に土のうのある場所を指差した。


 土のうってのは、中に土が入っている袋。よく洪水とかの時に活躍するアレである。


「おう、わかった。今車持ってくる」


 っていうか、明らかに年上の若山さんすらこき使ってるぞ。


 さすがまつり様だぜ。


 と、若山さんが俺に気付いて近づいてきた。


「おう、アブラハムじゃねえか」


「それ、やめたんじゃなかったですか?」


「いや、すまん。ついクセでな」


「どんなクセですか」


「はっはは。それで、何してるんだ、こんな所で」


「俺も、何か手伝おうと思ってですね……」


 それで、荷物を運んで置いてくるという働きアリのような行為を繰り返しているのだ。


「それは、良い心がけだな」


「若山さんこそ、何してるんですか」


「いや、何つーかな、いいじゃないの。皆で同じ方向に向かって何かをやるってのがさ。おれは結構そういうドラマチックに弱い体質でな」


「そうっすか」


「ま、南側は、おれの店の従業員を総動員だからな。任せておけ」


 親指立ててそう言って、去った。


 背中を向けて手を振りながら。


「…………」


 そう、俺たち針仕事をできない人間は、土のうを運ぶ等の力仕事についている。


 何のために土のうを使うのかと言えば、簡単に言えば重りである。


 布製のドームで街の上を覆うんだとして、布を地面で何とか押さえていないといけない。


 街の周囲を囲むには、人間だけでは少なすぎる。


 そこで、布の端を押さえるための重りとなるものを用意することになった。で、上井草まつりを中心に、裁縫もできない連中が肉体労働に従事しているというわけだ。


 土のうをひたすら運んでは置いて、運んでは置いてを繰り返し、まるでピラミッドを建造する奴隷にでもなった気分だぜ。


「まつり、次の土のうをくれ」


「おそいっ!」


 そんなこと言われてもな。


 で、行って、戻って、暴言吐かれて、行って、戻ってきた。


「はぁ、はぁ……何で俺だけこんな大変なんだ」


 俺はリーダーであるまつりから、学校と街の北側にある「土のう産地」との往復を命じられていた。それはつまり、あの商店街前の大変な坂道を往復することに他ならず、しかも、重い重い土のうを抱えて登るという苦行だ。


 学校には、みどりが居て、校庭で何かを一心不乱に作っていた。球体のダンボールにカッターを入れてて、なんだか集中してるところを邪魔しちゃ悪いと思い、俺も頑張って土のうを運ぼうと思い、重たい物体を取りに戻った。


 もうこれはね、みどりに対する愛が無ければできないことだよ。


 フラフラになりながら、まつりの前に行くと、そこで、俺は衝撃的な言葉を聞いた。


「あ、ごめん、達矢。学校に土のう必要なかったわ」


 うぇーい!


 体力と時間の浪費ー!


 上司がダメだと部下が苦しむ!


 社会の縮図!


「何よ。何か文句あるわけ? 謝ったでしょ」


「文句が無えわけ無えだろうがっ! このダメ上司!」


「は? 殺すぞ?」


「すみません……」


 疲れてしまって、逆らい切る余裕も無かった。



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