神様の加護屋さん
「せっかくここに来たんだ、我の暇つぶしに付き合え」
それが、ブラック企業からこの田舎に来た俺-鴉羽直人28歳-の人生を、無理やり変えた神様の思い付きだった。
新卒から働いた会社は、テンプレ通りのブラック企業だった。珈琲より濃いその環境は、3年で俺の体重を減らし、精神もガリガリ削った挙句、仕上げとばかりに胃に穴を開けた。
気付いた時には病院のベッドで、横に大泣きの両親というオプション付き。
会社には散々引き止められたり、宥めすかされたが、診断書を盾に退職をもぎ取った。
気付かぬうちに病んでいた精神は、都会にいると無職になった自分を責められているように感じられ、貯金もあるしと心機一転田舎暮らしで静養することにした。
俺がお世話になる神代村は、山間にある静かな場所だった。コンビニという名の小さな個人店や、最寄りのスーパーまで車で1時間掛かりはしたが、何より村の人たちが良かった。
「自然には神様がいる」
そう心から信じている人たちで、山や風、雨にも、神様が宿ると教えてくれた。人との縁も大事にしていて、来たばかりの俺にも畑で取れた野菜をお裾分けしてくれたり、村をあげての歓迎会なんかも開いてくれた。都会で殺伐とした人間関係を築いていた俺には眩しくて、ちょっと泣いてしまったのは内緒だ。
教えて貰いながら自分の畑を作ったり、他の人たちの手助けをしたりしながら、少しずつ田舎の暮らしにも慣れた頃、突然それは起こった。
「あー、そろそろ何か仕事見つけなきゃな。幸いWiFiはあるし、パソコンで何か遠隔でも出来る仕事探すか...」
「なるほど。お金が欲しいのか」
「そうだな。貯金があるとは言え、ずっと働かないのはな...え?」
「ならば、我を手伝え」
部屋で瞼を閉じて仰向けに寝ていると、ふと独り言に返される声がした。誰か近所の人が来たのかと思っていたのに、思い当たりのない声にガバっと体を起こした...時には遅かった。
見渡せば、今まで家だった場所はどこかの店の奥みたいになっていた。
「な、なんで...え...俺の家は?」
「は?店をやるならそれなりの物が必要であろう」
ふと隣から聞こえた声に恐る恐るそちらを向けば、京藤色の着物を身に着けた黒髪の青年が憮然とした顔で座っていた。
「だ...だ、だれ?え?こんな人いた?」
「お主には、我の加護を売ってもらう。勿論、その金はお主の好きにすれば良い。与える加護は日に3つ。値段は...そうさな、加護によって決めるか」
「ちょ、ちょっと待っ...」
「そうそう。お主の家は、我と契約したことで変わった。つまり、我との契約を勝手に破棄した場合、家ごと無くなるからな」
「待てーーーーーーーー !!!!!」
不審者の登場にオロオロする俺を横目に、その不審者は淡々と何かの説明をしていく。頭が追いつかず混乱しているところに、「家が無くなる」という言葉に思わず大声でストップをかける。
「まず、誰だ!」
「神だ!」
「不審者か!?」
「愚か者!!」
勢いのまま尋ねても更に理解出来ず、不審者かと聞けば怒られる。結局、理解するのにそこから1時間掛かった。だって、信じられなかったし。どうやら、神様から加護を札の形で授けてもらい、それを人に売って生計を立てろということらしい。ただ、悪意を持って使おうとすると札は手元から無くなる。そのため、1週間はお試し期間として札を持ち帰ってもらい、消えなければそこで初めてお金を貰うことにした。
お金貰って札が消えたんじゃ、なんか悪徳業者みたいだしな。
「神様、この加護は?」
「これは、ちょっとだけ転びづらくなる」
「これは?」
「これは、誤って水溜まりに入っても必ず浅いものになる」
「変な加護ばっか...」
「失敬な!!」
こうやって、俺は村の人たちから「加護屋さん」として親しまれるようになっていく。
「加護が買える」なんて眉唾物のせいで、都会からテレビ取材の依頼があったり、強盗が入ろうとしたりもあったけど、いつの間にかなくなっていることを思えば、神様がなんとかしたんだろう。
「さて、じゃあ今日の加護を見せてくれよ」
「ほんに、お主ほど不遜な奴を我は知らぬ」
「お互い様だ」
俺は俺で、自分の住処を守るだけだ。
(店内にて)
直人「なんで、こんな微妙な加護ばっか?」
神様「村の者たちは年をとったものばかりだからな。強すぎる加護は、体や生活を狂わせることがある」
直人「へぇ、ちゃんと考えてたんだ!」
神様「当たり前だ!我を誰と心得る!」
直人「家を奪った不審者。後、強制労働させる雇用主」
神様「ほんにお主は...。敬うと言うことを知らんのか」
直人「敬えるかどうかは、また違うだろ?」
神様「.......」
☆☆☆
この話に出てくる神様は、山神様です。いつも敬い、尊敬してくれる村の人たちに、少しでも恩返しがしたくてこうなりました(笑)
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。




