Ⅲ*悪夢
何かが追いかけてくる。
それが何なのかはわからない。
だが、私はそれを確実に「怖い」と思い、「逃げなくては」と本能的に感じている。
どれだけ走ったのかわからない。
とにかく走って、走って、逃げた。
だが、奴は確実に私を追ってくる。
―――…
――――――
「…またこんな時間」
間宮嶺は、枕元に置いてあるスマホの【2:23】という表記を見て、小さくため息をついた。
ここ最近、連日悪夢に悩まされ、まともに眠れていない。
見る内容はいつも同じ。なぜこんな夢を見るようになったのか、まったくわからない。
ベッドから体を起こし、水分を摂ろうと冷蔵庫に向かった。
テーブルに座りぼーっとスマホをいじりながら、ふと「悪夢」と検索をかけてみた。
「どうせ寝ても悪夢しか見ないんだし、対処法でもあればな」
表示されたSNSのつぶやきを見ると、「悪夢を見たときは無理やり寝ない」「ホットミルク」「悪夢は予知夢」などよくある体験談が多数投稿されていた。
それらをスクロールしながら流し読みしていると、ふととあるワードが目に入った。
「夢、売りませんか」
「夢を…売る?」
表示されたページをタップすると、ホームページらしきWEBサイトに飛んだ。
【見たい夢はありませんか?当店では様々な夢を販売しております! 見たい夢がない場合はオーダーメイドでも承ります! 悪夢や気持ち悪い夢を見てしまった方!あなたの夢、売りませんか?】
うってつけじゃないか。
そういえばなんとなく聞いたことがある気がする。最近、脳科学の解明が進んだことにより、「夢」をコントロールできるようになったとか。「夢を売る」というのも、脳科学の方面で「夢を取り出す」ことができるようになって、新たな職種が誕生したとニュースで話題になっていた。
ちょうど今日は休みだし、行ってみるか。
――――
「おはよう」
「おはよう。あれ、また眠れてないの?」
妻のサユリが、心配そうにこちらを見つめる。
「ああ…わかる?なんか最近変な夢ばっかり見てさ」
「クマすごいよ。大丈夫なの?」
「さすがに1週間くらいちゃんと眠れてないかな。でもよさそうなの見つけてさ。今日ここ行ってみようと思うんだ」
【ゆめ販売店】のホームページを見せる。
「これって、最近発明されたっていう、夢を買えるってところ?」
「そうそう。悪夢も買い取ってくれるらしくてさ。ついでにいい夢があったら買ってこようかなって」
「でも…なんかこわくない?脳に直接何かされて、廃人とかになったら嫌だよ」
「レビューとかクチコミ見たけど、そんなに危険なものじゃないみたいだよ。それに、流行最先端って感じでいいじゃん。眠れるならどんな手段でも試したいし、物は試しだって」
―――――
【執筆中】