キャップの代償
工場バイトの日。
蒼は紫ジャージ姿で、歯磨き粉チューブのラインに立つ。
コマのない平日を埋める、唯一の稼ぎ頭だ。
右手の長い中指が、今日も活躍するはずだった。
流れてくる白いチューブに、ぱちぱちとキャップを付ける。
単純作業。考える暇がないのがいい。
バイトリーダーが通りかかる。
「鈴木君、今日はまんじゅう注意な。」
「はい、大丈夫です。」
前回の失敗を蒸し返される。
差し入れのまんじゅうを、うっかりキャップ代わりに乗せてライン停止。
以来、「まんじゅう野郎」のあだ名がついた。
作業中、スマホが震える。
銀行アプリ。残高確認の癖だ。
23億の残骸を知って以来、金への執着が強まった気がする。
「食費、募金、髪のケア…」
優先順位を心で唱える。
ふと、ポケットに手を入れる。
朝、コンビニで買った肉まんが残っていた。
「腹減ったな…」
ラインを見ながら、無意識に肉まんを一口。
汁が飛び、右手が滑る。
次のチューブに、キャップの代わりに――肉まんが乗った。
ぽとん、と音がしてライン停止。
周囲が凍りつく。
「鈴木君!またか!」
リーダーの絶叫。
蒼は慌てて肉まんを剥がす。
チューブに赤い染みが広がる。
「す、すみません!」
工場中が騒然。
上司が飛んでくる。
「これ、廃棄だぞ!何やってんだ!」
蒼は頭を下げる。
ワカメが、汗でずり落ちそうになる。
「なるほど…失敗ってことか。」
罰金5000円。
今日の稼ぎが吹き飛んだ。
しかも、バイト後のハンバーグ代も消えた。
帰り道、財布の中身は100円以下。
駅の自販機前で、反射的に這いつくばる。
「10円玉…どこだ。」
諦めてベンチに座る。
スマホを取り出し、募金サイトを開く。
「いや、いい人になるか。」
送信。
残高ゼロ。
そして、いつもの後悔。
「金失って、トイレットペーパーすら得られないってこと?」
夜道を歩きながら、蒼は笑った。
父の言葉を思い出す。
紙はトイレットペーパーにもなる。
でも今日は、それすら買えない一日だった。




