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ゆめ販売店  作者: みちる
1/3

Ⅰ*スカイハイ

―――この世界では、”夢”を自由に売り買いできる。

自分が見たい夢を「買い」、束の間の休息を楽しむ。

「いらっしゃいませ」笑顔で迎える店員の前にあるショーケースの中には、色とりどりのスイーツ、ドリンク、錠剤が並ぶ。


「今日はどういった”夢”をお探しですか?」

ショーケースを眺める女性。仕事に疲れているのだろう、ぼうっとしているのが傍目に見てもわかるほどだ。


「…思いっきり現実離れしたもので、爽快なものがいいです、空を飛ぶとか」


「それでしたら、こちらはどうでしょう」慣れた手つきで店員がショーケースから小さなボトルを取り出す。中はまるで青空のような青い液体で満たされており、ぱっと見るとまるで子供に処方されるシロップ薬のようだ。


「こちら、つい2日前に入荷した”スカイハイ”です。売却された方によれば、”ジャンプ力が上がる”。まるで無重力状態の月面のように、1回のジャンプでどこまでも跳べて、地面がトランポリンのように感じられるとか」


「へえ…ちょっと仕事でもやもやすることがあって…思いっきりジャンプしたら、気分がスカッとしそう…」


「寝る前にこの線のところまでキャップに注いで飲んでください」


「あの、じつはここ初めて来て…夢の服用も初めてなんですけど…大丈夫でしょうか。これ、薄めたりしないでそのまま飲むんですか」


「物によりますけど、これは薄めなくても大丈夫です。ジュースだと思って飲んでもらえたら飲みやすいと思いますよ。くれぐれも用法容量は守ってくださいね。服用は1日1回までです」


「もし思い通りに夢を見られなかったら、追加で飲んでもいいですか」


「キャップ半量まででしたら大丈夫です」


「それ以上飲んだら?」


「大概、悪夢に変わりますが…最悪、戻ってこれなくなります。薬の過剰摂取をイメージしてもらえたら」


「…わかりました」


「150ミリリットルで、1500円になります」


―――


帰宅後。


「よし」

水原加奈子(みずはらかなこ)は購入したボトルを見つめていた。


いつも通り、夕飯を作り、食べ、片付け、お風呂にも入った。あとは寝るだけだ。

確かにただお菓子を買うように簡単に購入できた。今まで「夢を買う」ということへの恐怖とハードルの高さから近寄ったことすらなかったが、今日は特に仕事でやってもいないミスを押し付けられ、上司に怒られてとてもむしゃくしゃしていた。退勤後、気づいたらあの店に足を運んでいたのだ。


「無意識って怖いな。まあ、これも運命ってことで」


ボトルを開け、青い液体をキャップに注ぐ。匂いをかいでみるが、特に何も感じない。

ベッド周りに水、スマホがあることを確認し、ごくごくと一気に飲み込んだ。


…例えるなら、ソーダとミントを合わせたような味。後味に若干の薬臭さがある。

旅行前のような、わくわくする気持ちを高ぶらせつつ、水を含み、ベッドに横になった。



―――


「うわぁ!!」


気づくと加奈子は見知らぬ草原にいた。

爽やかな風がそよそよと頬を撫でる。


見上げると、真っ青な青空に、もくもくと動く入道雲。遠くには海が見える。どうやら夏のようだ。

つい走り出したくなる。思った時にはもう、走り出していた。

風と一体化するようなこの感覚。こんなに思いっきり走ったのはいつぶりだろうか。


「気持ちい―」


少し走ったところで、ごろんと横になった。

いつの間にか、高台に来てしまっていたようだ。

見下ろすと、まるでミニチュアのような街並みが目に入る。どうやらここを降りてすこし行けば海に出られるようだ。


「飛び降りちゃえ」


柵を超えてえいっ、と飛び降りると、ぽーん、と着地地点から自分の足が跳ねた。まるで足にバネがついたかのよう。もう一回着地地点で足に力をこめると、文字どおり「ひとっとび」で海についた。

さらにどんどん力をこめると、どんどん高くまで跳べる。宇宙だって行けそうだ。


「すごい、どこまで跳べるんだろう」


どんどん、どんどん街並みが遠く、小さくなっていく。

同時に、空がどんどん近くなっていく。


空に触ろうとした、そのとき。


遠くで、かすかに音楽が聞こえてきた。

どんどん大きくなってくる。


何かはすぐにわかった。

いつも設定しているアラームだ。


「もう少しで星に触れそうなのに」

若干焦りながら足に力を込めて、もう一回ジャンプした。


――――




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