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あなたのためだけの物語  作者: 渚 龍騎
不朽不滅の英雄編
3/11

二話


 


「ふと思うんだよ。神になれば、この世から争いなんて消せて、みんな笑顔にできるんじゃないかって」


「どうせ師匠は神様とだって喧嘩するでしょう? というより、いきなりどうしたんですか?」


 ソファーに運ばれて仰向けに寝転がっているクレイヴがそんなことを口にする。台所でそれを聞いていたソニアは手を休めずに朝ご飯の用意をしていた。


 玄関先で倒れていたクレイヴに一時は焦るソニアだったが、その実クレイヴはトイレへ行こうとして行き先を間違え、そのまま倒れていただけだった。


「本当に人騒がせな人ですよ」


 そう恨み言を吐いても、今のクレイヴは二日酔いによる頭痛で何一つ聞いていない。頭を抑え、なにもない天井を仰ぎ見ながらこう言った。


「神になったら、二日酔いも消す」


「ホントに何言ってんすか」


 今にも吐き出しそうな青い表情をするクレイヴを横目に、ソニアは出来上がった料理を机に並べる。典型的などの家庭にも出される料理──ベーコンエッグとトースト、コーンスープに、そして頂いた野菜で作ったサラダだ。


「師匠、ご飯できましたよ。食べられますか?」


 優しく問いかければ、クレイヴは一度ソファーから床に転げ落ちる。助けようとは思わなかった。そして彼はふらふらと立ち上がってから、朧げな足取りで椅子に座った。


 二人で手を合わせ、食事に向けて「いただきます」と二人の声が重なる。そして黙々と食事を進めていく中で、突然クレイヴがその手を止めた。


「お口に合いませんでしたか?」


「ああ、やっぱさ──美味いよ。ソニアの料理はほんとに美味い」


「あはは、ただの朝ご飯ですよ? でも、ありがとうございます」


 笑顔を浮かべたソニアに感謝の声を漏らして食事を進めるクレイヴ。そして二人は食事を終え、ソニアは食器を洗い始める。またもやソファーで寝転がるクレイヴを背で感じていると、彼は途端に隣でコップに注いだ水を飲み始めた。


「まだ二日酔い続いてるんですか?」


「んあ? もう大丈夫だけど」


「なんなんですか」


「なんか、母親を見てる子供の気分だね」


「叩きますよ」


 小馬鹿にするように笑うクレイヴを追い払うと、彼はようやくスッキリし始めた思考で棚を漁り始める。そして歪な形をした土偶のような物を片っ端から放り投げながら口を開いた。


「ソニアは自分の子どもにも厳しくしそうだね」


「別に師匠に似なきゃそうはなりませんよ」


「おー、怖い怖い」


 淡々と会話を流していると、二人の間に沈黙が訪れる。水が流れる音だけが響く数秒の静寂が空間を支配したその刹那、クレイヴは思わずバッと振り返った。


「え? いまなんて?」


 ソニアの顔が真っ赤に染まる。食器を水で流していた手が止まり、せっかく洗った食器がシンクに落下。ソニアは思わず口を手で覆い隠し、盛大に焦り散らかしていた。


「ねえ、それどういうこと?」


「い、いや、それは、だから、その……」


 言葉に詰まり、なにを弁解しても地雷を踏む予感しかしない。身体の内側から湧き上がるように炎が生まれ、一気に燃え盛る。恥ずかしさで弁解の言葉がまるで思い浮かばない。だが横で、クレイヴはどこから出したのか分からない土偶を適当に捨てて二本の木剣を手に取った。


「まあ、どうでもいいから早く修行に行くよ」


「どうでもいいって、ちょっと!」


 適当な反応を見せるクレイヴの背中を慌てて追いかけると、彼は家から少し離れた草原の適当な場所で振り返る。そしてソニアに木剣を一本投げ渡し、彼女は落とさないように慌てて受け取った。


「それじゃあ、今から一時間、どんな手を使っても良い──俺に一発でも当ててみな」


 肩に剣を担いで、クレイヴは微笑んだ。


「一発……ですか?」


「そ、簡単でしょ?」


 クレイヴは「簡単だ」と言っているが、ソニアにとっては無理難題を押し付けられている感覚だった。

 なにせクレイヴ・ダンヴァースに弟子入りして約十年もの長い時間の中で、たったの一度も彼に攻撃を当てられたことがない。彼に一撃を与える想像ができない。


「俺に一撃でも当てられなきゃ、とうてい銀氷の聖騎士にはなれないよ」


「そう、ですね……確かにその通りです」


 不滅の栄光を掲げる者、銀氷の聖騎士。彼女に救われたあの日から、ただただあの背中だけを夢見て来た。


 ────私も、あの人のようになりたい。


 格好良い正義の英雄(ヒーロー)になりたい。その夢だけを掲げて、今日まで剣を振り続けた。ここで諦めてるようじゃ、英雄の足下にすら届かない。師匠を超え、騎士選定試験も合格して、試合にも勝つ。最強を示し、この手で栄光を掴み取らなければならない。


「一撃も与えられなかったら一週間プリン禁止ね」


「えっ!?」


 クレイヴの突然の言葉に驚愕するのも束の間、彼は木剣を担いで口を開いた。


「よし、それじゃあ」


 クレイヴの言葉でソニアは剣を抜いて、腰を低く構える。息を吐いて、緊張を僅かに和らげると正面のいっさいやる気のないクレイヴを見つめた。


「はーじめ」


 適当な掛け声が爽やかな風と共に吹き、ソニアは自身の体内に駆け巡るサンドラ粒子を一気に解放。解き放った魔力はソニアの体質と重なり、氷へと変換される。辺りの空気が冷え始め、ソニアは次の過程に移行した。


「魔力物質構築開始──氷換(アイシカル)量産(トレース)


 氷へと変換した魔力はソニアの想像によって形を象り、やがては実態を持って氷で作られた無数の剣となる。ソニアの背後に生成された氷の剣を見上げるなりクレイヴは、大きな欠伸を漏らした。


「──波状型奔流氷剣フィーネ・アイシグライヤ一斉射(バースト)っ!!」


 ソニアが命じると、無数の氷剣がクレイヴに向かって突貫する。音速を超え、標的に向かって突き進む氷剣は大気を切り裂いてクレイヴを穿たんとする。それをクレイヴはこれといって慌てるわけでもなく、頭を掻いていた。


「いいね」


 クレイヴは目を細めて、冷静に呟くと木剣を引き抜いて顔を上げる。サンドラ粒子が体内で活性化し始め、漆黒の髪が蒼白く輝き「これじゃ木剣(こっち)が砕けるな」と呟いた。


 降り注ぐ氷剣の嵐を避け、打ち砕き、迫り来るその氷剣を弾き飛ばす。だが、幾つかの氷剣が地面を穿ち、土煙が視界を覆った。視界が完全に失われ、クレイヴはソニアの動きが見えず、ソニアもまたクレイヴの動きは見えない。


「魔力解放、一斉圧縮、空間固定」


 蒼白い魔力を両手のひらに集束させて圧縮。超圧縮された魔力の光弾を正面に空間固定させると、木剣を力いっぱいに振り翳した。


「──ラミエール!」


 超圧縮された魔力の光弾に木剣を薙ぎ払う。圧縮された魔力に木剣を叩き付けると、扇状横一閃に魔力が解き放たれる。舞い上がる粉塵からクレイヴが飛び出していないのも理解した上での一撃だ。


「──光芒一閃(エクセス)ッ!」


 繰り出された斬撃を横薙ぎに払い、左右のどちらにクレイヴが避けても命中すると見込んでいた。だが、放たれた斬撃は巻き上がる粉塵を切り裂く寸前で、なにかに弾かれて突然その軌道を変えて明後日の方向へと飛んで行った。


「だと思った……っ!」


 こんな簡単なことで師匠に一撃をは与えられると思っていない。ソニアは驚きながらも即座に次の行動に移す。大地を踏み締め、力強く蹴っては一気に飛び出した。


 斬撃が軌道を変えた位置は覚えている。大体の検討をつけて飛び込み、粉塵を突き抜けてクレイヴの姿が見えた瞬間に剣を振り払った。


「──ふっ! えっ!?」


 だが、剣を振り払う直前で眼前に木剣を突き出されてソニアの動きが完全に止まる。顔を上げると、クレイヴが何気ない顔をしてソニアに木剣を向けていた。


「はい、一本」


「どうして、私が突っ込んで来るって分かったんですか?」


「え? どうせ突っ込んで来るだろうなって。ソニアは優等生バカだからね」


「バッ!?」


 クレイヴの言葉にソニアは驚愕して目を見開く。そしてクレイヴが木剣の柄でソニアの額を軽く叩く。可愛らしい「いたっ!?」という悲鳴が響き、ソニアは痛みで額を抑えた。


「わざわざ叩く必要ありますか!?」


「痛みを知ってる分だけ強くなれるよ」


「うぅ……」


 ソニアは額を抑えてなにか言いたげの様子だが、クレイヴは木剣の一振りで粉塵を振り払ってから「ほら再開だよ」と木剣を担いだ。


「今度こそ!」


 ソニアが剣を振り払い、クレイヴは一歩の動きだけで回避。追い打ちをかけてクレイヴの胴に目掛けて木剣を突き出す。しかしそれは弾かれ、ソニアのがら空きになった腹部に向かってクレイヴが拳を突き出した。


「ほい」


 腹部に奔る衝撃に備えて目を瞑るが、拳は当たる寸前で止められる。いつまでも襲いかかって来ない痛みに困惑して目を開いた直後、クレイヴはイタズラな笑みを浮かべながら「はい、二本目」と拳を開いた。

 人差し指でソニアのお腹を突く。彼女は顔を赤くして可愛らしい悲鳴をあげた。


「ちょっと師匠!」


「ほら、まだ終わってないよ」


 木剣を振り翳すクレイヴに怒りの目を向けて、声を荒げる。だがクレイヴはお構いなしに木剣を振るう。それを慌てて木剣で受け止めるが力押しに負けて弾かれた。背後に仰け反ったソニアは地面に手を付いてから態勢を立て直した。

 眼前を見上げた直後、クレイヴが木剣を振りかざしていた。


「くっ!!」


 木剣を盾にして反射的に受け止める。魔力による身体強化をしていても両手でやっと受け止められているが、対するクレイヴは片腕で至って余裕の表情を浮かべていた。


「くっ、これが神託(しんたく)……つ!」


「はいほら無駄口叩かない」


 サンドラ粒子を体内で変換させて魔術に投影する──それが本来の魔術魔法の流れでありながら、クレイヴは生まれつきそれができない。代わりに体内循環させることで超人的な身体能力を可能にしている。


「そんなの、ずるいですよっ!!」


 ソニアは唇を嚙み締め、受け止める木剣の角度を逸らす。クレイヴの木剣は流されて地面へと向かい、彼は僅かに目を見開き、ソニアは態勢を崩した瞬間を見逃さなかった。


 一歩を踏み出し、がら空きになったクレイヴの胴体に向けて木剣を突き出す。角度も、速度も、タイミングも、すべてが申し分ない最高の一突きだった。


「──隙あり!」


 木剣が突き刺さるのを確信した直後、クレイヴは軸足ごと身体を回転させて突き出された木剣を流した。


 思いもしなかった回避の行動にソニアは思わず「うそぉ!?」と驚愕する。さらにクレイヴは回避だけでなく、回転させた勢いを殺さずに後ろ回し蹴りを放った。


 慌てて防御するが、その蹴りの威力に吹き飛ばされて地面を勢い良く転がる。硬い地面の感触に全身を打ち付けながら、すぐさま飛び退いて態勢を立て直す──が、クレイヴはソニアの避けた位置に既に回り込んでいて、慌てて振り返った時には眼前に木剣を突き出されてソニアは動けなくなってしまった。


 少し腕を動かすだけで眼球を貫ける位置に木剣があり、ソニアは恐ろしさで冷や汗をかいていた。


「たとえ隙ありでも、言ったら意味ないよ?」


 ぐうの音も出ない。ソニアは唇を噛み締めてクレイヴの木剣を下から弾く。完全な不意打ち。だがクレイヴは『どんな手を使ってでも』とこの修行を課した。どれだけ卑怯であっても文句は言えないだろう。


 ────胴体ガラ空き。師匠はきっと私が木剣で攻撃すると思っているはず。その思考の裏をかく!


 弾いた木剣を振り下ろすのでは攻撃は間に合わない。普通の思考では師匠に一撃を与えるなんて絶対に無理。思考のさらに先へ行かないと聖騎士なんて到底なれない。


 ────魔力物質の構築過程を省略。全部一気に纏める。未完成でもいい。師匠が思考して防御に動くまでに想像を描く。魔力によって放たれる超低温が地面と師匠の足を繋ぐように凍らせた。


 師匠にとってはこの程度の氷など足止めにもならない。ただ一瞬でも判断を遅らせられればそれでいい。


「────?」


 足を地面と共に凍らされてクレイヴの視線が僅かに下に動く。その瞬間を見逃さずに、ソニアはクレイヴの視界から消えて視覚外からの攻撃を仕掛けた。クレイヴは足と地面を繋ぐ氷を破壊し、ソニアの気配を探った。


 だが、その一瞬を狙っていた。


 ソニアの存在を見失い、たった刹那の間だけ探すその瞬間を見逃さずに──ソニアは木剣を振り払う。空気を切り裂き、横一閃に薙ぎ払った。


 ────視線は断ち切った。気配を感じる間もない。あとはただ力いっぱい振り払うだけ!


 そう感じて、全力で振り払った。


 瞬間、ガラスが割れるような破砕音が響くと共にキラキラと太陽に照らされて水晶片が視界に飛び散る。木剣で叩き斬った感触が明らかにおかしい。人体を斬る鈍い感触ではなく、硬質物を砕いたような感触だ。


「…………えっ?」


 視界に広がる無数の光の正体が、自分の魔力で作り出した氷の破片であることに気が付いた時──もう既に遅かった。クレイヴは足止めに使われた氷を砕いたと同時にそれを防御に使っていた。

 人差し指で額を強く押されて、ソニアは蹌踉めく。またもや一本を取られてしまった。


「はい、四本目」


「うっ、うぅ……師匠、三本目です」


「あ、そうだっけ? まあでも──」


 すぐさまクレイヴは木剣をソニアの喉元に突き出して意地悪な笑みを浮かべた。


「これで四本目だね」


 クレイヴにそう告げられてソニアはしょんぼりと肩を落とす。師匠相手にまったく歯が立たず、思わずガッカリして俯いてしまう。しかし、クレイヴはソニアの頭に手を置いた。


「まあでも、さっきの手は悪くなかった。俺じゃなかったら当たってたね」


 関心の声を漏らして頷くクレイヴ。ソニアの頭を強く撫でて、整った白い髪がくしゃくしゃになる。ソニアは恥ずかしくて頬を少し赤くするが、温かな感触に満更でもない様子だった。


「師匠、私はもう子供じゃありません。撫でるの、やめてください」


「ヤなこった」


 意地悪な笑みを浮かべるクレイヴに、ソニアはぷくうっと頬を膨らませる。完全に油断しきったそのアホ面目掛けて、手を払い除けると木剣を一気に突き出した。


「今度こそ隙ありっ!!」


 だがしかし、クレイヴはその不意打ちを容易く回避する。そして反撃を繰り出して頭頂部に手刀が落とされる。ふぎゃ、と意味の分からない悲鳴が口から漏れて、ソニアは頭を抑えた。


「だから言ったじゃん。たとえ隙があっても、それを言ったら意味がないでしょ」


「うぅ、はい……」


 クレイヴは呆れたように木剣を肩に担ぐ。彼が溜め息を漏らした時──伝令鳥が翼を羽ばたかせながら、クレイヴの前に丸まった文書を持って来た。


伝令鳥(でんれいちょう)? 師匠、また何か怒られるようなことしたんですか?」


「おい待て、俺がいつも怒られるようなことしてるみたいに言うな」


 伝令鳥の足に巻き付いた文書をほどき、手に取ったクレイヴがソニアを睨む。するとソニアはクレイヴに詰め寄り、彼は半歩後退った。


「この前だって、定期連絡でお城に入ったら高いツボを割ったじゃないですか!」


「いや、あれはなんというか、クソな王様にムカついて……てへっ」


「てへっ、じゃありませんよ! だからって数百万もするツボを割る人がどこにいるんですか!」


 ソニアは怒りを露わにしながらクレイヴに詰め寄る。するとクレイヴはペロっと舌を出した。そんな適当なクレイヴに向けてソニアは更に声を荒げ、腕を組んだ。


「私が何度も頭を下げている中、挙げ句の果てには、王様に向かって中指まで立てて……」


「そういうソニアだって、この前めちゃめちゃ高いプリン買ってたじゃん」


「うっ……それとこれとはまた話が別ですよ! それにあれは、私が頑張ってお小遣い貯めて買ったんですよ!」


 頬を少し赤くするソニアが「そ、それよりその封筒の中はなにが書いてあるんですか?」と、クレイヴが手に持っている文書に目を向けた。


「ああ、そうだった……」


 クレイヴは伝令鳥の頭を撫でてから文書をまとめている紐を解く。丸まった羊皮紙にはアストラリアに属する『リヴァーレ騎士団』の紋様が記されているが、その証がクレイヴに対する警告文である可能性は高く、二人は固唾を飲んだ。

 彼の後ろに回ったソニアが少し背伸びをして文書を覗き込み、声に出した。


「通達。聖騎士選定試験に先立ち、候補者の力量を見極めるための前哨戦を執り行う。『聖騎士選定試験・第一次試練』への参加資格は、前哨戦に勝った者にのみ与えられる。候補者は三日後の正午、王都闘技場にて開始する……師匠、これって……!」


「おお、やっと来たのか。日頃の勉強の成果が出たみたいだね」


「やった……! やった!!」


 ソニアは笑みを溢して喜びを身体で表わしていた。

 その通達は、ソニアが小さい頃から夢見ていた聖騎士への第一歩だった。正式に聖騎士に選ばれるには、第一次第二次第三次と試練を乗り越え、その適正に合わせて聖遺物と呼ばれる太古の遺産を与えられる。そこで聖遺物に認められれば、晴れて聖騎士として認められる。


 銀氷の聖騎士に憧れてずっと剣を振り続け、その夢がようやく道の中で光り輝き始めた。

 拳を握り締めて、ソニアは笑う。そんな彼女の表情を眺めながら、クレイヴも微かに微笑んだ。


「デビュー戦は一対一のタイマンみたいだね」


「相手は……レオン・グランツさん。師匠、知ってますか?」


「知らん。俺、人の名前と顔が一致しないから」


 堂々としたクレイヴの言葉に苦笑しながら、ソニアは自身の内側が熱くなるのを疑わなかった。夢の為の努力が、こうして実を結んだ。その実感こそが自身をまた一歩先へと進めてくれる。そう信じて、顔を上げた。


「師匠! わ、私、頑張ります! 必ず、師匠の期待に応えて見せます!!」


「うん、期待しているよ」


 目を輝かせるソニアを、クレイヴは優しく撫でる。さっきは嫌がっていたソニもどこか嬉しそうで質の良い白銀の髪が指に梳けていく。そうしていると、クレイヴの肩に止まっていた伝令鳥が鳴いた。


「そうだった。ご苦労様、行っていいよ」


 クレイヴは伝令鳥に優しげな表情で労いの言葉を呟いて餌をやる。その瞬間、どこからともなく現れたロビーがクレイヴの手から餌を一口で平らげた。


「あっ!」


《 呵々(かか)! 残念だったな間抜け面! 》


 ロビーは豪快に笑い飛ばすと、そのまま蛇のような身体をくねらせながら小さな翼を羽ばたかせて空の彼方まで飛んで行く。すると、遠い空から一体の子供のドラゴンが鋭い爪を光らせて、一瞬でロビーを捕まえた。


「あ」

「あ」


 ドラゴンが翼を羽ばたかせてどこに飛んでいく。ロビーはクレイヴとソニアを見下ろしながら何かを叫んで訴えていたが、もう既にその姿は点となって見えない。


 残された二人はぽかんと呆気に取られている様子で、クレイヴは眼を細めてロビーが消えた空を見つめた。


「同じドラゴンでも餌に見えるんだな、あれ。まあ蛇竜だし、蛇と対して変わらんか。蛇って美味いの?」


「さあ……。ロビー、大丈夫でしょうか?」


「まあ大丈夫でしょ。あれでも元は次元を飛び越えたりできる上位の竜種だし。もしだめだったら庭に埋めてやろう」


「食べられたら埋めるものもないのでは……?」


 二人は互いに見つめ合ってから肩を竦める。そして大した心配の様子も見せずに踵を返した。

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