散発コンプライアンス違反
研究室のコンプライアンス
ー正しい相互理解によるハラスメントの撲滅を目指しましょう!ー
⬜︎そもそもコンプライアンスって?何でしょうか?__
コンプライアンスとは、一般的には法令を守り社会的な規範や倫理を重んじることを意味します。
現在、学問の場として影響力を増している大学では、以前よりも様々な階層からの人材が集まるようになりました。接したことのない出自や性別の人々が集まることで生まれる新しい発想って、素晴らしいですよね?
しかし、悲しいことにトラブルも多く報告されるようになってしまいました。ここではトラブルを避け、互いに快適なキャンパスライフを送るために、注意すべきことや解決策について具体例を提示しながら説明していきます。
事例1 密室に貴族の少女を招いてしまった
女性を男性だけの研究室に招く場合は注意が欠かせません。特にお相手が貴族であった場合は、とても慎重になる必要があります。「まだ子供だからいいと思った」などと考えていると、とんでもないしっぺ返しが待っているかもしれません!爵位を持たない貴方が知らない、貴族の常識を踏まえて解説していきます。
1.貴族女性は家の財産である
こんなことを言うと「人権侵害ではないか」と思われるかもしれません。しかし繰り返しますが貴族の規範と世間一般の価値観には隔たりがあるのです!
2.そもそも貴族女性は家から出ない!
以前は学校というものにも通っていなかったようです。びっくりですね!
3.だから家族以外の男性と接することもなかった!?
教師も御付きもすべて女性で固めていたらしいです。婚活のときも必ず親戚の女性が同伴していたなんて話も?!徹底していますね!
⬜︎この場合の解決法は?______________
1.貴族の少女に、大学に来るのをやめてもらう
とても現実的なアイデアですね!でもなかなかそうもいかない事情があるみたいですよ。
2.貴族の少女に、お家には内緒で来てもらう
こっそりと、抜き足差し足でですね!
バレます!!
3.貴族の少女に、女性の研究者が常に付き添うようにする
男性だけしかいないのが問題というケースでは、妥当な判断と言えますね。今回のケースでは、研究員の爵位持ち男性が知り合いの女性に依頼するようです。…二人はいったいどういう関係なんでしょうね?
⬜︎まとめ_____________________
・貴族の少女を男性しかいない研究室に招くのはコンプラ違反!
・貴族のルールは絶対です!
・爵位持ち男性が連れて来た新人女性研究員。実は彼の元カノ?!
いかがでしたか?調べてみましたが、爵位持ち男性の年収と、現在の女性関係については分かりませんでした!
これからもコンプライアンスを遵守して、実り豊かなキャンパスライフを送りましょう!
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「いかがもなにもないよ…」
新しいメンバーの加わった研究室で、そう呟いたのは誰だったのかはわからない。だがそこにいた三人の男性と、ついでにランベールの気持ちを端的に表すセリフであった。
季節は2月となった。続く寒さに春の到来を待ち侘びていた彼らは、突如としてある事実に気が付いた。
「あのさ、ランベール…アディちゃんって…実はさ…女の子なのか?」
「…それ以外のなんだと思っていたんだ」というランベールの返答に、「やっぱり!?」「どうしよう!?」と男三人がだんご状に集まって慌てふためいている。つい先日まで「あったかくなったらアディちゃんの誕生日だよなぁ。12歳の女の子ってなにが欲しいのかなぁ?」などと言っていた研究室の同僚たちの錯乱ぶりに、流石のランベールも不安を覚えた。
「あのさ、今更だとは思うんだけど、女の子…それも貴族のさ、まぁそんな子が、こんな男だらけの狭い部屋に一人で来るのってまずくないかなぁって気が付いたんだよ。僕らはね」
モーリスが吟味するように辿々しく言葉を紡ぐ。本当に今更だなとランベールは考えながらも、当初から聞かされていたプルストによる苦言が、最近は強く深く釘を刺すようになってきていることを、ついでのように思い出した。
「だが、こちらとしては一人で来てもらえる方が都合がいい」
ランベールの返事に部屋に沈黙が落ちる。皆、口よりも雄弁に、まずその表情で彼を批難していた。
「君それはどうなの??」
「お前と一緒にすんなよお!」
「あんな純粋な子を食い物にして恥ずかしくないのか!?」
口々に罵られながらも「本人も開放感があっていいと言っていたぞ」と、頑なに非を認めないランベールにモーリスが諭すように話す。
「君の言うこともわかるよ。実際僕らも助かっているしね。でもさ、あの子もこれから大人になっていく訳だから、これまで通りとはいかないだろう?」
さすがのランベールも反論の余地はなく「ではどうする。金銭的援助もだが、彼女のデータも欲しいだろう?」と向き合った。
これには良識派の三人ともが、ぐっと言葉に詰まった。子供の成長とともに伸びる魔力量を、継続的に測っているデータは他にあまり無い。倫理観と知識欲の狭間で彼らは葛藤する。
「女性が…いればいいんじゃないか?」
一人のつぶやきに、皆がハッと顔を上げる。
「女性で、それも研究者なら、データを取るときも問題ないね!」
「そうか!それがいいな!」
「やった!解決じゃないか!?」
喜びに沸く彼らは、空気を読まない男の「そういう女性の知り合いがいるのか?」という言葉に、一気に地下まで沈み込む勢いで盛り下がった。ぬか喜びの代償としては大き過ぎる傷を負わされた彼らは、「じゃあお前が探してこいよ!」とあらゆる諸悪の根源であるランベールに人材の確保を任せてしまったのであった。この選択が大きな後悔を生むことを、この時の彼らはまだ知らなかった。
突発的に降って湧いた危機感によって決められた人事は、ろくな準備も心構えもなかったせいか、事故のような自己紹介から始まってしまった。
「はじめまして!私はミモザ・ポルムといいます!ランベール…あっ、じゃなくって、…ロワイエ伯爵、っには昔すごくお世話になってまして、これからよろしくお願いします!」
勢いよくお辞儀をしたせいで、ぴょこんと前髪が飛び上がったままの顔でエヘヘと笑う彼女は、素朴な可愛らしさに溢れた女性だった。垂れがちな紅茶色のつぶらな瞳と忙しない仕草のせいで幼く見える。だが、その場の全員それぞれにお辞儀をしているうちに、癖のない薄茶色の髪がウサギの舌のようなピンク色の唇に一房くっついてしまったのを慌てて直す仕草には、二十代女性の色気のようなものを感じさせた。
通常ならば歓迎すべき新たな仲間との出会いだが、恋愛についての知見を持たざる彼らにもさすがに察せられるものがあったのか、誰一人として浮かれる様子を見せない。
初対面の挨拶もそこそこに、じっ…とランベールを睨め付ける男たちをよそに、アデライドが歓待のために動き出した。
「では今日のお茶はミモザ様の歓迎会ということに致しませんか?ちょうどお店の新作ケーキも持参しておりますのよ」
ニコニコと機嫌よくバスケットから黒茶色のクグロフを取り出そうとするアデライドに、ランベールが手を貸そうとした。だがそれを制するように、モテざる三人衆が彼女を取り囲んでお茶の準備を始めた。その後ろでちょこちょこっと小さくカニ歩きをして距離を詰めたミモザがランベールと何か話している様を、アデライドの目から隠すように非モテの壁が出来上がっていた。
「こちら2月の新作ですわ。ココアとオレンジピールとナッツを練り込んで焼きましたの。そしてその上からさらに、チョコレートを掛けてコーティングしましたのよ!」
お茶会の準備を整えてから、自身もアイデアを出したというクグロフを嬉しそうに紹介するアデライドに、モーリスたち三人はホッとして拍手すら送った。
だが和やかに盛り上がり始めた空気は、ミモザの一言によって、一瞬シンと静まり返った。
「えっ、カロリー凄そう…」
「…ワーッ!アディちゃん美味しそうだね!!」
「オッ、俺チョコレート大好き!うれしいな!!」
「ミッ、見た目もなんかチョコレートカルサイトみたいで綺麗だね!!」
モーリスたちによる必死のフォローは途中ネタ切れからかおかしなものも混じったが、アデライドをちゃんと笑顔にした。「わたくしが切り分けますが…あの、ミモザ様も…召し上がられますか?」と、上目遣いでオドオドと尋ねてくる公爵令嬢に、「少しなら大丈夫ですよ!」と謎の立場から目線で答える女ではなく、ランベールに対して三人分の非難の視線が注がれた。
「えっ、甘…想像以上かも」
「ワーッ!アディちゃん!これ美味しいね!!」
「チィッ、チョコとオレンジピールがお互いを引き立てあってて最高!!」
「オウフッ、お口の中にココアバターの融解特性を感じるよぉ!!」
必死すぎる男たちが力技でフォローしようとするが、天然女の底力にあっけなく蹴散らされることになった。
「エェー?皆さん甘いものお好きなんですね!私なんか、最近お酒の美味しさに目覚めちゃって、ワインから一周して最近もうビールって感じなんです!そしたらぜんぜん甘いものとか食べれなくなっちゃって。フライドピクルスとビールで一杯が最高って言ったら、もうそれオジさんだよって友達に言われちゃって!」
その場の誰にも関係のないエピソードを楽しそうに話すミモザという女性を、もはや誰も止めることができなかった。「キッツイ…」と誰ともなしに呟いた声は、当の本人には届くことはなかった。そんな中で「あの、では、こちらはわたくしが責任を持って食べますので…」とアデライドがケーキナイフを持ってクグロフを引き寄せた。
「エエー?そんなに食べるんですか?私だったら絶対無理!」
「ワーッ!僕らもまだ全然いけるよ!!」
「シッt、しっとりビターなチョコレートでお茶との相性も最高!!」
「オオン、お口の中で天然油脂の結晶多形性を感じるよぉ!!」
ミモザの発言のたびに被せるようにガヤが入る。部屋の外にも響くほどの大騒動は、他の研究室から苦情が来る程度に続いてしまったのだった。
このままでは皆の精神が持たないという判断により、予定よりも早くミモザには帰ってもらった。
「いかがでしたか?私って粘り強く頑張れるから、ここのお仕事にも馴染めると思うんです!」
そう本人は言い残していった。確かに団体芸のようなものは完成しかけていたが、それを歓迎する者はいなかった。
そんな中で、今日の測定を終えたアデライドは思い出していた。素直で、素朴で、でもだからこそ直截で遠慮のない物言いをするミモザという女性の個性は、聖女ジゼルに似ていると。
彼女はその性質ゆえに他人と衝突してしまうこともあったが、悪気はなくただ思ったことを口にしているだけだとわかるからか、特に人間関係のトラブルはなかったように思う。きっとミモザもそうなのだろうとアデライドは考えた。あと二人とも可愛いな、とも。
ゲーム内でのランベールは聖女に最初から優しかった。アデライドとの初対面時は塩分濃度が飽和状態だったことを考えると、やはりああいうタイプが好みなんだろうなあと、ただそんなふうに観察をしていた。
「アディちゃんすっごい見てるよ…!やっぱり気付くよアレは。かわいそうでしょ!」
「俺らだってすぐにわかったもんなぁ。どうすんだよ?当然フォローはするんだよな!」
「お前の元カノどぎついな。俺は逆になんか安心した。けどそれとは別に〆よう」
同僚からの叱咤とただの感想に対し「他にいなかったんだから仕方ないだろう」と言い訳をしつつも、ランベールも少し萎れていた。女性の研究者も魔術師も、そうそう捕まるものではない。コソコソとだんご状に固まった男たちの群れは、少し距離をとっている当のアデライドの関心が、すでに余ったケーキの方へ移っていることを察知できてはいなかった。「残った分を食べてもいいかしら?」とケーキナイフを手に取ったアデライドは、皆に確認を取ろうとした拍子に、あることに気が付いてしまった。
「ランベール先生…」
振り返った彼らが目にしたのは、深刻そうな顔で佇むアデライドであったが、彼女はその手にケーキナイフを握りしめていた。
「ワーッ!アディちゃん!落ち着いて!」
「ヒャッ、早まらないで!気を確かに!」
「ファッ、アディちゃんやめて!コイツ〆られない!」
チョコまみれだがギラリと鈍く光るナイフと、思い詰めたようなアデライドの表情に、恐慌状態に陥った同僚たちはランベールにしがみついた。そのおかげで身動きできないランベールは、「落ち着いてください」と全方位に被弾させたい言葉を投げかけた。
「ランベール先生…髪が…伸びておられますが…」
「髪?」と予想しない言葉に全員が目を白黒させた。
ランベールは自分で髪を切っている。特にこだわりを持ってそうしているわけではなく、ただ面倒だから雑にザクッと切る。SSRの顔整いだから許される金と時間の節約術だが、最近は色々忙しく放置していたので伸びてしまっていた。
「何か…心配事でもおありですか…?」
「いま特大の奴が発生してるよ!」と全員が思う中、ナイフを持った令嬢がゆらりゆらりと近づいてくる。
「わたくしに…お手伝いさせてくださいまし…」
「ワーッ、アディちゃん!早まらないで!」
「きっ、キルっ、切るなら髪だけに!」
「キョッ、今日はどんな感じに仕上げますかッ!?痒いところはありませんかっ!?」
大の男三人に足を引っ張られる中でなんとかアデライドからナイフを取り上げたランベールは、これからは何があっても髪だけはこまめに切ろうと心に決めるのであった。




