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王太子殿下の花嫁候補への恋執と溺愛は無限ループを極めています  作者: 青彩紅華
1章 一番目の花嫁候補
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1)

「大丈夫だ。おまえならば、一番目の花嫁候補になれるはずだ。わかったね、リディ」

「ええ。きっと、王太子殿下の心を射止めて見せるわ」

「きっと、ではなく、絶対と誓いなさい。何度も説明しているが、殿下の御心を掴むことだけが重要なのではない。花嫁としての資質を見極められるのだ。そのために我々は今日まで時間をかけて準備をかけてきたのだ。いいかい、リディ――」

 ユークレース王国の春の訪れを祝う年中行事『春の祝祭』を控えたある日のこと。父であるヴァレス侯爵の小言が延々と続けられる中、このほど十九歳を迎えたリディは今日までのことを振り返っていた。

 先ず、リディが誰の花嫁になるために奮闘しようとしているかというと、相手は二コラ・ロイ・ラルジュ――この国の若き王太子だ。近々、国王が療養によって退くため、彼は次期国王となるための戴冠式を控えている。

 二コラは、王太子である以前にリディの幼なじみでもあった。二人の接点は、リディの父、ヴァレス侯爵だ。リディの父は祖父の時代から王家との交流が深く、かつては智慧をかわれ、政務を取り仕切る宰相の相談役の一人として取り立てられるなど、王宮に上がることが多かった。そんな経緯から、リディは自然と二コラと共に過ごす時間が増えたのだ。

 しかし、知略家の父も万能というわけではない。老いと共に衰えるものはある。あるとき失策による咎を受け、それを機に王宮から遠ざけられる羽目に遭ったことがある。そのときは当然のようにリディと二コラの接点も薄くなっていった。

 その後は年に二度ほど、国内の祭事や行事があるときだけ、こっそり忍んで会うことがあったが、リディが十六歳を迎えて社交界に出るようになってからは、公式の行事がない限り顔を見ることができなくなった。一方で、二十歳になった二コラは本格的に政治に関わるようになり、たとえ王宮に上がったとしても二人が同じ時間を共有することはできなかった。

 一方、気骨精神逞しいヴァレス侯爵は失策の咎をなんとか精算し、持前の手腕で地位を盛り返したものの、王家からの処遇が一向に改善されないことに日頃から不満を抱いていた。

 そんなある日、王室の古くからの慣習である『王太子殿下の花嫁候補制度の募集要項』が発表され、娘のリディに白羽の矢が立ったというわけだ。ヴァレス侯爵としては、娘を王家に嫁がせて地盤を固め、王宮での発言権を獲得し、かつての若かりし頃の栄華の時代のように有能な貴族として返り咲きたいと思っているらしい。

 リディは父の気持ちに半分は理解を示しつつも、残り半分は複雑な気持ちだった。

(……有能な領主ではだめなのかしら? そこまで、権力って必要なものなのかしら?)

 流行り病で亡くなったリディの母は平民出身だった。貴族の令嬢と婚約破棄してまで結婚したという背景があるだけに、地位に拘っている今の父を見ていると、身分の高い相手と結婚しなかったことを後悔していないだろうかとたまに不安に思ってしまうこともある。

 リディはというと、母と同じく平民の側に立つ思考を持ち併せていた。ヴァレス侯爵が治めている領地の民たちは素直でやさしい。もしもこの先リディが女当主になったら、大変かもしれないが、領民の皆の力を借りながらやっていくつもりでいた。貴族の家の娘でありながら、こういった考えを持つ人間は珍しいことかもしれない。だいたいは婿に入ってくれる人を探すか、花嫁になることを望むからだ。

リディだって今までに一度も幸せな花嫁になることを夢見なかったわけではない。だが、それは現実的ではないということを自覚していた。

【初恋】のような感情こそ胸に抱いたものの、きっとそれは叶うことはなく、いつか【彼】の隣には素敵な人が並ぶのだろうと漠然と思っていたからかもしれない。

 最初は気が進まなかった。だが、毎日のように父に説得という名の脅迫を受けていたら、いやでも前向きに考えなくてはならなくなってしまうというもの。

 リディは重たいため息をつく。

 その説得という名の脅迫とは――他の貴族の家との縁談だった。

『この先、おまえが結婚する相手は、王太子殿下以外であれば、この三人としか認めないからそのつもりでいなさい』

 無論、貴族の娘に拒否権などない。

 その三人はリディよりも二十歳も年上の侯爵家や伯爵家……つまり同格の家の当主だった。もちろんリディも顔を合わせたことがある人物だ。父親の年齢とまではいかないが、伯父と姪くらいの年齢差では、恋が生まれることなんて難しいかもしれない。会話だって合わないかも……とリディは落胆した。

 そのとき、リディはハッとしたのだ。

(私、恋をすることを諦めてなかったんだわ。でも、誰と恋をするの?)

 そう思ったときに浮かんだのが、幼なじみの彼、二コラだった。

二コラとの淡い思い出を懐かしく胸に抱いたあと、リディはとうとう決意する。

「私、結婚する前にちゃんと恋がしたい! いいえ。するのよ」


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