笠原みどりの章_7-5
掃除、終了。
「よし、行こうぜ、みどり」
「遅いっ!」
おこられた。
「すまん……」
ゴミ捨て当番ジャンケンに敗北して、俺一人だけゴミ捨て場まで往復した分だけ遅れたのが気に入らないらしい。
ジャンケンなんだから仕方ないじゃないかと言いたい。
「それで、何なんだ、みどり。放課後の用事って」
「それは、帰りながら話すよ。もう時間ないから」
「そうか。わかった」
というわけで帰り道。
俺とみどりは、風車の並ぶ急な坂を下る。
時計回りに回転する風車の、機嫌よさげにリズミカルな音色を聴きながら。
と、みどりの視線を感じる。ジトッとしたやつだ。
「…………何か、言いたいことでも?」
「いやーそれにしても、がっかりだなー。まつりちゃんの言いなりになっちゃって」
「だが、逆らったら痛いだろ絶対」
「約束だったのになー」
口を尖らせている。
「しかし、まつり様に逆らうわけにはいかない」
「あたしよりまつりちゃんの方が大事なんだ」
「お前キャラ変わりすぎだ。もっとおしとやかで大人しいかと思ったら……」
こんな、しなやかアンドしたたかガールだったとはな!
「勝手なイメージで決め付けてただけじゃん。あたしは、ちょっと人見知りするだけ。それとも、こういうあたしは、嫌いってこと?」
「絶対にない。嫌いなんて、そんなことは絶対に」
大好きだ。
「そ、よかった」
笑顔。
「ちなみに、言っとくけど、この町にそんな、おしとやかで大人しい子なんて、居ないからね」
「変な奴ばっかってことだな」
「そう」
また笑顔。それは、はじめて会った頃とは違った笑顔。みどりが笑うと、ドキっとする。本当に、本当に好きだと、また確信した。
思うに、「好き」っていう感情は、好きな気持ちを何度も確信して少しずつ大きくなっていくものだと思うんだよ。
本当に少しずつ。
他の人からすれば同じに見えるくらいに、でもその変化は俺にとってはとてもとても大きいものだと感じる。
見上げた風車はいつもと同じみたいな回転を続けている。その向こうにある空では、雲が高速で流れている。この風景が、好きだ。好きになった。いつの間にか。
でも、でも……いつか、いつか俺はこの街を出なくてはならない。
そして、その時は……。
「みどり」
「何、達矢」
「いつか一緒に、この街を出ないか?」
彼女は戸惑ったような無言を返してくる。
「今すぐとは言わない。遠い未来か近い未来。いつか、俺がみどりに相応しいくらいの人間になれたら、その時に、一緒に、この街を出ないか?」
「……うん」
彼女は大きく頷いた。
そして言うのだ。
「約束ね」
俺は彼女の手を握り、歩きながら恥ずかしいのを誤魔化すようにして、
「好きです」
「あたしも、好きです」
幸せだった。
二人して顔を赤くしての下校道はもう、本当に幸せだった。本当に本当に、こわくなるくらいに。