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すっかり立場を弁えた王子様による、誠意の天丼と逃避行

夜の闇に紛れた逃避行は、明確な殺意を持った敵対者による追跡を常に警戒する必要に迫られていた。そんな道中の緊張感は、強靭であるはずの魔術師の精神をも蝕んでいた。


「何に巻き込んでくれてんだお前ぇl!犯罪の片棒担がされるなんて聞いてねぇぞ!!」

「あはは、必死すぎ。ウケる」

「コラ〜!!将来設計崩壊パンチ!!」


「キャー!この人フケイです!」と悲鳴を上げて逃げだしたフィリップを追いかけ回すニコラという光景に、周囲の男たちは遠い目をしている。その中にケンプフェン王国第一王子ウィリアムス・フォン・ケンプフェンその人も含まれていた。





ケンプフェン王国の王都を粗末な荷馬車で走り抜けたジャンとベルナールが、フィリップによって案内された“協力者”の待つという建物の一室には、部屋の質素な内装とはチグハグに見えるほどに高級そうな寝巻きとガウンを着込んだ男性と、いつも通りの森の探索にでも行くような格好のニコラという異色な二人組が待ち構えていた。

どうやらまんじりともせずに待機いたらしいニコラは、フィリップが姿を現した途端に襟首を掴んで揺さぶりながら怒鳴りつけたのだった。

埒が明かないと見たジャンが「はいはい、おとなげないですヨォ」と、ニコラを物理で押さえているうちに、ウィリアムスの様子を診ていたベルナールがフィリップに向き合った。


「おい、どういうことだ。何で王宮にいるはずの王子様がここにいるんだ」

「ハイハイ!俺も王子様だよ!」

「おい、ジャン。こいつ2、3発殴れ」


ニコラから手を離したジャンが「お口〆ましょうネェ」と袖を捲り上げたのを見て、「待て、話し合おう」と真顔になったフィリップが皆に座るように促した。


「結論から言うと、この人を王宮に置いておくとそのまま殺されちゃうので一緒にこれから逃げまぁす」


フィリップの宣言に、まだ落ち着いていなかったニコラが口を挟んだ。


「いや、だからって誘拐するぅ?しかもよその人間こんなに巻き込んでさぁ…」

「お前は雇用契約書をちゃんと確認しないからだゾ⭐︎」

「なるほど〜業務には人攫いを含みますって書いてあったんだなぁ…って絶対書かねえだろお前はよぉ!」

「これから経歴書に人攫いの経験アリって書けるじゃん。ヤッタネ!職務の幅が広がりんぐ◯」


「ゴルァ!!」と、また小競り合いを始めた二人は、「はいはい、ケンカしないヨォ」と割り込んだジャンによって瞬時に制圧され、首という急所を抑えられた状態で彼の両脇に抱えられる羽目になった。


「それであの宮廷医師団とかいう連中は、雁首揃えてこの王子様の治療を碌々してなかったって訳か…つか、何で俺らまで狙われたんだよ?」

「そりゃお義父さんが治しちゃうからだよ。向こうにとっては都合悪いしね。ならついでに王子殺しの罪でもなすりつけて、一緒に始末しちゃおってなったんじゃない?」


ベルナールの疑問に、ジャンの小脇に落ち着いてしまったフィリップが答える。軽い口調で空恐ろしいことを言う少年に、全員が息を呑んだ。


「それは…弟の、バラードの指図なのか?」


静けさの中で初めて口を開いたウィリアムスの言葉に、フィリップが一緒スッと目を眇めたが、すぐにいつもの笑顔になる。


「えー?ボクそういうのわかんなぁい」

「お前は何ならわかるんだよぉ!」


自分の胴体越しに話す二人を、ちょっと腕に力を入れることで静かにさせたジャンが、小脇に収まったままのフィリップに問う。


「フィリップ殿下、今この建物の外に着いた人たちは味方ですかねぇ?」

「オッ!さっすが勘がイイじゃん!…俺が出迎えないと警戒されるから、ちょい離して」


ジャンが手を緩める前に、自分で首をすぽんと抜いたフィリップがドアまで駆けていく。あまりに衝動的すぎる王子様の行動に、「オイッ、コラ待て!警戒心無さすぎ!」と、思わずニコラも同じようにしてその背を追った。


ドアを開けた先には帽子を目深に冠った二人の男が立っていた。彼らは室内を見るでもなくフィリップと小さく二、三の言葉を交わすと、自分達が乗ってきた馬車と、フィリップが盗んできたというそれを交換して去って行った。






かくして、王子二人と護衛二人と医者一人という異色のチームは、夜の町をまた馬車で走り始めた。小さく粗末な馬車から、幌に覆われたやや大きめな粗末な馬車に乗り換えた御者席には、ヴォルテール家のボルドーの詰襟を脱いで紺色の外套を羽織ったジャンと、フィリップの二人が座っている。


「さっきの、ヘルムフューレンの人たちですかぁ?」

「えー、どうだろ?わかんないなぁ?」


フィリップ曰く、綿密に計画されていたというこの第一王子の救出劇であり、ケンプフェン側から見れば誘拐劇でもある逃避行は、いくつものチームが違う役割をもって動いており、「チェックポイントまで着かないと、次の行き先は俺にもわかんないんだー」とのことだった。


「俺たちが逃げやすいように陽動するチームもいるみたいだよ」


そう言ってヘラリと笑ったフィリップに、ジャンは進行方向から目を離さないまま口を開く。


「あ〜⤵︎それじゃあ僕らのことも囮に使ったんですネェ」

「…いい勘してるジャン⭐︎流石ヴォルテールの精鋭だ」

「その天丼はいらないですネェ。で、あの部屋は何なんですか?」


少し考えるような間を置いてから、フィリップは説明を始めた。現在、ケンプフェン王国で魔力を無効化する仕組みが開発されたこと、その技術についてヘルムフューレン王国は危険視していることを。


「そういうもんがあるのは知ってたけど、一部屋丸ごとを干渉範囲にする程とは思ってなかった。うちにとっては収穫だよ…嬉しくはないやつだけどね」


今回あわよくばその技術を奪って解析したいというのが、フィリップの目的らしい。


「へ〜、その為に僕らを使って実験したんですネェ⤵︎」

「お前なら大丈夫って信じてたんだヨォ⤴︎」


おそらくあの部屋の近くに潜んで様子を伺っていたのであろうフィリップは、だからあのタイミングで窓から落とした鞄まで持って現れたのかと、分かってしまえば簡単すぎる謎解きをジャンは頭の中で片付けた。

チラリとフィリップを見ると、いつも通りにヘラリと笑っている。この子供がどの程度計画に関わっているのかはわからないが、わざわざ気付かれるようなヒントを拾ってきたのも、彼なりの誠意なのかもしれないとジャンは考えた。


「単独行動はどうかと思いますヨォ」

「この町ではお前らより俺のがステルス性能高いからいいの」

「そうですかぁ。…話は変わりますが、ここで聞いたお話は僕の身には余るので、全部お嬢様に報告しますね!」


ジャンの宣言に、今の今まで余裕綽々という顔で笑っていたフィリップの顔が途端に引き攣った。


「いやお前、それはさ、なんか違うじゃん…?」

「フィリップ殿下が!僕とベルナールさんを囮にして!新兵器の効果を確認して!喜んでました!と、そう報告します!」

「えっ、なにそれ…マジなやつ?やめようよそういうの…ねぇ、ホント良くないって絶対…」


明らかに顔色を悪くして懇願するフィリップに、今度はジャンが笑顔を向ける。


「僕はお嬢様の騎士なので!報告は任せてくださいネェ⤴︎!」

「やめて!」


腰に縋り付いてくるフィリップは、だが道案内は以前と同様に完璧にこなしている。お嬢様に対する強い執着は確かにあるのにどこか冷静さを捨て切れない彼は、この年齢にしては抱えるものが多いのか。何となくそんなことを思いながらも、「こういう所はヴォルテール家の使用人仲間にも共有しよう」と、ジャンはフィリップの想像を超える仕打ちを計画していた。








「なんだアレ、うるせえな。蹴散らすか」

馬上から目に入った光景に、バラードが吐き捨てるように言った。


第一王子と彼を誘拐した者達を追っていたケンプフェン王国の第二王子であるバラードは、夜の街に煌々とした灯りが集っているのを目にして、不快感を露わにした。夜中にも関わらず集まった彼らは、口々に何か叫んでいるようだがバラードにとってはただの騒音でしかない。


「労働者の権利を主張する集会だそうです。昼間からやってたみたいですけど、”話し合い”ってヤツがちょっと前に物別れに終わったらしくて…」


部下の報告にやや考えるような間を置いたバラードは、ニカッと笑って自ら率いてきた部隊を振り返った。


「じゃあ、殺すか!おいお前ら!何人か見せしめに殺して、あとはしょっ引くぞ!サーベルのオテイレみてえなもんだ!」


隊員達はワッと湧き立ったが、それを聞いて部下の男が顔色を悪くする。


「待ってください!あの中には議員も混ざってるそうです!」

「…あ゛?…あー…」


眉間に皺を寄せたバラードが、テンションがダダ下がりの状態で忌々しげに呟く。


「不逮捕特権ってやつかぁ…」

「それに、ですね!前の時みたくなったら困るってんで、攻撃の指示は出ていません!」

「ハァ?じゃあどうすんだ。あんなんそのままにしといたら、邪魔くさいじゃねえか。わざわざ迂回して行くのかよ!」


急を要すると王宮からきた伝令を、この上官はちっとも聞いていないことに歯噛みをしながら、部下の男は根気強く説明する。


「こちらで、待機して、民衆が暴動を起こさないように監視しろと…」

「ハァッ!?バカかよ!みすみすアイツら見逃すのか!?バカ宰相が!」

「王からのご命令です!!」


グッと言葉を呑んだバラードは、だが堪えきれずに「クソが!」と吐き出した。

この街で数年前に起きた民衆の暴動は、まだ皆の記憶に新しい。その時も制圧しようとした軍に民衆は反発し、却ってその勢いを煽る結果になった。民衆は軍の倉庫を襲い、最新式の銃器を奪って軍人たちにその銃口を向けたのだった。

あの騒ぎで奪われた最新式の銃は他国に流出してしまった。今回もまた同じ現象が起こっている事に、バラードは苛立つ。


彼は王子で、王には逆らえない。王がアレを”見逃してもいい“と考えているのならば、それに従うしかない。

騒ぐ民衆を彼は再び見やる。父にとっての兄が、この連中よりも”些細なモノ“であるのならば、それはバラードにとって僅かながらに救いでもあるのだ。

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― 新着の感想 ―
陰謀渦巻く、ケンプフェン編は止まることなく、フィリップ殿下の思惑通り?に進むから、なんだろう、フィリップ王子にかかると、いつの間にか四つ角全部取られたオセロみたいに、あっと言う間に負けそうな気分になり…
ニコラさん巻き込まれにきたの!? 「この王子様面白い」でとんでもないとこまで着いてきちゃった! 二人で小脇に抱えられてるのカワイイです。ジャンさんつよい。 ニコラさんしてやられたけど、ユベールさんです…
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