笠原みどりの章_6-1
通学路。追い風の上り坂を登る。
反時計回りの風車並木を見つめながら、平らかな道から上り坂に差し掛かった。
さて、転校六日目である。
俺の感覚では、もう転校して一ヶ月くらい経ったんじゃないかってくらい色濃い日々だった。
だけども、そんなことより……みどりが可愛い。
そしてみどりのお父さんとの関係を何とかしたい。
今の俺の懸案事項はこの二つくらいのもので、自分をふと客観的に見てみたら、恋してるんじゃないかって疑惑に行き着いた。疑惑というか、確信に限りなく近い。目を閉じれば、彼女の顔が浮かんできて、抱きしめたくなるわけだが、妄想の中の彼女はただ微笑むばかりで、近づく事すら難しかった。
妄想さえも思い通りにならないか、俺っ!
このヘタレッ!
「おはよう、達矢くん」
おっと、そんなことを考えているうちに笠原商店の前まで来たらしい。
「よう、みどり。今日も可愛いな」
言った後……硬直した。誰が硬直したかって、俺がだ。
「……………………」
後ろに、父が威圧的に立ってるんだが!
「そんなお世辞言わないでよー」
「お、お世辞などでは断じてないぞ」
「……………………」父は黙っている。
「そう? ありがと」
彼女の頬に紅が差してたりして、笠原父が超にらんでたりして、俺は平静を装ったりして。
しかしながら、やはり挨拶はしておくべきだろう。
「お父上様もご機嫌うるわしゅう」
緊張しすぎてフザケた挨拶になった。
ばかっ。俺のばかっ。
「え?」みどりは振り返り、「お父ちゃん! 何してんのっ。開店の準備は?」と言った。
「何を言うか! 店などより娘の方が大事だ!」
「あのねぇ……昨日も説明したでしょ。達矢くんは何も悪くないの」
「いや、この男はお前と触れ合いたいがために、故意に転びそうになり、抱きついたんだ」
どこまで詳細に喋ってんすか、みどりさん……。
ていうか、そういう手もあるのか。勉強になるな。
「そんなわけ――」
言いかけて、俺の顔を見たみどり。後、すぐに父親の方に向き直った。
「ほら、見ろ。こいつの締まりの無い顔を。いかにも故意にやりましたって顔してるだろ」
「違うよ。あの顔は、その手があったかって顔だから、あの時は故意じゃなかったんだよ」
心を読まれただと?
「父親としてみどりを守りたい。だから今日は学校に授業参観に行く!」
そして、
「いい加減にファーザー!」
「譲れないさドーター!」
介入できない親子言語で会話し始めた。
「――――!」
「――――――――!」
俺を指差したりして。
「――――――!」
大き目のジェスチャーで憤りを表現したりして。
「――――!」
道行く人々の視線を集めながら。
「――――――――――!」
そして、その結果。
「お父ちゃんのわからずや! アホ!」
小学生的な罵り言葉で無理矢理に会話を切って、
「行こう、達矢」
「お、おう……」
俺を引っ張って緩やかな坂道を登った。
笠原父は、ついて来なかった。