EP06 Awakening & Purification (覚醒と浄化)
避難した先は…
「已むを得ません…! 一旦この先まで跳びます…!」
少女はそう言うと速度を上げて扉へ飛び込んだ。
先程同様地表よりやや上空に出現しゆっくりと着地した。
「はぁ、はぁ…すっごいグラッグラに揺れてるカンジ…! ひろ! 大丈夫か?」
「ひろせちゃんは~のりモノ酔いないよぉ~♪ 大丈夫♪」
焔はアレはそう言うモノでは無いと思ったが敢えて聞き返さずに置いた。
「無事なら良い…! ハッ! アンタは…大丈夫か…?」
「ワラワはいつも乗りし故問題ありませぬ…」
「そうか、なら良かった。さっきはあんな理解不能な場面から助けてくれてありがとう! オレは焔、こっちは寛世…」
「ワラワは日向の姫巫女…ヒメと御呼び下さいませ…」
「ヒムカ? で、おヒメさまか! 確かにその品を感じる佇まいと物言いは…これでもっと髪が長かったらまさにって感じだよな♪」
「動き易き事…そしてかつての貴方様が短髪を好む故斯様に致しました」
ヒメの言に意表をつかれ焔は少し動揺してしまった。
「なんだって…? オレのコト…知っているの…か…?」
「…左様でございます…。遥かなる古代…エカンナィより存じております」
「…前世ってヤツか…? その刻のオレ…どんなだったんだい?」
「非の打ち処無き類稀なる優秀なヲノコでございましたわ」
微かに表情に変化を顕して…ヒメは応えた。
「そりゃご立派なコトで…今のオレが追い付くのは容易じゃなさそうだな…♪」
半分冗談めいて焔はそう言った。
「今世の貴方様は今世の貴方様としてイレンカ…ヲモヒの元に動かれれば良いのです…」
その言い回しに対しナニカを察した焔が尋ねる。
「…知っていても…言えない事が…けっこうあるカンジがするな。了解。ではまず、再度北海道めざし…オヤジも修業したアソコへ行くとするか! ちなみにここって…何処だかわかる?」
「…ここは…因果の導き受け入れしモノ住まう処…リクン=カントです…」
「リクン=カント…。確かアイヌ語で…“天界”…じゃなかったか?」
「…正確には天と地の狭間の世界でございます…。故に実体の身体携えて存在可能でございます…そして…地上ではすでに喪われたに等しき我々本来の権能揮う事叶う処でございます…」
「…ソウダァ! ダカラ我モココデナラバ全力揮ウ事ガ出来ルゾ!」
空間の裂け目より例の怪物も追いかけてきた!
「…なぁ…さっき言った…本当のチカラって…オレ等にも使えるのか?」
「勿論でございます。貴方様こそワラワ達の中、いち早くそのチカラに目覚めしお方でございます故」
「よし。どんなチカラでどんな作用? どうしたら出来る?」
「…その小剣に…ヲモヒ籠めてみられて下さいませ…」
焔は言われた様に試みたが…
「何も反応なさそうな気がするが…?」
「構わず集中されて下さいませ。その間は…ワラワが彼奴を食い止めます…!」
「そいつはムリ…じゃ、無いんだろうなここで使えるそのチカラがあれば…!」
「左様でございます。まずはすべての素となる氣力、これを放ち身体に纏う事叶えば、一般民とは次元の違う強さが得られます。そして霊力…観えざるモノへ干渉可能なチカラです。これらを融合発動して放つのが…神威への入り口…輝く根源の力でございます」
「ようは物理特化が…トゥム、精神的…霊的特化がヌプルか…! じゃぁ今は…!」
「イレンカ抱きし通りでございます。具現化したモノ相手に最も有効な…」
「トゥム、か! よし! そのイメージで集中してみる!」
納得した様な面持ちで焔は再度集中し始めた…。
「アレだろ? チカラ目一杯出す刻のカンジ…はぁっ!」
瞬間両手から輝くナニカが小剣に吸い込まれて行き、そのチカラを受け変貌していく…。
「…! 今度は…大剣だなコレは! こんな事があって…出来るなんて…な!」
「次はそれを身体全てで行うように試みて下さい!」
言われるままにすると今度は身体中から先程の力が迸り全身を覆う。
「見事でございます…が、恐らく長くは持ちませぬ。ワラワのチカラ上乗せいたします故、恐れず迷わず断ち切って下さいませ! 付与霊呪! 剣よ! 悪しきのみ断つ神威となり給え!」
(…そうか…コイツってさっきの彼女だもんな…。…。…! 信じて…やるしかないよな!)
焔は迷いを断ち切り突進する。
その踏み込みはあまりに速く観るモノの視界を置き去りにした!
「え? ほ、ほむら消えちゃった~!」
数十mはあろう距離を瞬時に追い詰め背後をとる。大上段に構えて全力で振り下ろした!
「エポッパ イケスケ ウェンプリ アルステッカ ポタラ! エイタクエチゥ ウェンカムイ アルキタレ!
(諸余怨敵皆悉罪滅還念本誓怨敵退散!)
イワン=ラマトゥ=ストゥ=エイノンノイタク…!
(六根清浄懺悔罪障消滅) 魔を祓い清め退かせ給え!」
ヒメが呪文を唱える声が聞こえたかと思うと…両断された悪魔石像が皮を剥く様に引きはがされていく…!
「…ココデノオマエ達ノチカラ侮リスギタ…! ダガ…次コソカケラヲ…希望ノ御子ヲ頂クゾ…ゲホァア~!」
その言の葉を最後に悪魔石像は消え去っていった。
観るとそこにはまったく無傷の彼女が独り横たわっている。
「あの、悪いヤツだけを斬った…そんなカンジか…?」
「左様でございます。あれは…“因果”より“悪”と認められしモノを祓う神呪でございます。その後の神呪は彼女に巣食う穢れ、それらを呼び込む原因を祓い清めました…。直に目覚められると思います…」
「…そっか…なら良かっ…あ、あら? カ、カラダにチカラが…」
そう言いかけながら焔は急激に脱力感を覚え跪いてしまった。
「なんの行も積まず放った故の反動でございます…。目下の焔さまの目標は…この権能を…あちらの世で行使可能となる事と使いこなす事でございます…」
「こ、こんなチカラがオレらのフツーの世界でも出来るのか?」
「地上においても、元来この権能と共に我々は営みを繰り返していました…。ですが…あの…“天地ノムスヒ別レシ日”の後、非常に困難となってしまいました…。ですが、焔さまのお父上、そしてお父上が師事された御方のように…少なからず使えるモノは存在致します。そうなる為に焔様には北海道のあの場所で行を積んで頂かねばなりません…! あちらでチカラ揮うはここリクン=カントの何倍も困難ではありますが…行に入られて下さりますか…?」
「アン…キ…天と地…シュメール語だったか…? もしかして昔って単一言語ではなく…ごちゃまぜだったのか? そして違っていても…相互理解可能だったの…か?」
「焔さまのおっしゃられる通りでございます…! 彼の刻までは…我々自身が意を解する権能を持ちし故に可能だったのでございます…!」
焔の理解の速さと鋭さに驚きながらも感心してヒメは応えた。
「…色々と疑問が解けていきそうなカンジがするぜ! もちろん行に入るさ! じゃないとコイツや…ヒメさんを護れないだろうからな!」
「頼もしき限りでございます…♪ さぁそれでは…彼女を連れて地上へ戻りましょう。こちらは向こうと刻の流れる速さ違う故、すでに数日は過ぎしかと思います…!」
それを聞いて寝耳に水を打たれた様に焔が驚く。
「なんだって!? 多分まだ30分位しか経っていない…よな? こりゃぼーっとしているとリアルにウラシマタロウになっちまう訳だ!」
「その故に我々が干渉するはともかく、地上から来たりしモノは永きに渡りこちらで過ごして戻られし刻、急激にその差が身体に出てしまうのです…」
「ナルホドな…! じゃぁまぁヒメさんがコッチ来るのは…問題ない訳だな?」
「左様でございます。そちらの言い方に準えれば…一日で10分程しか刻が流れませぬので…」
「…一緒に来てくれないか? その方がきっとコイツも守りやすいし…何て言うか…助かる!」
ヒメは一瞬表情をほころばせ思案を廻らせる。
「…かしこまりました…ご同行いたしましょう…。寛世さまよろしゅうございますか…?」
「え! あ、う、うん♪ だぁってひろせちゃん守る為でしょ? もちろん♪ よろしくね♪」
寛世は一瞬戸惑いを見せたがすぐさま快く応えた。
「…日本の法律だと…四人乗れなかったけかな…?」
焔が例の乗り物を眺めながらそう言うとすぐさまヒメが応えた。
「…元の場所へ還しましょう。それで問題ありませぬ」
「元の場所? ダレか待ち構えてたりしないか?」
「数日経過しているので可能性は低いかと思います。むしろ“警察”と言う機関と遭遇した方が大変かと」
成程確かにそうだなと納得しながら焔は尋ねる。
「…こそこそカクニンしながら出現なんて出来るのかな?」
「可能でございます」
「じゃぁ…ベタなやり方だが…人気の無いのを見計らって…だな!」
「かしこまりました。それでは参りましょう…。天之鳥船始動! “横浜”へ!」
ヒメがそう言うと天之鳥船は皆を乗せヒメがリクン=カントと呼びし地を後にした。
戻った彼女を連れて地上へ…!
用語説明
・ドゥムニントゥスクル(姫巫女):子+女王+巫女 より。(子と女王はシュメール語)
・エカンナィ:昔、もと。
・リクン=カント:天地の狭間(6/10改訂)。
・エムㇲ:小剣。エムシとも。
・氣力:物理作用中心の権能。元の意味は「力」。
・霊力:精神(霊的)作用中心の権能。元々アイヌ語でも霊力。
・融合発動(ウカムレ=エトゥッカ):~を重ね合わせる+出す より。
・輝く根源の力(メル=ストゥ=マェ):輝く+根元の方+威力 より。
・付与霊呪(ラムハプル=ヌプル):惜しまず人に与える+霊力 より。
・神呪:諸余怨敵~:怨念も罪も悉く皆消滅せしめると誓い我は願う。全ての悪神よ皆悉く退散せよ!
・神呪:六根~:眼・耳・鼻・舌・身・意すべて浄化して罪穢れ消滅せしめ給え
・天地ノムスヒ別レシ日(ドゥルアンキ=エウコホピ):天と地の結び目+両側に別れる より。(6/7改訂)