笠原みどりの章_プラネタリウム-1
朝、朝食を摂って、部屋で登校の準備をしていると、街中に放送が流れた。
『おはようございます。生徒会長の伊勢崎志夏です。皆さん、大切なお話があるので、至急、学校の校庭に集合して下さい』
風に打ち消されることなく、俺の耳にも志夏の声が届いた。
『繰り返します。学校の校庭に集合して下さい』
志夏って、一体何者なんだろうか。
で、学校に行くと、授業が中止されていた。
そして学生だけでなく、街の住人たちも皆、校庭に集まっているようで、人口密度が日本シリーズの外野スタンド並だった。
ちなみに、笠原商店に寄ったのだが、店に貼り紙がしてあって、それによると、
『達矢へ 先に学校に行ってます。 byみどり』
だそうだ。
わざわざメッセージを残してくれるのがうれしい。帰りにあの貼り紙を剥がして持ち帰った後、額に入れて部屋に飾りたいぜ。
「にしても……すごい人だかりだな」
人だまりって感じだ。
と、その時だった。
朝礼の時に使うような、一メートル半くらいの高さがある台の壇上に、誰かが上った。
「あれは、えーと……」
志夏だった。
片手に拡声器を持っている。
で、そこから伸びるコードの先、マイクを口元に当てて、
「あー、テステス……」
マイクテストしていた。
「オーケー?」
誰かに訊いた。
「おっけー」
みどりの声がした。
そして、大きく息を吸って、吐いた。
深呼吸していた。
志夏の話が始まる。三千人超の、住人に向けて。
「えー、本日、お集まり頂いたのは、昨日皆さんのお宅にも配ったので目を通してもらえてると思いますが、『プラネタリウム計画』のことです。この町は街灯も多くて夜でも明るいから、本当の星空を見たことのある人は少ないと思う。都会から来た人もそう。夜でも明るい街の光で、満天の星空を知らない人も多いと思う。そこで、、町全体を、プラネタリウム化しようと思うの。知っての通り、この町の電気は全て風車から得られるもの。風車が止まれば、電気が通らなくなって、町の明かりは消えてしまう。それを利用して、夜、暗闇の中で、人工の星空観賞をしませんか?」
ざわついた。
多くは批判的な響きに聴こえる。
「そんなことして、どうするのかしら……」女。
「何が目的で……」主婦。
「エコ的にも……」女。
「報酬はもらえるのだろうか……」主夫。
「ってかプラネタリウムってなにー?」ギャル。
「あれじゃね? ほら、理科とかの物質」不良A。
元素のことだな、アルミニウムとかマグネシウムとか水素とか。確かに似てるけど全然別モンだぞ。
「Aくんチョー頭よくなーい?」ギャル。
「はっははは! まぁな!」不良A。
全然頭よくねーよ。
「お願い、皆。力を貸して!」志夏は言った。
しかし、誰も協力的な声を発するものはいない。
どうしたもんかな。
と、その時――
志夏の背後から、誰かが壇上に上がった。
あれは……まつり様じゃないですか。
そして、無言で志夏の横に立った。それだけ。それだけで、民衆が黙った。水を打ったように静まり返る校庭。
そして、更に、二人の背後から、誰かが壇上に上がった。
あれは……みどり様じゃないですか。
そして、みどりは、志夏からマイクだけを受け取り、
「皆、おねがいっ!」
と言った。
そして、志夏にマイクを返す。
「ワァアアアア!」
何故か、湧いた。民衆が。
何この、新王国建国みたいな雰囲気。人々を睨みつける上井草まつりと、手を振る笠原みどり。伊勢崎志夏は拍手をしている。
結局、どうなったんだ。
プラネタリウム計画は実行されることになったのだろうか。
まぁ、まつり様がやれと言えば、きっとやることになるんだろうな。
なんたって、番長だからな。
いや、しかしまぁ、それにしてもな……みどりは輝いてるな。