笠原みどりの章_6-4
「はい、それじゃあ以上。級長、号令を」
「はい」
志夏は立ち上がり、
「きりーつ。きょーつけー。れいー」
気まぐれな志夏らしい脱力系の挨拶をした。この間はキリっとしていたが、今回は一転して面倒くさそうな挨拶だ。
教室中の生徒が頭を垂れる。で、俺も頭を下げて、放課後となった。
「よし、みどり。帰ろうぜー」
と、俺が声を掛けると、
「まちなっ」
違う奴が反応したよ。
「何だよ……」
「お前は掃除当番だ」
上井草まつりは俺を指差して言った。
「はぁ、何言ってんだ。先週掃除当番だったんだから、今週は違うはずだろ」
「そう、あたしの班が掃除当番なんだよね」
「まさか、お前」
俺に代わりに掃除をさせようとでも言うのか。
「『お前』とか言ってんじゃねえよ。『まつり様』だろうが」
「はいはい、まつり様、まつり様」
俺は溜息混じりに適当に言ったのだが、
「じゃ、よろしくねっ」
上機嫌で去っていった。どうやら「まつり様」というワードが引き出せれば、他の態度とかはどうでも良いらしい。
「そして、みどりは、あたしと帰るから」
何だと。
「え? あ、うん。いいけど」
何だと!
待っていてくれないというのかっ!
「さあ、帰ろう、みどりちゃん」
言って、ふははと笑いながらみどりの手を握って去っていく。
く、悔しい。
あれか、俺がみどりのことを好きだということがわかって、わざとやってんのか、まさか。
「達矢さん。箒を……」
風間史紘は言って、箒を手渡してきた。
「あ、ああ……」
受け取る。
「これが、風紀委員補佐というものですよ、達矢さん」
「まつりは、ひどい女だな」
「ええ。僕もそう思います。まつり様はひどい女です」
風間史紘は笑顔で言った。
こいつ、本当にそう思ってんのか?
笑いながら言うことじゃねえだろ。