まさゆめ。
学校の授業‐‐とはいっても、
まだ高校が始まって二日目だから教師の長ったるい話だけなのだが‐‐
それが終わり、俺は無理矢理蓮司の馬鹿に引き摺られて、校内の探検をしていた。
外からは運動部の声が聞こえてくる。
ちなみに俺と蓮司だけではなく、もう一人居る。
九条 柊‐‐こいつも蓮司と同じく、中学からの腐れ縁だ。
綺麗に整えられた茶髪、涼しげな目元にハーフフレームの眼鏡、
スラッとしたルックス……どこのモテモテ主人公だよ、と叫びたい。
……外見だけ見れば。
柊は中身は生粋のオタクなのだ。
柊の外見に惚れた相手が想いを告げても、
「ごめん、三次元に興味はないんだ。」
の一言で全てが終わる。
今だって携帯のギャルゲーの『楓ちゃん』を口説くのに必死だ。
「全く……もうちょっとでエンディングなのに……、
本当に蓮司は空気が読めないね。死んだら?むしろ死んでよお願いします」
「酷くない!?俺とエンディング、どっちが大事なのよ!?」
「え?それで蓮司を選ぶ奴が居るの?」
「ちくしょおぉぉぉおおおおぉ!!!!」
容赦なく真顔で蓮司をけなす柊と、けなされて男泣きしてる蓮司。
いくら大好きなギャルゲーを邪魔されたからってキレすぎじゃなかろうか……、
止める気は毛頭ないが。
「にしたってあれだよなー……、こんだけ広いと回れる気しなくね?」
速攻で立ち直った蓮司が言う。……あ、涙目だ。全然立ち直ってねーわ。
「じゃあ回ろうとすんじゃねーよ……」
「真司の言うとおりだよ。せめて僕たちを巻き込まないで欲しかったな」
俺と柊の非難に対して、
「だ、だって……」
「「だって?」」
「さみしかったんだもん!……てへっ☆」
……おえっ。
「死んでくれないかな?主に僕らのために」
「言い過ぎだ柊。……蓮司、今から目と耳を塞いでそこの窓から飛び降りろ。
例え誰が悲しもうと、俺だけは心の底から笑顔でいてやる」
心の底からの本心だ。
考えてもみろ、大の男が首をかしげて舌を出して、「てへっ☆」とか言うんだぞ?
吐き気を催して相手の死を望んでも不自然じゃないだろう?
「お前ら酷くね!?それと真司、それ遠回しに死ねって言ってるよな!?
ここ三階だぞ!?!?」
「へ?……何を当たり前のことを。」
「そんな可哀想なものを見るような目で見るなぁぁあ!!!」
……はぁ。やかましい。
もういっそこの馬鹿は死んでくれないだろうか、と心中で呟く。」
「聞こえてる!もろ口に出しちゃってるよ真司くぅん!!!」
「すまん、本音だ」
「反省ゼロ!?こんな誠意のこもってない謝罪がこの世にあるだろうか!?」
「あるじゃん、ここに。」
「誠意こもってない自覚はあったんだ!?
ちくしょお!!グレてやるぅぅううぅうぅぅう…………」
そう言って蓮司は走り去った。
ちなみに柊は蓮司には目もくれず、楓ちゃんの攻略に必死だったりする。
「やれやれ……蓮司は本当に馬鹿だね。
僕を引っ張り出した蓮司も消え去ったことだし、僕は帰るけど真司はどうする?」
「俺はせっかくだしもう少し回ってみるよ。
蓮司の馬鹿が言い出して始まったことだが、俺も少し興味があるしな」
「そっか。付いていきたいけど、携帯の電池がもう切れそうでね……。
悪いけど先に帰らせてもらうよ」
「構わないさ。それじゃあ柊、また明日な。」
「また明日、真司」
柊に別れを告げ、これからどうすべきか考える。
時刻は四時頃。静かな廊下に、まだ部活の喧騒が聞こえてくる。
すると、部活の喧騒に紛れて、どこかから音楽が聞こえてきた。
これは確か……
「夢で聞いた曲……?」
やっぱりそうだ!夢の中の女が弾いていた曲にどことなく似ている。
俺はその曲に誘われるように、曲の出処へ歩きだした。
「ここか……」
俺は曲をたどって、あの夢の通りの場所‐‐音楽室前に来ていた。
曲は変わらず鳴り続けている。
俺はゆっくりと、あの夢の内容に倣うように、
ドアを引く。
そこには予想通り金髪の女の後ろ姿。
曲が終わると俺が拍手をして、彼女がゆっくりと振り返る‐‐。
夢ならここで覚めた。でもこれは夢じゃない。
俺は初めて彼女の顔をこの目で見た。
彼女の顔は、人形のように整っていて、
それがどことなく冷たい印象を相手に抱かせる。
そんな彼女と俺は、ほぼ同時に口を開いた。
「夢と一緒だ……」
「夢と同じ……」
「「……え?」」
…………え?