プロローグ:白紙への祈り
吸血鬼の花嫁、開幕です。
よろしくお願いします。
冷たい雨が、古い教会の屋根を叩いている。 私は、村の市で手に入れた、一番安くて薄汚れたノートを膝の上に広げていた。
私の部屋には、明かりがない。 家族の笑い声が聞こえる階下から、微かに漏れてくる光の筋だけが、私の手元を照らしている。 今日もお腹が痛くて、夕食のスープを一口も受け付けられなかった。母様の「ため息」が、今も耳の奥にこびりついて離れない。
私は震える手で、真っ白な最初のページにペンを置いた。 このノートは、私の「遺書」になるはずのもの。 誰にも愛されず、誰の記憶にも残らないまま消えていく私の、唯一の足跡。
『○月○日。 神様、もしどこかにいらっしゃるなら、どうか教えてください。 お腹がいっぱいになるまで食べられるって、どんな気持ちですか? 痛みに怯えずに眠れる夜は、どんな匂いがしますか?
私には、明日が来ることが怖いです。
「ごめんなさい」という言葉以外、口にするのが怖いです。
もし……もしも。 私のこの、出来損ないの命でも、誰かの役に立てるのなら。 この痛みを、誰かが「大丈夫だ」と抱きしめてくれるのなら。
私は、たとえ地獄へ行くことになっても、 そこが私の「居場所」だと思いたい。』
ページの端に、一滴の涙が落ちた。 これが、私と、あの方との物語の始まり。 まだ「愛」という言葉の意味さえ知らなかった、一人の少女の、切実で孤独な祈り。
私はノートを閉じ、胸に抱きしめた。 明日、私は「生贄」として城へ向かう。 そこが私の墓場になるのか、それとも——。




