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EP04 Halo of Lies & Truth(偽りと真実の後光)

教えられた場所は…。

(…店と言うより…会議スペースか…? フリードリンク付の…。選挙事務所っぽくも見えるな。…少し色々と想定しておくとするか…)


焔は選挙投票のお願いから宗教勧誘まで想定出来得る可能性の応答シミュレートを脳内で行っていた。


「よく来て下さりました、ありがとうございます…」


飲み物を持参して彼女が(あらわ)れた。


「…相談したい事…どの様な内容でしょうか?」


焔は診療中と同様の口調で尋ねた。


「…お二人は…今の世をどう思いますか…?」


(…宗教の方か? それとも…政治か?)


「…どの様な意味でしょうか…?」


「はい。人心は乱れ、その結果…ヒトならざるモノばかりと成り果てた現状についてです…」


(今の世の中の様子か…()えているのか…!? それとも…教義で…か?)


「ええとそれは…その様な教えの宗派…と言う事でしょうか?」


「…教義もですが…何より…我々以外皆異形としか言いようのない姿をしていますよね?」


女性の口からこぼれたその句に(ホムラ)寛世(ヒロセ)は顔を見合わせた。


(ど~する~? このヒトも…“観えてる”みたいだよ?)


(ああ…。周り観てみろ、ココはみんな彼女と同じ状態だ…!)


(ホントだ~み~んなフツーのヒトに観えるね♪)


(…ああ。きっと彼女たちの所属する“ナニカ”によるモノなんだろうな…)


「貴女…方も、観えるのですね…?」


そう尋ねると彼女は嬉しそうに応えてきた。


「ええ! 我々の(あが)めし大いなるお方の御力により…皆、正常な体と真実を見通す“眼”を賜ったのです!」


「…それで今の姿に…?」


「はい! 宗派へのイニシエーション(通過儀礼)により…身も心も生まれ変わるのです!」


「そっかぁ~! よかったね~♪ でもひろせちゃんもほむらも元々フツ~だから必要ないよ?」


「確かにお姿については必要ないと思います。最初驚きましたが…でも、だからこそです…! お二人のされている本当のお仕事は…自分のチカラのみでしていてはとても耐えられる事ではありません…!」


またしても二人顔を見合わせて驚いてしまった。


(…ダイニのホントの仕事…知ってて来たのか? しかし何処(どこ)で?)


(今までの患者さんからのご紹介かな~?)


(…単にそう言う事、かもな)


「知人より(うかが)い、それならば大いなる御力を(たまわ)りし上で()されてはと思いまして。きっと今みたいになる事も無く同じことが出来るようになるかと…!」


(“チカラ”の消耗の事までわかってるのか! まぁ、観えればトーゼンか。…もし本当に正しきチカラなら…アリか…?)


(い~コトしよ~ってヲモヒで来ていたみたいねこのヒト♪ どう? おはなしダケ聞いてみる~?)


(…。…。ああ…、そうだ…な…。見聞を兼ねて乗ってみるか!)


「強い…ヒトならざる上位存在より…チカラを借りる…頂く…それを以て行うべき…そう言われている訳ですね?」


「その通りです♪ よろしければこのまま本堂へいらしてみませんか?」


(本堂って事は…寺…仏教系か…。)


「一度観させてもらって良いですかね?」


「はい! ぜひ! では…こちらでございます♪」


彼女は満面の笑みで返答し案内し始めた。どうやらこの長い渡り廊下の様な通路でこの集会所? と隣接している様である。


「こちらでございます。さぁ…どうぞ…」


扉を開けると玄関になっていおり、履き物を脱いで一礼して上がっていく。焔達も同様に振る舞いついていく。


「アノ方がこの支部の代表です、どうぞこちらへ…」


代表と呼ばれしモノも…やはりヒトの姿をしていた。その“色”と“気配”は気になるが…少なくとも巷の雑多なモノ達よりはよほど普通の姿に“観”えた。


「代表、こちらのお二人が…」


話しかけられこちらを観るとにこやかな表情で近づいてきた。


「やあ初めまして! なんでも観える方だと聞きました! そしてそのチカラを衆生(しゅじょう)の為に使われているとも! ここはその様な“正しきヲモヒ”持つモノ同士集まるトコロ…どうぞご覧くだされ! そして…感応道交(かんのうどうきょう)して観てくれたまえ! 我々のホトケ様は…生きてそこに御座(おわ)します故!」


焔は色々と驚きの言の葉がちりばめられていたので一つずつ聞いてみる事にした。


「…はじめまして。…仏が…生きて…? そして…感応道交…出来るのですか?」


満面の笑みを浮かべ代表は応える。


「ムズカシい事は一切ありません! あちらの祭壇に手を合わせ…心の中で一心に念じれば…即座にお応えして下さります!」


(仏の位階の存在から応えてもらえるなんて…確かかなり行積んだ高僧でも無きゃって教わったハズだが…?)


「…誰でも…可能なのですか? こちらの信徒の方のみ…ですかね?」


「我々のホトケ様こそ真実のホトケ! その証明として…どなたでもそのお声を(たまわ)ることが出来るのです!」


(“通”は…どの位階でも使えるが…全てのモノに観じさせるのは…けっこうチカラある存在じゃないとできないよな…?)


焔がその様に思案していると例の女性が話しかけてきた。


「難しく考えないで一度感応道交されてみてはいかがでしょうか?」


「あ、え、ええ。では…そうしてみますね!」


「は~い♪ あ、そのホトケさまってどこにいるのかしら?」


すっと指さす方向に…良くある寺の本堂の様な祭壇があった。しかしその中央に本尊らしきものは見当たらなかった。


「…あちら…ですか。ご本尊が置かれていない様に見えますが…?」


やはり笑みを浮かべたままの代表が応える。


「…あちらに座して…ホトケ様を念じてみてください…」


そう言われ祭壇の前に座り手を合わせ念じてみる。すると…何もなかった所にナニカが顕れはじめた…。それは良く目にする黄金色の仏像の姿をしたモノであった。


「わ~キレイ♪ ホトケ様コンニチハ♪ ひろせちゃんです♪」


「…実…体…化…! コレってまさか!」


「(左様…現一切色身三昧である…寛世…焔…よくぞ参られた…)」


頭の中に響くと同時に実声も聞こえてきた。眼前の存在は3Dホログラフィ等ではないらしい。そして脳内…心に響く所から…誰かがスピーカーで話したり人工音声の類でもない。


「…どうしてオレ達の名前を…?」


「(俯瞰(ふかん)してみる故…出自や事情など聞かぬとも当然観える…)」


(…ホンモノなら確かにそうだよな…)


そう思いながらも焔は一つだけ違和感を感じていた。


(この仏さん自体は黄金色に観える…が…後光が…赤…? 黒…? 赤銅…? なんかこう…光なのに(くら)い”、”黒いのに輝いている”…そこに何らかの不自然さを…観じる)


「(この末法に(あらわ)れるとはそういう事なり…五濁悪世(ごじょくあくせ)斯様(かよう)な輝きに観えるのである…)」


(読まれた!? そしてこれは…オレの頭の中にだけか?)


「キレ~にぴかぴかしてるねほむら♪」


やはりこの色の違和感は寛世には観じ取れない様である。

腑に落ちない所があるが本当にチカラある存在なら助かるのも事実である。困った刻に丁度良く手を差し伸べてくるのも本物の証だとも聞いている。が、あまりにタイミングが良すぎる場合は…魔の場合もあるとも聞いていた。


「…ちょっと即答は出来ない…一旦考えさせてもらっていいかな?」


「ひろせちゃんはイイと思うケドな~? ほむらはなんか気になるの?」


「…オレが未熟なせいなんだろう。だからゆっくり考えさせてもらいたい」


「…わかりました…。ホトケ様はいつでもここにてお待ちしております…なるべく辛くなる前に縁付かれます様に…」


「う~ん…ほむらがこう言うから…またきまぁす♪」


二人は一礼してその場を去り帰宅した。


「ねぇ~ナニがあったの~? あのホトケさまにチカラ貸してもらうのイイかな~って思ったんだけど~?」


「ああ…少し違和感があって…それを確認してからってそう思っただけさ」


「そ~なんだ~。…もしかしてほむらって…ひろせちゃんが観えてないモノも…観えてるの?」


鈍い様で鋭いなと思いながら焔は応えた。


「…ああ。少しだけ…な。そこを一度調べたかったんだ」


「そ~なのね~♪ わかったよ~ナニカお手伝いできる~?」


「ああ、必要な刻はよろしく頼む。まずは…怒られるだろうけど…オヤジに聞いてみるか…」


そう言いながら壁掛け時計に目をやると午後七時半。


(…確か七時で上がって夜は他のセンセ達に任せていた筈だよな…)


そう思いながらスマートフォンの画面をなぞる。


「…久しいのう…息災であるか?」


「まぁ…なんとかね。…ちょっと聞きたい事があって…」


焔は少し躊躇(ためら)いながらも現状を説明し、例の“ホトケ”についても伝えた。


「…結論を言うならば…真なる仏であるならば後光に兇状は一切観じ得ぬ。確信の元助け求むるるモノなり」


「…やはりそうか! ありがとう!」



「しばしそのままこの観えぬ線繋いだまま音を表に出しておくが良い」


焔は父に言われるまま通話をスピーカーにしてスマートフォンをテーブルに置いた。


「…諸余怨敵(しょよおんてき)皆悉摧滅(かいしつざいめつ)! 六根清浄(ろっこんしょうじょう)懺悔罪障(さんげざいしょう)消滅(しょうめつ)追善供養坐宝(ついぜんくようざほう)蓮華成等正(れんげじょうとうしょ)覚現世安穏(うがくげんぜあんのん)後生善処(ごしょうぜんしょ)!」


スピーカーから何やら呪文が聞こえてきた…。


「…己が姿を電話の表に映すが良い…」


焔は言われた通りスマートフォンを手に取り自分が画面に映る様にした。


「…ぬぅん…!」


掛け声と共に画面が白く光り出し…いや、画面から眩くて力強くも優しい光が溢れ出てきた!


「…如…来…秘…密(にょ らい ひ みつ)神…通…之…力(じん つう し りき)!」


(…こ、これは…九字…か?)


(あふ)れ出た光が焔の身体の特定の個所を打ち抜いた!


「…背を向けよ…!」


テーブルにスマートフォンを立たせて背中を向けて正座した。


「…如…来…秘…密…神…通…之…力!」


先程同様光が背中から焔を打ち抜くと突然巨大な滝にでも打たれたかのような衝撃が全身に走った!

…程無く、常時(じょうじ)存在していた倦怠感(けんたいかん)が消失し全身に活力が沸き上がってくるのを観じた。


「…これで良い…。この先も…我が子ならば困り行くモノに手を差し伸べてしまうであろう故…近日の間にこちらへ参り(しか)るべき処にて行を積むが良い…! それまでの間…気をつけて過ごすが良い…」


そこまで言うと一言挨拶を遺し焔の父は通信を切った。


(…ゼンブお見通しか…オヤジも大概なんでもありだよな…そのオヤジが進める(トコロ)って言えば…アソコしかないよな…)


子供の頃に一度連れて来られたので何となく覚えている。あそこならば今の父の様な事が出来る様になっても不思議ではない。聞く所によれば父は昔そこで、行を積み、修め、今に至るらしい。


(…北海道か…。思えばアノ刻についていっていれば…今の辛さも無かったんだろうな…でも…当時はとても…アイツのいる所になんて行けはしなかった…。今は…寛世のおかげで…それも出来そうな気がする…)


焔の言う“アイツ”は昔横浜から引越して函館に住んでいるらしい。


(後で知ったが、オヤジや例の処は札幌…函館とは三百キロ以上離れてたなんてな。はは、確率から言ってほぼ遭う筈無いのに何ビビってんだか…)


「ほっむら~? あら♪ なぁんかすっごく元気になってなぁい? カラダ中ぴっかぴかに輝いているよ~♪」


寛世がそう言いながら嬉しそうに近づいてきた。


「そ、そうか? 確かに身体がものスゴく軽い気が…?」


「ヤセちゃってたのも戻ってなぁい?」


その言の葉に(おどろ)いて鏡の前でシャツを脱いでみる。


(…ウソだろ…元に…戻っちまってる! まさか体重も?)


そのまま体組成計に乗ると、信じ難い事に減ってしまった15キロが戻っていた。


(コレって物理法則的には? 医学的にナニ起きた? それとも…実際体重減少はなく何らかの要因で減ったのと同様の現象が起き…それに応じて現実世界の物理作用も変化していた…のか?)


心当たりがなくもない。焔が治療した刻も実際に観た目の寸法が変化することは良くある。左右の脚の長さに始まり…麻痺(まひ)して萎縮(いしゅく)した筋の太さが戻ったり…先のインナーマッスルが改善された刻にウエストサイズが目に見えて細くなったり…。


(もしかして…霊体に大きな変化や変調が起きた場合…現実の肉体にも影響出るのか? と言うか肉体の不調の原因はもしかして…)


「わぁ♡ どんな体型でもほむらには変わりないケド~このほ~が…ステキ♡」


寛世はそう言って頬を桜色に染め抱きついてきた。

…暫くして…焔は独り物思いに耽る…。


(…これは…修行が必要ってコトだよな…オレに…。コイツも連れて…行くか!)


腕の中で幸せそうに寝息を立てる寛世を観ながら焔はヲモヒ廻らせ決意した。

北海道へ…!


用語説明

・五濁悪世:五つの汚れに満ちた悪い世を意味する仏教用語です。

・諸余怨敵皆悉在滅:あらゆる仇為す存在をことごとく打ち滅ぼすと言う意味です。

・六根清浄懺悔罪障消滅:六根清らかに真の智慧を用いれば罪業も自然に消滅していくと言う事です。

(※六根:眼・耳・鼻・舌・身(体)・意(識)の事。ここより生ず自我による妄想が罪の原因です)

・追善供養坐法蓮華成等正覚:宝蓮華に坐して、等正覚(完全な悟り)を成就せんと供養する事です。

・現世安穏後生善処:今は穏やかに後生(来世)良い世界に生まれます様にと言う事です。

※下三つは主に供養の意味で唱えるモノです。(部分抜粋です)

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