笠原みどりの章_7-6
イチャイチャしているうちに、笠原商店の前に着いて、立ち止まって話す。
「なぁみどり。今度こそお父様にご挨拶したいんだが」
「今、居ないわよ。商店会の会議で」
「そうなのか」
「そう」
もしや、それで朝あんなに騒いでも介入して来なかったのだろうか。
「あ、そうだ。そういえば、放課後の用事って、何だったんだ?」
「…………忘れてたっ!」
やっぱりな。そんな気はしてた。
「何だ? 俺にできることなら何だってするぞ」
「本当? じゃあ、とりあえず……」
みどりは言って、ゴソゴソと鞄を漁る。そして、一枚の真ん中に折り目のついた紙を取り出し、
「これ」
言って手渡してきた。
「何だ、これは」
ガサガサと紙を開いて目を通す。
『プラネタリウム計画のお知らせ』
という文字。
「何だ、これは……」
これを見せられただけでは何が何だかわからんぞ。
「読んでみて」
「『この街をプラネタリウムにしよう』『星空の一夜を』」
読んでみた。
みどりは言う。
「プラネタリウムって、知ってる?」
何回か行ったことがあるが、リアリティの無い満天の星空だったと記憶している。
「科学館とかによくあるやつだろ。星空をバーチャルに再現する装置だ」
「そうらしいわね。それを、やってみようと思って」
「え……? でも、プラネタリウムって室内でやるだろ。そんな施設あるのか? この小さな街に」
「ないけど」
「ないのに、どうやって……」
「街を、ドームの中に包んじゃうの」
「なっ……それって……」
俺が出したアイデアってことになるんじゃないか。
「そうだよ。達矢のアイデア」
「可能なのか?」
「級長が、『できるわ』って言ってた」
絶対無理だと思うんだが。
「やっぱり、証明したいからさ。この街の空気が汚染されていないこと。本当の目的は、そっち。それでデータをとって国だか政府だかに突き付けてやろうと思うの」
「なるほど」
「この町のことを悪く言う人なんて……」
「みどりが、生まれ育った街だもんな」
「うん。あたしはやっぱり、この街が好きだから」
俺も協力しよう。
「それで、俺は具体的に何をすれば良い?」
「あ、そうだ。それを言わないと何も始まらないよね」
「ああ」
「布をね、集めて欲しいの。できるだけ多く。どんな布でも良いから。とにかく。ドームを包む屋根をそれで作るから」
「それだけで良いのか?」
「うん。学校の、体育館にそれを運んで、縫い合わせるの」
「なるほど……」
それで街丸ごとを包むドームを作るわけか。
実現不可能だとは思うが、やってみる価値はあるだろう。
まして、冗談めかして言ったこととはいえ、俺が漠然と考えたものを、みどりが実行しようとしてくれているんだ。なんか、ロマンがあるじゃないの。
「タイムリミットは、あと三日くらいかな。うん。三日で出来る限りのことをして、街をプラネタリウムにするの」
「明日、級長と一緒に学校で詳しい話をするから」
「よっし!」
俺は言って、グーの手でパーの手を叩いた。
「待ってろ、体育館を布でいっぱいにしてやっから」
「うん!」
プラネタリウム計画、始動。




