笠原みどりの章_4-4
二人、歩いて、寮の門の前に立った。
みどりも俺もずぶ濡れ。
しかも、気付いたらみどりに傘を持たせていた。
全く、申し訳ないことこの上ない。
生きているのが恥ずかしい。
俺さえ居なければ、みどりは濡れずに済んだというのに。
ああ、もう、生まれて来なければよかった。
「……ごめんなさい」
「そんなに謝らないの。あたしもたまに転ぶもの」
慰められていた。みじめだ。
「いや、例えばみどりさんがよく転ぶんだとして、そういった場合、それを助けるのが、男性たる俺の役目なんじゃないっすかね……なんて……」
「気にしないでってば」
「それは……無理な相談だろ……。申し訳ねぇ……」
俺は弱々しく言った。あまりにも情け無い自分が嫌い。
「はい、傘」
と手渡してきた。
「いや、でも女子寮まで少し距離が……」
「もう関係ないくらい濡れてるから大丈夫」
そのセリフ、俺にとっては大丈夫じゃないっす。
消え去りたくなります。
「すみません……」
「ああ、もう、そんな達矢くんキライになりますよ?」
「なっ――!」
「それじゃあバイバイ!」
言い残して、土砂降りの雨の中を走り去って言った。
転ばないか心配して見送った後、俺は男子寮にある自分の部屋へと向かった。
寮の玄関の傘立てに、緑っぽいビニル傘を立てる。
更に玄関にはバスタオルが用意されていて、そこで全身を雑に拭いて、靴と靴下を脱いで絞った。
水がザバーっと出て玄関の土足可領域に水たまりを作った。
ついでに服も脱いでパンツ一枚になり、服を絞る。
水たまりは川になった。
で、そんな寮の床が濡れないように気を利かせた行為の後、部屋に戻ってシャワーを浴びた。んで、普段はシャワーだけなのだが、雨に打たれまくって体が冷えたので風呂釜に湯を張って浸かった。ユニットバスだからな。風呂釜も存在するのだ。
そして今、部屋で寝っ転がって天井を見つめているところだ。
阿呆な自分を叱りながら。
何で俺は、転んだりしたんだろうか。もうね、本当どうしようもない奴だな、数分前の俺は。
みどりに嫌われたんじゃないかって、もう、こわくてたまらない。情けない奴と思われて蔑まれたりしてないだろうか。まつりと比べられてガッカリされてないだろうか。笠原父に今日の出来事を報告されたら、怒られないだろうか。級長である志夏に報告されたら、級長権限でトイレ掃除とか命じられないだろうか。
また、お詫びしなければならないことをしてしまった。
俺はいっそこんなんばっかだな。
バカだな。バカバカだ。
ダメだ。俺ダメだ。
ああ……落ち込んできた。
寝よう。
こうなれば寝るしかない。
俺は押入れの上の段から布団を引っ張り出して敷き、しくしく泣きながら布団にくるまった。
そして、いつの間にか眠った。