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修活  作者: エフ


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2/13

23億円の残骸

磐田の実家に帰省したのは、先月だった。

静岡県磐田市。蒼にとって、地元は行政的な意味で嫌いな場所だ。

でもジュビロードの自虐的な魅力には抗えない。


実家のリビングに入ると、いつもの光景。

家族全員裸族。隠し事なしのルールで、誰も服を着ていない。

父はリヒテンシュタイン人、母は日本人のハーフ。

小学生の弟・新之助が床でゲームをし、中学生の妹・悠子がスマホをいじり、高校生の母の連れ子・美代が本を読んでいる。


蒼は上着を脱ぎ、紫のジャージを畳んで置いた。

「ただいま。」


「おかえり、お兄ちゃんだーい好き。」


美代の声は優しいが、皮肉が滲む。

彼女が蒼のワカメ抵抗のあきらめ悪さを一番嫌っているのは、周知の事実だ。

本人だけが、自分が連れ子だと知らない。


父がソファから立ち上がった。

「蒼、ちょっと話がある。」


家族全員の視線が集まる。

空気はいつも通り、父のジンバブエドル詐欺以降、ややぎくしゃくしている。

23億円を知ったのはこのときが最初だった。


「実はな、昔うちに23億円あったんだよ。」


蒼はワカメを指で押さえながら、固まった。

「…え?」


「ビットコインで一発当たったんだ。リヒテンシュタインの血が騒いだかな。」

父は笑ったが、目は笑っていなかった。

「それが、ジンバブエドルに全ツッパしてな。今の貯金は10万だけだ。」


沈黙。

新之助がゲームの手を止め、悠子がスマホを置き、美代が本を閉じた。

母は黙って紅茶を注ぎ足すだけ。


「紙ってのは、トイレットペーパーにもなるからな。」


父の締めの一言に、誰も笑わなかった。

蒼は頭の中で計算した。

23億。もし今もあったら。ハンバーグ一生分。抹茶ラテ無限。募金でいい人になれる額。

そして、のぞき趣味を週1どころか、毎日プロ級に楽しめる額。


「…なるほどってことか。」


つぶやきが漏れた。

美代がすかさず突っ込む。

「お兄ちゃんのそのワカメ見てると、23億あってもすぐ溶かす顔してるよ。」


「ひどいな。ぼくはちゃんと使うよ。食費と募金と髪のケアに。」


「優先順位がもう終わってる。」


悠子がくすくす笑い、新之助が「23億って何?」と純粋に聞く。

父が肩をすくめた。

「まあ、家族は大事だ。お前らみたいにドライでもな。」


蒼は頷いた。家族は大事。でも対応はドライ。

それが鈴木家の掟だ。


その夜、蒼は布団の中で考えた。

23億を失った父の顔。ぎくしゃくした空気。

でも、なぜか少しだけ燃えた。

「取り返すのも、悪くないかもな。」


翌朝、帰りの新幹線代を募金で溶かし、駅で自販機周りを這いつくばったのは、また別の話。

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