笠原みどりの章_7-4
「起立! きをつけ! 礼!」
志夏のキリッとした号令によって挨拶を終えた。
放課後になった。
で、可愛いあの子が駆け寄ってきた。
「達矢。約束おぼえてる?」
「当然だ! みどりとの約束を忘れるわけがないだろう」
「じゃあ、行こう。行こう」
もう、俺にべったりだな、コイツは。
とか言って、俺もみどりにべったりなんだけどな。
みどりも俺も、バカップルの才能があるかもしれん。
で、一緒に帰ろうと教室を出たところで、
「まちな!」
こわいあの子の声がした。
廊下で呼び止められてしまった!
「な、何ですか、まつり様……」
「掃除当番、代わりにヨロ」
「いや……『ヨロ』じゃねぇですし……」
まじで困るんだが。
「今、達矢に与えられたのは、『はい、まつり様』と返事をする権限だけ」
みどりの視線が刺さってる気がする。
「人権はいずこ」
「あたしが風紀委員。キミは風紀委員補佐。そして風紀委員には、その補佐の生殺与奪の権利がある」
「初耳っすけど」
「今考えたもん」
「あの、今日はカンベンしてもらえませんか?」
俺は言った。
「やだ。掃除きらいー」
俺だって好きじゃねえよ。
「たまには掃除も楽しいと思うよ。ほら、風間と一緒にさ」
「言っておくけどね、あたしに掃除させたら机とか椅子とか人とか、いくつか再起不能になるけど?」
「どういうことだ、それ」
「ついつい、壊しちゃうのよね」
「どんだけだい」
つか、人を再起不能にするな。冗談でもこわいから言うなっての。
「とにかく、キミは黙って掃除しなさい。みどりも貸してあげるからっ」
「みどりはお前のもんじゃねえだろ」
「まぁね。それじゃ、あたしはこれでっ!」
「あ……ちょ、待てよ!」
しかし、廊下を颯爽と走り去っていった。
みどりさんが、ジトッとした目で見てる気がする。
「掃除、サボッていいっすかね……?」
みどりさんに訊いてみた。
「あたし、美化委員なの知ってる?」
「はい……訊いてみただけっす」
と、その時、目の前を知っている女子が通りかかった。
なので、呼び止めてみる。ダメもとで。
「あ、志夏」
「ん? 何、達矢くん」
「掃除当番、代わってくれないかなー、なんて」
「は?(怒)」
怒られた。無表情で。
「いえ、何でもないです……」
「そう。私、忙しいから、他の人にお願いして」
「はい、すみません」
「じゃ、また明日ね」
言って、志夏は颯爽と廊下を歩き去って行った。
なんだか背中にみどりの視線を感じる。
「あの、みど――」
「待ってるから、掃除して来てよ。皆、もう掃除はじめてるよ」
「はい……」
ていうか、風紀委員補佐って、何も良いこと無えじゃねえか。




