石へ沈む
低く垂れ込めた曇天に、白いものがちらつく季節になる頃には、しばしば離脱するようになっていた。起きている時よりも、身体を離れ彷徨っている時間の方が長くなって行ったのだった。
幽暗に沈む冬枯れのススキの原を、荒々しい寒風に乗り、粉雪とともに轟々と駆け巡る。
すでに、最後に食事をしたのがいつであったのかも、しかとは思い出せない。空腹も寒さも感じず、ただ吹き抜けるばかりである。
稀に意識がはっきりとすると、見知らぬ天井に、会ったこともない他人が覗き込んでいる。何やら話しかけられた気もするが、たいして大事なことでもないだろう。適当に瞬きを返して、ふたたび幽玄の世界に抱かれるために目を閉じた。
ベッドに仰向けになり、意識を背中から〝抜く〟。うなじのあたりから抜け出して、そのまま斜め下に滑り落ちていく要領だ。
蛹の背中が割れてそこから蛾や蝶が出てくるのに似ていなくもない。違いがあるとすれば、蛾や蝶は新しく得た翅を広げて大空に飛び立つのに対し、私は身ひとつで暗い地中に沈んで行くというところか。
中身が失われた抜け殻が、虚ろにとり残される点は似ていると言えるだろう。
抜け出た私の意識は、ベットマットのスプリングの隙間を知覚しながら、重力に引かれるように下方へと沈んでゆく。
一階にある寝室の床を透過すると、冷たい地面が意識の背中に触れた。
突き固められた地面に沈降速度は一旦緩むが、首筋から落ち込むイメージで、意識を染み込ませていく。
足の爪先を最後に小石混じりの土の中に全身が浸ると、後は楽だ。
あたかも川底から水面を見上げるように、地中から地面を仰ぐ。屋敷の真下、光のささない土の中で、見えるはずもない地上世界が遠ざかってゆくのがそれでも感じられる。
今は冷たさも感じず、浮遊感と、若干の息苦しさを覚えながら、頭を下に仰向けの姿勢でゆっくり落ちて行く。




