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薄黄色の銀葉アカシア

_なんか地味だし、ずんぐりむっくりしてるし…私のが細くてずっと可愛いよね?


これがアデライドに初めて会った時の、ミモザの率直な感想である。11歳の少女を相手に、20代の女性が同じ土俵で競おうとしている。その様はだいぶキツイ。しかし本人の前で口に出さなかっただけでも、彼女にしては配慮が出来ている方であった。


_公爵家のお嬢様なんてもっとキラキラしてると思ったのになぁ。


がっかり。と、本人は思っているつもりであるが、意識下では安堵していた。

彼女は平民であるが魔力が強い。そのため学生時代は貴族もいる環境で学ぶことを許された。そこで彼女は貴族という生き物たちと対立し、大いに嫌われた。特に女子には蛇蝎のように嫌われて、徹底的に無視された。このとき“ランベールと付き合ったからみんな嫉妬してるんだ”と彼女は考え自身を慰めたが、付き合う前も別れた後もずっとじっとりと嫌われている。

そういうミモザを嫌った女性たちとは違う、どこか粘り強い振る舞いをアデライドは熱心に続けていた。


「ミモザ様。こちらのフランはほうれん草が入っておりまして、甘くありませんのよ。よろしければ召し上がって…」

「エエー重くないですかぁ?そんなの食べられないですよお!」


食い気味にくるミモザの拒絶に、アデライドがしおしおに萎れる。すると研究員たちが出てきてワーワー騒ぐのだ。「この間うるさいって怒られたのに懲りないなぁ」と、呆れるミモザの前にトコトコとまたアデライドがやってきた。


「このような可能性も考えて、サブレも用意しておりましたの。…召し上がってくださいますか?」


なんでこの子は私にお菓子を食べさせたがるんだろう…と思いつつ、仕方がないと上目遣いに見上げてくるアデライドの持ったお皿から小さなサブレをひとつ摘んで口に入れると、甘みではなくチーズの強い風味が広がった。「おいしい」というミモザの小さいつぶやきに、アデライドがばっと顔を上げる。


「そちらはパルメザンチーズのサブレですの!右側のものはエダムチーズ入りですわ!どうぞ!!」


アデライドの勢いに押されて、黙ってもう一つを摘んだミモザは、「ビールと合いそう」と思わずこぼした。


「マァ…!ビールはございませんが、コーヒーなら用意しましたわ。お召し上がりになられますか?」

「お砂糖はいらないですよ」

「ふふ。心得ておりますわ」


なぜかニコニコと用意を始めた公爵令嬢に、男たちが寄ってたかって手を貸し始める。貴族相手だからって媚びてるのみっともないなぁと、興味を失ったミモザはランベールの方に向かった。だから彼女は彼らの会話を耳にすることもなかった。


「やったねアディちゃん。統計通りだ。酒飲みはチーズが好きってね」

「いや、その判断は早計だ。追試で再現性を確認しないと」

「じゃあさ、次はミニクレープにクリームチーズ巻いたのとかどうかな?」

「まぁ、素晴らしいお考えですわ!早速試してみましょう!」


そんなふうに彼らが共謀して楽しんですらいたことを、ミモザが知るのはもっとずっと先のことだ。




ほうれん草のフランの他に、自分用に持ち込んでいたカスタードクリームのフランを皆と分け合ってもぶもぶと咀嚼していたアデライドは、パイ生地をお茶で飲み込んだ勢いで話を切り出した。


「アノッ、皆様。お忙しいところ誠に申し訳ありませんが…今年もわたくしの誕生会に出席していただけませんかしら?」


オドオドと顔色を伺うアデライドに、モーリスたちがことさら明るく返事をする…前に、スピード感で勝るミモザの考えなし発言が炸裂した。


「エエー!そんなこと急に言われてもわからないです!」

「ワーッ!アディちゃん!ぜひ参加させて欲しいな!」

「メッ!めっちゃ楽しみだよ!ヤッター!」

「オッ!お誕生会の再現実験だね!一年ぶり2度目だねっ!」


結局いつもの団体芸を反復した彼らに、アデライドは眉を下げて首を振る。


「いえ、今年は…昨年とは違いまして、皆様にも貴族の方々と同じ会に出席していただきたいのですわ」

「「「「エエー!」」」」


全員が瞬発力だけの存在に成り下がったところで、我関せずという顔をしていた男がようやく参加してきた。


「それは公爵家の方針ですか?」

「はい、ランベール先生。わたくしが研究を支援していることを、他の貴族の皆様にも知っていただいた方がいいと言われまして…」


ランベールの脳裏にプルストの顔がチラついた。あの過保護な従者は、女性研究員も入ったことでやっと大っぴらに発表しても問題ないと判断したんだろうと。


「それでですね。皆様にはご無理を強いてしまいますので、せめてお洋服はこちらでご用意させていただきたく…」

「「「「エエー!」」」」


貴族を招待した場所に、いつもの格好で来るなということだろうと考えていたランベールにも、アデライドは「ランベール先生もよろしければ」と目配せをした。ドレスコード配給の列に平民たちと同じように並ばされた伯爵家当主は、当たり前のように二つ返事でそれを了承した。同僚たちの「「「エエ…?」」」という反応を丸ごとスルーして。


「今年も都合上5月に催しますので、申し訳ありませんが急ぎ公爵家まで採寸に来ていただきたいのですわ」

「エエー!いま2月ですよ!そんなに先なのに!私の誕生日なんて2月ですよ!あ、ランベールもだよね!」


そう言ってピタリとランベールにくっ付いたミモザに、アデライドが目を丸くして、モーリスたちは目を三角にし、ランベールは目を逸らしながら距離を取る。


「マァ…!存じ上げずに失礼を致しましたわ。ではドレスを仕立てるのと一緒に、ちょっとした贈り物を用意させてくださいまし」

「エエー!いいですよ!」


“結構です”の意味ではなく、“了承しました”の「いいですよ」だと確認したアデライドは、ホッと胸を撫で下ろしたのだった。






「エエー!香水なのはいいですけど、ミモザの花の香りなんだぁ。私ってこの名前だから、昔からずっとミモザのモチーフのものばっかり貰ってて、正直飽きてるんですよね!」


2月の半ば、ヴォルテール公爵家に呼ばれて採寸を終えたミモザは、アデライドからのプレゼントにそう言い放った。


メイドやパメラたちの殺気に紛れて「なんかすごい人が来ましたね!」とポールがバカでかい声を出す。だが賑やかしフォロー部隊ことモーリスたちの居ない今日、ミモザの無敵状態は続いてしまう。


「あれ?手紙がついてますね!えっと、ミモザの花のように明るい貴女に感謝を込めて作りました…ですって!よく言われますねこれも!お店の人が書いたやつですか?」

「わたくしが…書きましたの…あの、これはオーダーメイド品でして…」


無敵ミモザに蹴散らされて、真っ赤になった顔を手で覆って俯いたアデライドに、彼女は特に感慨もなさそうに「フーン」と返した。


「世界にひとつしか無いっていうなら貰ってもいいかも!瓶は可愛いし」


「アッ!その瓶はこの子がデザインしてくれましたのよ!とっても可愛らしいですわよね!」と、アデライドはまだ赤いままの顔を嬉しそうに綻ばせて、傍でずっとプンプンと頬を膨らませているパメラの腕を取る。


「エエー。部屋に飾っておきます!」


最初から最後まで完璧に空気を読まない無敵状態で走り抜けたミモザに、その道の雄であるポールまでもが「ほんとにすごい人ですね!」と、賞賛なのか驚嘆なのかわからない言葉を投げつけていた。






「ミモザは天才なんだ」


短い2月の終わる頃、自身の召喚した無敵生物ミモザの監督責任を放棄しているのではないかと、そう同僚たちに糾弾されていたランベールは、気まずげな顔をして呟いた。

周囲の納得しかねるような表情を見てとったランベールは、手の平を上に向けると拳くらいの大きさの水の塊を作り出した。


「水の魔法だが、こうやって空気中の水分を集める方法を編み出したのは…他ならぬ彼女だ」

「昔からそれくらいは魔術師なら普通にできたんじゃないのか?」


同僚の質問にランベールは水の玉を出したまま、説明のために黒板に図を書いた。


「従来とは方法が違う。目には見えないが、ごく小さな有機物と魔素を魔力で結合させて、枠組のような構造物を作っている。そしてその中に小さな水の粒子を取り込んで閉じ込めているんだ。同じ構造で水以外の他の微粒子を選んで吸収することも出来るし、そのまま貯蔵しておくことも可能だ。使用する魔力量も考えうる最低限のままに、だ」

「あっ、それの論文は読んだことあるぞ」

「僕も。君も共著で名前載ってたからさ」

「確か名前がついてたよな。”ミモザの檻”って…」


そこまで言ってようやく気がついた彼らは、バッと一斉に振り向いた。


「そうですよ!私が作った魔法だから、私の名前をつけました!」

「「「エエー!」」」


欠席裁判と思いきや、何食わぬ顔で出廷していたミモザの誇らしげな返事に、彼らは心底驚いたように大きな声をあげた。


「ミモザはまったく意識せずに使っていたようだが…彼女の学生時代に解析に成功したんだ。結果、今では多くの魔術師によって使われている」


「マァ!そんな素晴らしい魔術師の方とご一緒出来るなんて…」

「そうですよ!すごいんです私!」


感嘆するアデライドの言葉に食い込む勢いで、ミモザが胸を張る。


「これが素晴らしいのは、生成したものを魔術師同士で共有も出来ることだ」


そう言ってミモザへ水の塊を手渡したランベールに、男たちはジトっとした疑念の籠った視線を送る。

「もしかしてコイツ、それ目的で付き合ったんじゃないか…?」そう投げかけられた仮説は、嬉しそうに受け取った水の玉を浮かべているミモザを前にして、確信に変わってしまった。


「お前…!」「最低だ!」「これはもう庇えないよ!」と、モーリスたちに囲まれて非難されていたランベールは、ミモザから目を離した。その隙に「どうぞ!」と無敵生物はアデライドに水の塊をヒョイと手渡してしまった。


途端に丸く浮かんでいた水の塊は、バシャンという音を立てて弾けてしまった。水浸しになったアデライドに、「エエー!」とミモザがまず驚きの声を上げる。何が起きたのかも分からずにポカンとしているアデライドへ、皆が寄ってたかってきた。


「ミモザ!何をするんだ!」

「エエー!だって魔力のある人ならみんな使えるって

、ランベールが言ったんだよ!」

「誰でも使える訳じゃない!一定の才能が…」


ランベールはそこまで言い掛けて「しまった」と口を閉ざしたが、大意は全員に伝わってしまっていた。

だが、アデライドは自分に魔法の才能がないということをすでによく知っていた。だから特に気にすることもなく、数年前に本格的に魔法の授業を始める前にもランベールと同じことをしたのを思い出して、ただ懐かしさを感じていた。

そんなアデライドをタオルで包んでいたモーリスたちが今度はランベールに詰め寄っている。その間、またフリーなスペースを与えられたミモザがアデライドに張り付いた。


「エエー!絶対出来るはずですよ!私が教えてあげますよ!ほら、この辺に水があるから、エイッてして集めるんです!」

「エッ…えいっ…ですの…?」

「エイッで!散らばってるのをギュッて集めて!丸めるんです!ちょうどあんな感じです!」


ミモザの指さす先では、ランベールが男三人にギュッと取り囲まれていた。三対一で小突き回されているようにも見えるが大丈夫だろうか、と気を取られかけたアデライドに、「ダメです!集中です!エイッ!です!」とミモザが呼びかける。

 

やや気が咎めたが、一旦、だんご状になって揉めている男たちを参考に「エイッ!ですわ!」とアデライドは気合いを入れた。すると手の上にビー玉ほどの水の塊がフワリと浮かんだ。

「エッ!アッ!マァッ!?」と慌てたアデライドの手の上で、水の玉はまた弾けてしまった。


「ホラ!やっぱり出来るじゃないですか!」

「エッ、デモ、今まで出来たことがなくって…」

「大袈裟ですねえ。難しいことじゃないんですから、これからもっと上手くなりますよ!」


呆れたように腕を組むミモザを、アデライドはキラキラとした目で見つめた。


「ミモザ様の教え方が素晴らしいのですわ!…先生と、そう呼ばせていただいてもよろしいでしょうか…?」

「エエー!いいですよ!」


了承の意味の"いいですよ!"に、嬉しそうに笑うアデライドの服をミモザが魔法で乾かす。ボルドーのドレスは生乾き状態でまだら模様が出来たが、二人は気にせずに楽しそうに話している。



ランベールが何年掛けて教えても、アデライドはこの魔法を使えなかった。それをミモザはものの数分で覚えさせてしまったのだ。


「本当に天才だね」

そう呟いたモーリスの言葉に、さすがのランベールもわかりやすく打ちのめされている。


因果応報のトップスピードはランベールを置き去りにして、ミモザとアデライドという二人の女性の間に確かな成功体験を生み出した。

巻き戻し前にはなかった出会いが作り出す誤差は、アデライドに魔法の使える楽しさを教えるのと同時に、ランベールの教師としてのプライドを苛むのだった。

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― 新着の感想 ―
ノンデリミモザのひどい言葉から始まりやがりましたわ。と、ずんぐりむっくりは骨密度の高い骨が太いだけで、太ってはいないの。アデライドちゃんは、性格も気遣いも可愛さも最高なのよ!などとハンカチを噛む勢いで…
なんてことでしょう ミモザちゃん…この子のことを好きになるなんて前回は思いませんでした アディちゃんの粘り勝ち&研究員の皆様のアシストが微笑ましくてほっこりします 可愛いですこの人たち。 今回もお菓…
ミモザの印象が ヒドイン亜種→酒飲みの考え無し、ノンデリチャンピオン→まさかの天才かつ意外と良い教師。というわけでしらすごはん先生の手のひらで転がされております。 前回含め美味しそうなおつまみの登場…
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