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王太子殿下の花嫁候補への恋執と溺愛は無限ループを極めています  作者: 青彩紅華
1章 一番目の花嫁候補
3/52

2)

 ――そして今。

 三桁はくだらない数の応募の中、書類選考で一次審査に合格したリディは次の二次審査を突破し、最終候補者に選ばれるため、ひいては一番目の花嫁候補になるために王宮へと向かう馬車の中にいた。

(二コラ、待っていて。あなたに選んでもらえるように頑張るわ。もちろん王宮の人たちにあって花嫁としての資質をきちんと認めてもらえるように努力する!)

 ……思い出は美しく輝くもの、そして恋はするものではなく落ちるものだということを、リディはまだこの時は知らなかった――。

 王宮に到着すると、既に立派な箱馬車が列を連ねて憲兵からのチェックを受けていた。ここまでは舞踏会に招待されたときと同じような光景だ。社交界デビューの日は緊張したが顔見せのためのパーティーだからそれなりに取り繕えばそれでよかったのだけれど、今回は審査される選評会。あのときとはまた気合の入り方が違う。それは他の家の当主と令嬢もきっと同じことだろう。皆がこの日のために準備をしてきたのだ。

 リディはふぅと、息を吐きだし、それから白い手袋を填めた手に少し力を込めた。

 付添人は父や兄などの親族に限られ、荷物は最低限のものだけで金庫に預かってもらうことになっている。一次審査に合格した二十名の令嬢たちには、筆記試験と面接が待っている。その二次審査を通り抜けた残り十名だけが王宮内に部屋を割り振られ、花嫁としての資質を磨くための勉強会および選評会などに駆り出されるため、王宮でしばらくの間暮らすことになる。各々には王宮勤めのメイドが世話係としてつくようだ。

 ユークレース王国には四季の節目に四度の祝祭が行われるのだが、そのうち春の祝祭に開かれる舞踏会には花嫁候補たちも参加する予定になっている。その場もまた花嫁としての資質を見る選評会を兼ねているとのことだった。

 その後は、次の夏の祝祭までの三ヶ月の時間をかけて交流していき、戴冠式が行われる予定の秋の祝祭の頃までには花嫁候補の順位が確定する。そこで一番目の花嫁候補となった令嬢は冬の祝祭には王宮との誓約書を交わし、王太子殿下との結婚式は次の春の祝祭の頃までに執り行われるということだ。

 一方、二番目から十番目の花嫁候補については妾妃として相応しいかどうかを鑑みた上で検討され、最終的には妾妃として残るか王宮を去るかの選択を迫られるのだという。それもすべて次代の世継ぎのため、王室で伝統的に行われてきた花嫁選定制度――。

 頭の中で自分に課されている状況を整理していたら、ヴァレス侯爵の声が届いた。

「――私はここで離れなければならないが、しっかりやれるね」

「え、ええ。もちろんよ」

 受付を済ませて控室にたどりつくと、付添人とはそこで別れなければならない。ここから先は親の権力による身分や地位は一切関係なく、花嫁候補者たちは平等に審査されるのだ。

 心配そうにしていた父と別れたあと、リディは控室の中をそうっと覗いてみた。おもいおもいに着飾った他の令嬢たちの様子にリディは圧倒されてしまう。色々な香りが入り混じって、そこにずっといたら具合が悪くなりそうだった。窓の開かれたバルコニーのあたりに移動してみたけれど、入る風は少し冷たい。羽織ものはクローク係に預けてしまった。仕方ないので、一旦、出直してこようとリディは部屋を出た。

「ふぅ……」

 思ったよりも大変かもしれない。そんなふうに前途多難なイメージが浮かぶのを振り払い、リディは控室前に待機していたクローク係に声をかけて羽織ものを受け取った。

しかしすぐに戻るのも気が引けて、時間まで自由を許されている庭園に移動しようかと思い立つ。だが、庭の方には付き添いとして来た父兄らが談笑しており、その輪をすり抜けるのはなんとなく面倒なことになりそうだった。父に見つかりでもしたら、尻込みをしたのではないかと追及され、小言をもらいそうだった。

 そんなこんなで遠回りして回廊をそのまま歩いて外に出られそうなところへと曲がっていくと、同じところを回っているような気がしてくる。元の控室に戻ろうとしたときには、リディはすっかり迷子になってしまったのだった。

(控室……どこっ)

 思い巡らしてみたものの、幼い頃の記憶ほど頼りないものはない。時間切れで失格になるなんて一番あってはならないことだ。だんだんと焦ってきたリディは足を早めて王宮の人に声をかけようと動いた。

 そのとき、別の方から駆けてきた誰かとすれ違った弾みでとんっと肩が後ろに押されてしまう。

「きゃっ」

 いきなりの衝撃に、リディは小さく悲鳴を上げた。

「――っと」

 ぶつかった相手もまた声を漏らした。その拍子に、目深にフードをかぶっていた相手の布がはらりと落ちて、その姿をあらわにした。

「っ!」

 互いの視線が一瞬にして交わる。

 黒曜石のような艶やかな漆黒の髪、意思の強そうな眉、綺麗な翡翠色の瞳……そんな精悍な顔つきの美丈夫に一瞬にして目を奪われ、リディは思わず息を呑んだ。

 彼もまたリディをじっと見たあと、どこからともなく聞こえてきた声に反応してちっと舌打ちをする。

 剣呑な空気に後ずさろうとすると、彼にいきなり腕を引っ張られてしまい、リディは瞠目する。

「なっ!」

「少し付き合ってもらうぞ」

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