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石へ沈む  作者: つぶり


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庭石

 桜の季節が過ぎ、朝晩もだいぶ過ごしやすくなって来た。日に日に茂る草木の若葉を揺らす風が、開け放ったガラス戸を抜け、芽吹きの匂いと共に屋敷の中を吹き抜けて行く。

 私は会社を早期退職し、誰も住むものがいなくなって久しい故郷の家に、ひとり戻って来た。この家は私の代で絶えることになるが、資産の整理を進めていないことが、かねてから気にかかっていたためだ。仕事を安心して任せられる部下が育って来てくれたためでもある。私が抜けることで、部下たちはきっとさらに育つことだろう。

 早織との遠距離の交際は、互いの仕事が段々と忙しく、責任を伴うものになるにつれ、徐々に疎遠になり、やがて自然と終わって行った。しばらくは手紙のやり取りなどをしていたが、数年経つとそれもなくなった。若い頃を共に過ごした仲間として、どこかで幸せに生きているのならば、それで良いと思う。

 窓際にくつろぎ、庭を眺める。正面には大人が一抱えしてやっと腕が届くほどの立派な庭石があり、その上にはカナヘビが一匹、日向ぼっこをしている。まだ大人になったばかりの個体のようだ。

 過去のあれやこれやをとりとめなく想い起こしながら、いつしか私はまどろみ始めた。久しく忘れていた浮遊の感覚が、足先から腹、そして頭の先まで静かに昇ってきた。抜け出した私の意識は、風に押されるまま庭石に近づいてーー、気づくと私は石の中にいて、外の景色を見ていた。

 

 周りの景色は色彩を失い、目まぐるしく動き回っているのに、石の中は静寂が支配している。音というものが、この世界から完全に退いていた。まるで無声映画を早送りして、ついでにそれをスクリーンの裏に立って眺めているかのようである。

 全ての物事は、私と一切何の関わりもなく、無関係に進行して行く。私はそれを何の感情も持たずに受け入れ、ただ眺めるのみであった。



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