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12)

 リディは仮説を立てた『時間が戻る』前と同じように王宮で過ごし様子を見ていたが、祝祭の七日目に言い渡された順位に違和感を覚えた。

 前に告げられた順位は五番目だったはずなのに、今回は四番目だったのだ。

(私の記憶違い?)

 不穏な気配がどんどん近づいてきている気がして悪寒が走った。

(そういえばこのあとって……)

 部屋に戻ろうとしたときに刺されそうになったことを思い出し、リディは回避すべく柱の陰に隠れることにした。様子を窺ってどれほど経過したことか。

「ここで何をしている?」

 うしろから呼び止められて、リディはびくりと肩を揺らした。

「っ……な、なんでもありませんわ」

 そそくさとその場から離れようとすると、腕をぐいっと引かれて振り向かずにはいられなくなる。驚き悲鳴を上げかけると、見知った顔が視界に飛び込んできた。

「リディ。俺だ」

「あ……ジェイド、殿下」

 ジェイドだとわかって一気に脱力した。

「大丈夫か?」

 心配そうな顔をしているジェイドに申し訳なかったが、リディはほっと胸を撫でおろす。

「あ、でも、どうして……あなたがここへ」

「おまえの様子がおかしかったからだ。杞憂ならいいと思ったが、念のためだ」

 ジェイドが警戒するように周りに目を配った。

「私、殺されるところだった……かもしれない?」

リディは青ざめた顔のまま自問自答すると、ジェイドの表情が硬いものに変わった。

「何か、身に覚えがあるのか?」

「……い、いいえ。大丈夫よ。なんでもないの」

 リディは首を横に振った。

「心配ごとがあるなら早めに報告した方がいい。脅威になるものを放っておくのは危険だ」

「ええ。気をつけるわ。助けてくれて……ありがとう」

「たまたま通りかかっただけだ。礼は必要ない。ついでに部屋まで送っていく」

 頼もしいジェイドの申し出をありがたく思う一方、リディは彼の様子を窺った。

「あなたのことだって本当は信用したらいけない気がする」

「まぁ、違いないが。青い顔をした女をどうこうするような気はないから安心しろ。せめて衛兵の目が届くところに送り届ける。あとは……不安があるなら護衛を頼めばいい。大事な花嫁候補になら王太子もそれくらいのことはするだろう」

 ジェイドはやや不満げな表情を覗かせている。リディの身が危険に晒されたことを怒ってくれているのだろうか。

 まごついているリディを尻目にジェイドは颯爽と歩き出してしまった。独りになるのが怖くて、リディは慌ててついていく。

 そうだ。今は誰かと側にいた方がいいに決まっている。不審者がどこに身を潜めているかわからないのだから。せめて刺した女の顔をハッキリと見て覚えていれば対策ができただろうに。あんなに衝撃的だったはずが、なぜか聞こえた声すらまともに思い出せない。

 歯がゆさを抱きつつ、ジェイドの隣に追いついて彼を見上げる。すると彼は歩調をゆるめてくれた。

(もしかして、私を送っていくために……わざと?)

 彼は案外やさしいのか、それとも義理堅いのか。何度か彼に会ううちに彼に気を許しはじめていることにリディは気付く。そればかりか、なぜか今こうして彼が側にいることにとても安心していた。

(だって、あんなことがあったんだもの……)

 オニキス王国の王太子である彼への警戒心を怠らないように、そんなふうにリディは言い訳をする。

 夢か現かわからない。だからこそ居心地がよくないし薄気味が悪い。刺されたはずの場所がしくしくと痛むような気さえする。どこも無事だというのに。

 ふと前を向くと、二コラが近侍を伴い、宰相と話をしている姿が見えた。今回は宰相も一緒にいる上に、何か揉めた様子ではなさそうだ。

 二コラもこちらに気付いた様子だ。宰相が辞したあと二コラがリディの方へと歩いてくるのが見えた。

「ちょうどよかったじゃないか。俺はこれで失礼する。さっきのことをしっかり相談しておくといい」

「あ、ありがとう」

「礼ならば、俺は別のものの方がいいのだが」

 思わせぶりな視線を向けられ、リディはどきりとした。彼が望むものはきっとスキンシップの類のようなものなのだろう。

「借りを返すんじゃなかったの?」

「そうだったか? ま、俺は、祝祭の間は滞在しているから、何かあれば声をかけてくれ」

「あ……」

 つい、リディは声を漏らしてしまった。

 ジェイドが離れていこうとすると、たちまち心細くなってしまい、気持ちが塞がりそうになる。

 ぴたりと足を止めたジェイドがリディの方を振り向いた。

「不安なら添い寝でもしてやろうか?」

「そ、そんなこと言っていないわ」

 リディがむきになって反論すると、ジェイドは悪戯な表情を覗かせたあと、その場から颯爽と去って行ってしまった。二コラと極力関わらないようにしているのか、すれ違わないように別の方角へと抜けていく。

 入れ替わるように二コラがリディの近くにやってくる。

「リディ。どうして君は、あの男と……」

 そういう二コラの表情がどこか強張っている。焦ったような気配が漂っていた。


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