祝杯の紙切れ
内定式当日。商社本社ホール。
内定者と企業関係者だけが集まる厳粛な式。
スーツ姿の蒼は、控室で七三を整え、三陸産ワカメを念入りに固定した。
「今日だけはミスらない。」
部長の挨拶、新入社員代表の誓い。
蒼の番ではないが、心臓が高鳴る。
2027年春入社。就活の果ての栄光。
式後、部長が個別に声をかける。
「鈴木君、合格正式決定だ。『楽にお金稼ぐ方』の視点、期待してるぞ。」
握手。
汗で指が滑り――ワカメが部長の袖にへばりつく。
緑の海藻が、ネクタイに落ちる。
「これは…?」
「栄養剤です!三陸産で…」
部長苦笑。
「個性だな。明日、詳細聞かせろ。」
なんとか内定キープ。
だが、廊下でマヨちゅー発作。
チューブをポケットから出し、直飲み。
通りすがりの人事に目撃され、クスクス笑われる。
「最大の失態…でも、内定は残った。」
◆
夜、内定祝いの飲み会。
世田谷の居酒屋。家族、親友4人組、茉奈、カフェ軍団が勢揃い。
紫ジャージに戻った蒼、乾杯の盃を掲げる。
「内定もらったぜ!」
父がリヒテンシュタイン訛りで。
「お前も俺の23億みたいに、失うなよ。」
美代の皮肉。
「お兄ちゃんだーい好き。ワカメ落ちた話、動画で回ってるよ。」
悠子がスマホ見せ、笑いの渦。新之助「ひよこよりすごい!」
森山「それはいいですね、おめでとう。」
野中「てやんでぇ、金以外なら奢るぜ!」
秋葉「下賤なる栄光じゃ。」
茉奈と軍団が肉まん差し出し。
「下ネタ祝勝会、次カフェで!のぞき週1守れよ。」
「あのルール、中学からだっけ。」蒼苦笑。
宴たけなわ。蒼、銀行アプリ確認。
内定祝いの衝動。
「みんなに感謝…募金でいい人倍増!」
全額送信。残高ゼロ。
「…また電車賃なくなった。」
一同大爆笑。
父がトイレットペーパーを投げる。
「紙はこれになるんだよ。実用品だ。」
茉奈が肩組む。
「内定得て、金失って、TP得たね。」
蒼は受け取り、笑う。
M字はまだIじゃない。
食欲は続く。募金も。のぞきも(週1多分)。
失態の連続だった人生。
内定という未来を得て、威厳と金を失い。
家族、友情、トイレットペーパーを得た。
鈴木蒼は、明日から社会人。
紙切れのような日々を、使い切るために。
おしまい。




