かいこうと、さいかいと。
彼女との邂逅から数分。
若干混乱した俺たちは、とりあえず落ち着くために、
そこらにあった椅子に座り向かい合っていた。
「えーっと……、要するに、アンタも俺も同じ夢を見てたってことで良いのか?」
「……えぇ。」
「珍しいこともあるなぁ……。あ、俺は一年B組の久遠真司。名前を聞かせてもらっても?」
ちなみに蓮司は同じクラス、柊はC組である。
「……八神 奏。二年B組。」
「っと、先輩でしたか。失礼しました。」
八神奏と名乗った彼女は基本的に無表情だった。
ニコリともしない。それに……どこか表情に仮面を被ったような感じがする。
「いい。構わない。」
「えっと……敬語を使わなくてもってこと?」
聞くと八神先輩は無言で頷く。
「じゃあ……敬語抜きで話させてもらうな?」
また頷く八神先輩。
どうも調子狂うな……。
日頃から蓮司みたいなのばっか相手にしてるからだろうか。
それから俺たちは十分ほど話をして別れた。
といっても彼女の方から話すことはなく、
俺が質問して彼女が答えるだけだったのだが。
それでも別れ際には手を振ってくれたし、嫌われてはいない……と思う。
しかし少々‐‐疑問が残った。
彼女にピアノの質問をしたときだけ、表情に陰りが見えたのだ。
俺の気のせいかもしれないが‐‐
それでも俺は、彼女が見せたどこか悲しそうな表情が頭から離れなかった。
次の日。
俺はいつも通り登校し、いつも通り蓮司に絡まれていた。
「真司ー!!なんで昨日帰っちまったんだよっ!!
おかげで俺は一人でとぼとぼ帰る羽目になったじゃねぇか……」
「いや、お前がいきなり走り去ったからだろうが……。
つか朝っぱらからギャーギャー騒ぐな、疲れる」
「あれは追いかけてくるかなーと思ったんだよ!
そのくせ曲がり角のとこで一時間ぐらい待っても、ちっとも迎えに来ねぇし!!」
「追いかけてこないのは五分で気付け、ドアホ」
蓮司の戯言に嫌気がさして、俺はさっさと睡眠に入った。
蓮司が引き続きギャーギャー騒いでるのを、蹴りで沈めてから‐‐
「……きろ、起きろって!早く起きろよ、真司!!」
「……んぁ?」
蓮司に起こされて目が覚める。
「昼まで寝る馬鹿が居るかっ、ったく……担任のヤクザすんげぇキレてたぞ……
そのくせお前は何やっても起きねぇし……」
「あぁ、もう昼休みか……」
「はぁ……そういえばお前はそんな奴だったな……。
もういいや、柊に声かけて食堂行こうぜ。」
「あいよー……」
寝惚け眼のまま蓮司とC組に行く。
柊は血走った目でゲームをしていたが俺らの姿を認めると、
ゲームを中断してこちらへ歩いてきた。
「おまたせ、それじゃあ行こうか……って、真司随分眠そうだね」
「この馬鹿、朝のHR前から今まで寝てやがったんだよ……」
「あはは……そりゃまた、真司らしいね。
まぁ、起きたんならそれで良いじゃない、さっさと食堂に行こうよ。」
こいつらの言う俺らしいってのは何なんだ……。
まぁ何はともあれ、いつもの面子が揃った俺たちは食堂へ向かった。
「あー……」
「うげー……」
「うわぁ……」
上から俺、蓮司、柊だ。
食堂の中にはそれこそゴミのように人が居た。
座るところも満足に見つけられるかどうかすら怪しい。
「大体予想はしてたけど……予想以上に人が多いね」
「面倒だが……、とりあえず席探すか。相席でも良いから探そう」
俺がそう言うと、二人共承諾して散り散りになった。
さて、どこを探すか……。
辺りを見回すと、人、人、人……。
隙間なんぞ全くない。
適当に辺りを見回していると、携帯に着信が入った。柊だ。
『もしもし、真司?相席でオーケーな人見つかったよ。こっちに来てね。』
……こっちってどこだよ。
とりあえず闇雲に歩き回ると、
苦笑しながらこちらに手を振っている柊を見つけた。
横にはなんか今にも面倒なことをしでかしそうな蓮司が居る。
「ヒャ、ヒャッ、ひゃっほおぉぉぉおおぉぉ「やかましいわボケナス」げぼらっ!!!」
なんか急に叫び出したので、
とりあえず後ろからドロップキックをかましておく。
「真司、良くやってくれたね。相席の人たち見た瞬間、
蓮司が急に様子が変わってさ……」
相席の人たち?
席に座ってる人を見やると、そこには一様に驚いた顔をした、
ショートカットの茶髪の気の強そうな女、
ツインテールの黒髪の小学生と言っても通じそうな少女、
そして‐‐
長い金髪を下ろした、絶世の美女、八神奏が居たのだった‐‐