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攻略対象者5 の眼鏡は置いといて、悪役令嬢(仮)の実績解除祭り

春は社交ハイシーズンということで、今年はアデライドも例年に比べてお茶会に参加している。といっても彼女には母や姉という先導者がいないため、毎年ほとんど参加していないし、今年も3回目でしかない。


前回は王宮でのお茶会であったが、なぜかその前にドッジボールに興じてしまったため、ほとんど記憶がない。同年代の女子よりは体力があるだろうと思っていたが、犬のように走り回る男子に付き合うのは無理があった。そんなアデライドと慣れないことをしたラファエル王子は魂の抜け殻のような状態でお茶会に臨む羽目になった。


巻き戻し前に輪をかけて友達がいないアデライドは、今回招待状を貰い背水の陣で参加していたのだが。

「なんかぁ、今回のメンツやばくね?オレまじでぇ、ノリ合わせにくいっつうかぁ、オレらとキャラ違くってぇ…なんかやばくね?だるいやつだよなぁ?」

隣にビタ付けしたエドガーが、声も落とさずディスりと受け取られそうな感想を垂れ流すのに血の気が引く。


「きっとお話しすれば気が合うところが見つかりますわ!新しいお友達を作られるチャンスですわよ!」

アデライドは慌てて声をかぶせて誤魔化す。オレらってなんですの?なんでわたくしをアナタと同じ種族に分類しておりますの!同意を求められても困りますわ!と憤りたいところだったが、なるほどと思うところもある。


今日はクリスティーヌ・ド・リール公爵令嬢からの招待で、アデライド達はリール公爵家の庭に通されていた。そこには季節の花で美しく飾られたテーブルがいくつか配置されていて、先に到着したらしい招待客が席に案内されるのを待っていた。


アデライドたちと同じ年の客ばかりなのは王宮の時と変わらなかったが、人数がかなり絞られており爵位が高い家の者が多かった。男子はエドガーと、王子と、眼鏡の人…彼には見覚えがあった。攻略対象者だ。眼鏡枠の。

だが今はそれどころではない。確かに彼らは現状のエドガーとはキャラが違いすぎた。地元公立組と中学受験組っぽいとアデライドは考えたが、語弊があるし角が立ちそうな例えだったので、体育会系陽キャと文化系陰キャと言い換えてみたら、それも角が立っていた。そう思うとエドガーが気後れするのもわからなくもなかった。


「失礼致します。ヴォルテール公爵令嬢…でいらっしゃいますかしら?」

声を掛けられアデライドたちは振り返った。そこにはプラチナブロンドの美しい少女が立っていた。白く輝く肌に水色の瞳が瞬いている。細い手足に華奢な体だが、凛とした雰囲気が彼女を決して弱々しくは見せない。圧倒的な美少女がそこに立っていた。


「初めましてリール公爵令嬢。アデライド・ド・ヴォルテールと申します。本日はご招待いただきありがとうございます」

アデライドが反射的にそう言って膝を落とすと、リール公爵令嬢も返すように挨拶をした。その優雅さに見惚れてしまう。生物としてのクオリティが違う。そう評するしかないとアデライドは悟った。彼女の動きに合わせて長く美しいプラチナの髪がさらりと流れる様は、まるで光を纏っているかのようだった。そんな高エネルギーの発光体が目の前に立っていた。


ふと隣を見るとエドガーがアデライドと彼女を交互に何度か眺めて、なにかに納得したように頷いた。

この方ひょっとして今…比べました?わたくしとこの発光体を?ヒトはどこまで残酷になれるかという社会実験でもしてらっしゃるのかしら…?と、そんな思考をぐるぐると巡らせつつも、アデライドは珍しく黙っているエドガーの袖口を引っ張る。するとぼやっとしていた彼はようやく挨拶をした。

「えっとぉ、お招きいただきぃありがとうございますリール公爵令嬢。今日はぁ、よろしくお願いします」

それに答えるリール公爵令嬢の笑顔は眩しい。これがアホ犬をも魅了する美貌かとアデライドは圧倒された。


巻き戻し前の世界でアデライドはリール公爵令嬢の訃報を聞いていた。元々体が弱いという話だったが、時期的にノチフ病に罹ったのだろう。薬ができた今、もう亡くなる心配もないだろうし、あわよくばお友達になれたらいいなと期待して来ていたのだった。


「皆様、当家にお越しくださりありがとうございます。僭越ながら本日は皆様との仲を深めるために、いつもと違う趣向にさせてくださいませ」


リール公爵令嬢がそう宣言すると二つに分かれたテーブルに男女別に座るように案内された。最初は女子だけ、男子だけに分かれて、しばらくしたら男女混合にするらしい。「街コンかな?」と思いつつも素直に従おうとしたアデライドの腕をエドガーが握っている。よほど嫌なのだと思われるが、アデライドがその指を丁寧に剥がして「頑張りましょう」と笑うと、好みの散歩コースから外れた犬のように渋々という体で男子グループの方に歩いていった。


女子グループの席についたアデライドはそこに座ったリール公爵令嬢以外の二人に、とても見覚えがあることに気がついた。それぞれイザベラ・ド・ランジュレ伯爵令嬢、ジョゼット・ド・バルリエ侯爵令嬢と紹介された彼女たちは、ゲームではライバル令嬢として登場する。


イザベラ・ド・ランジュレ伯爵令嬢は眼鏡の人を攻略するときに現れる。おとなしい彼を心配しているが、それを上手く言葉にできずついツンケンとした態度をとってしまうという傍迷惑な女子だが、ヒロインと友人になると豊富な知識でサポートしてくれる頼れる眼鏡だった。


ジョゼット・ド・バルリエ侯爵令嬢はただの友人の時は引っ込み思案だが優しく家庭的な可愛い女子だったが、ヒロインがエドガーのルートに入ると嫉妬に狂った危険人物に変わり、プレイヤーを恐怖させた。浮気したら躊躇いなく刺してくるタイプであることは疑いようもない。


いまアデライドの目の前では、その二人とリール公爵令嬢が笑い合っている。

「まぁ、クリスは本当に仕方ないわね。本当に向こう見ずでハラハラさせられるったらないわ」

「だって咄嗟に身体が動いてしまいましたのよ。ベラったら厳しいわ」

「クリスが優しいのは知っているけれど、貴女は身体が弱いのだから、無理をしないでくださいね」

「まぁジョゼまでそんなことを言うの?」


キャッキャウフフと3人が知らない話題で盛り上がるのを、アデライドは笑顔を貼り付けて眺めていた。すでに出来上がったグループに放り込まれるこのアウェイ感は、いつ味わっても慣れないなと無言で紅茶を啜る。


「アデライド様は慈善活動には興味がおありですか?」

突然リール公爵令嬢に話を振られて、アデライドは「へ?」と間抜けな声を出してしまう。

「クリス…クリスティーヌ様はよく孤児院を訪問されているんです」と眼鏡のイザベラが続け、「そこで馬車に轢かれそうだった子供をクリス…クリスティーヌ様が身を挺して庇われたんですよ」とジョゼットが補完した。


「まぁそれは大変でしたのね。リール公爵令嬢はとてもお優しいんですのね。献身的で素晴らしいですわ」

アデライドは素直に感心した。なんだかヒロインみたいな行動だと思ったのだ。そのとき「貴女にはできないでしょうね」と右隣からイザベラの小さな声が聞こえた。


「リール公爵令嬢ではなくクリスとお呼びくださいませ」

「では私もアディとお呼びくださいまし」

不穏な気配はリール公爵令嬢に一旦遮られたが、左隣のジョゼットからもやって来た。

「アデライド様はエドガー様ととても仲がいいんですね」

刺殺系女子からの切り込みにアデライドは内心冷や汗をかいた。返答次第では斬られると「つい最近お友達になりましたのよ」と慌てて言うと、「あら、そうなんですか」と淡白な答えが返って来た。そこには何の熱も無く、言葉にするなら軽蔑の二文字が宿っていた。


空気がピリリとするような緊張感は、場を満たす“敵意”という形のないモノで作られていた。なぜ、とアデライドが感じたとき、「そろそろ席換えをしましょうか」とクリスティーヌが無邪気な顔で笑ってみせた。


丸いテーブルで二組に分かれていたのを、長いテーブルに全員で座れるようにするためにしばらく待たされる。ぼんやり立っていると隣にエドガーがススっと寄って来たので、男子グループの方を見るとあちらも二人で盛り上がっている。


「なんかぁ。あいつらぁずっと二人だけでぇ、意味わかんねえこと言っててぇ、まじでぇキッツって思ったけどぉ、オレずっと黙ってたし。まじオレ偉いっつーか?すごくね?」

エドガーにはあまりにも無礼なことを言わないように、ここに来るまでの馬車の中で王子は格上の存在だと繰り返し教えておいた。なんだかんだで縦社会の体育会系DNAを持つ彼は、今日は黙っていられたらしい。アデライドが「偉いですわ」と笑顔で頷くと、「だろぉ?」とヘーゼルの瞳を嬉しそうに細めた。


「あらやっぱりとっても仲がいいのですね。準備ができましたのでお座りくださいね」

クリスティーヌがそう言うと、後ろで女子二人がアデライドとエドガーを見ながらヒソヒソしている。地獄の空気を練り上げることに余念はないようだ。アデライドとエドガーは互いの隣りを死守するように席につくと「そんな事しなくても誰も割り込みませんよ」とイザベラが言い、ジョゼットの笑う声が聞こえた。


「クリスは孤児院の子供に勉強を教えているのか。君の活動で民の識字率は上がっていくだろうとリール公爵が自慢げに語っていた」

ラファエル王子がクリスティーヌに朗らかに話題を振る。

「お父様ったら、もう。でもそれはミシェルが手伝ってくれたからこそ出来たことです」

「そっそんな…ボクなんて全然役に立ってなくて…」

クリスの言葉に顔を赤くしているのは、ミシェル・ド・リヴィエだ。薄い赤毛に緑の瞳をした眼鏡枠キャラである。公式が攻略対象者のうち二つもおじさん枠を作ってしまったために、同い年なのにショタ枠に割り振られ、小動物ムーブを余儀なくされていた。出会った当初は臆病で常にオドオドしているが、ヒロインと接するうちに自信をつけて堂々としてくる系の眼鏡だ。


「ミシェル、私はあなたの聡明さにいつも助けられているわ。だから自信を持って」

クリスティーヌはそう言うと彼の手をそっと握る。それに顔をますます赤くして慌てるミシェルと、その光景を微笑ましげに見つめる他3人と、とりあえずその辺の菓子に手をつけて紅茶ではなくお冷を飲むアデライドどエドガー。人間関係の多様性と断絶の縮図が出来ていた。


「クリスの商会も役に立っていると聞いた。リール公爵領の民は皆、君に感謝していると。素晴らしいことだ」

「そんな、もったいないお言葉をありがとうございます殿下」

アデライドは笑顔でクリスティーヌを褒めまくるラファエルを目にし、先日は彼にBLの嫌疑をかけてしまったが、軽率だったかもしれないと思い直した。そしてクリスティーヌの情報が集まるにつれ、恐ろしいほどの既視感を覚える。この方、悪役令嬢ものの主人公みたいですわ、と。


悪役令嬢(仮)クリスティーヌ 解除済み実績一覧

1.商会を作ろう 内政チートして人心掌握しよう

2.仲間を手に入れよう 自分以外の悪役令嬢を味方につけよう

3.フライングゲット 攻略対象キャラをゲーム本編が始まる前に手懐けよう


このようにすでにいくつか実績のロックを解除している。顔つきも猫のような吊り目をしていて、可愛い系ではなく綺麗系である。これはやってますわね…と思いつつ手に取ったマカロンのクリームがとろけている。

今日は例年より日差しが強く、夏を先取りしたような天気だった。黒髪のアデライドと濃いブラウンヘアのエドガーは、この席ではメラニン色素所有率ダントツ1位と2位だったので、後頭部がチリチリするような感覚に襲われて、お冷をがぶ飲みしていた。


「あっ…」ため息のような声を漏らして、ふらりとクリスティーヌが頭を揺らした。

「「「「クリス!」」」」

ガタガタっと4人が立ち上がる。ラファエル王子がクリスティーヌの肩を抱き「クリス!大丈夫か?!しっかりしろ!!!」とバカでかい声を出すと、「ううっ」と彼女が唸った。「あいつうるさくね?」と、エドガーがおまいうアワードを受賞しそうなことを言っている。


そこに褐色肌で執事服を着たアデライドたちよりいくつか年上の美少年が駆けつけ、「失礼致します」とクリスティーヌから王子を剥がしなぜか横抱きにすると、切なげな目で彼女を見つめながら「いつも無理ばかりするからですよ…」などと呟く。「暑いからじゃね?早く冷やせよ」というエドガーの呟きに応えるものはおらず、執事服の少年は、音もなく現れた表情に乏しいメイド服の美少女とともにゆっくりと立ち去っていった。


4.スラム街の忠臣 身元の不確かな美形を雇い入れよう。


アデライドはそんな実績のロックが解除される音を聞いた気がした。




結局そのままお茶会はお開きとなり、アデライドたちはヴァンダム侯爵家の馬車で帰路についた。

馬車の揺れに身を任せてぼんやりとしていると、エドガーが彼にしては弱々しい口調で喋り始める。


「今日さぁ…ほんとはぁ…前にやったドッチがぁ、ハンパなとこで終わったからぁ、リベンジマッチしようぜっていっててぇ、オレも誘われたんだけどぉ、こっちあるからってぇ、親が絶対こっちだろっていってぇ、だるぅってなってたんだけどぉ、まあお前いるしぃまだマシじゃねって来たらぁ、過去最高にえぐかった…」


萎れている。いつも元気なエドガーが。男子同士でも色々あったのかもしれない。アデライドは懐中時計を取り出す。今回のお茶会は早めに終わったため、夕方まではまだ時間があった。


「乗り込みませんか?ドッジボール」

ニヤッと笑うアデライドに、意表をつかれたのかエドガーが珍しく戸惑う。

「は?てかもう始まってっからぁ、今から行っても遅くね?」

「ひとゲームでも出来るならいいでしょう?行きませんこと?」

「…行く!行こうぜ!」

いつもの勢いを取り戻したエドガーは御者に行き先の変更を告げる。そうしてアデライドたちは夕方までドロドロになって走り回り、それぞれの家に帰ったあと怒られるのだった。


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