43話 相棒4
「急に呼んで、迷惑ではなかったか、そこに座ってくれ」
坊ちゃ・・・・・いや、時衛はそう言うと近くにあった二つのソファーを指差し、座るように勧める。
「は、はい・・・・」
俺は従い、ドアに近い方のソファーに座り、時衛はそれを見てもう一つのソファーに座る。
「・・・・・・・」
何だ、こいつは、足音がしない。
殺しの基本技術で足音をなくす足さばきを教わったが、どうしてもわずかに音が鳴ってしまう、例えそれが熟練の猛者でも耳をすませば聞こえる。
けど、この男の足音は全くしない。まるで宙に浮いて歩いてるような。いつそこに座ったのか、見てないと分からなかった。
(あそこまで、足音を無くせるものなのか)
当時の俺は驚愕した。この男の異能力なのかと疑うほどだった。
「・・・・・そんなに足音が無いのが気になるか」
「・・・!!!!!」
数秒の沈黙後、時衛が俺の考えを見透かすように言った。その声は温度が無く、静かな声だった。
聞いた直後、俺は恐れた、膝に置いた両手が悴だように震え手汗まみれになった。
「・・・・なぜそう思ったのですか、今の自分を客観的に見ても、緊張しているようにしか見えないと思いますが」
「君がこんなので緊張する男ではないことはテストを見てたら分かる、じゃなきゃわざわざ個人的に呼んだりしない」
俺は恐れを隠そうと問い返すが、時衛は静かに冷たい声で返した。
「昔から足音をたてない足さばきでね、いつも家族や団員を驚かせてしまった、団員の中には恐怖する人もいたよ」
「最初からその足さばきだったんですか」
「そうだな、11歳の頃には。元から足音が無い方だったが、訓練してから完全に無くした」
「そうですか、あの何で自分が足音を気にしているのに気づいたんですか、顔に出てなかったと思うのですが」
「顔を上げた時に、少し、眉が動いていたからだ」
「・・・・少し、ですか・・・・」
確かに動いたと思うが、そんな細かい所まで見てるのかよ。
「それで驚いていることに気付いたんだ、で、タイミング的に俺が目の前に来た時だったから、足音が無かったから俺が急に現れたみたいで驚いたのだろうと思った」
「・・・・・すごいですね」
思わず本音が漏れてしまった。ここまで見透かされているなんて。鼓動が早くになり、手汗は水を満タンに入れたバケツに手を突っ込んだかと思うほどに濡れ、恐怖はさらに増していった。
「君は優秀だからね、それぐらいのことはすぐ気付くと思った」
「い、いえ、そんな、自分なんてまだまだです」
時衛のお褒めの言葉に思わず謙遜してしまう。ここに来るまで嫌みの一つでも言ってやろうと思ったのだが、さっきの洞察力を見たら、自分がどれだけ井の中の蛙だったこと思い知ってしまった。
「いや、君は本物だよ、入団テストを見て確信したよ」
「入団テストを見ていたのですか」
「あぁ、代表としてな、これでも次期団長候補だからな、人を見る目は鍛えておきたい。優秀な人材はいくらいてもいいからな」
「・・・お褒め頂き光栄です」
俺はその言葉を聞いて一礼するが、本当はその言葉を・・・素直に受け取ることは出来なかった。
どうせ、無能力者の俺が評価されるわけがない、どうせ上辺だけの中身のない言葉。当時の俺はそんな風に考えていた。人を信じることが出来なかった。
「・・・・それで自分が呼ばれた理由は何ですか?」
褒めるためにわざわざ呼ぶとは思えない。何か理由があるはずだ。俺はここで本題に戻して聞く。
「大したことじゃない、ただ、お前には期待してるって、言いたかっただけだ」
「・・・・・・・はい?」
予想外の答えに俺は動揺を隠せないでいた、いや、今までの動揺もバレてはいたが、温度のない冷たい声に反した期待の言葉を掛けられ、動揺は隠す所ではなかった。
「さっきも言ったが、お前の実力は本物だ。経験を積めば、間違いなく今一線で活躍する団員が取るに足らない相手になる。だから、期待している」
「・・・・・・・・・」
その言葉に一切の淀みなく、ただ、冷たい真っすぐな言葉だった。
「明日の深夜、麻薬組織を壊滅しにそいつらのアジトに行く。初任務だ、油断せずいけばお前なら大丈夫だろう頑張ってくれ、長々と悪いな、もう下がっていいぞ」
「・・・・・」
無表情、悴んでしまうと思うぐらいの冷たい声、音の無い所作、恐怖を感じていた男の期待の言葉を送られ俺は思わず固まってしまった。
「? 何だ、話したいことがあるなら、付き合うぞ」
「い、いえ!! 大丈夫です、自分はこれで失礼致します」
声を掛けられた俺は慌てて立ち上がり一礼して扉の前まで行きドアノブに手を伸ばし人差し指が触れた時、手が止まってしまった。
「・・何か、聞きたいことがあるのか」
たった一瞬だったはず、しかし、時衛はその一瞬を見逃さずに俺に声を掛けて来た。
「・・・・その一つ聞いてもよろしいですか」
「あぁ、構わない」
「・・・・・・・」
何で俺をスカウトしなかったんですか。
「・・・・・・」
単純に疑問に思った。何で期待していると言っておいてスカウトしなかったんだ。そこがずっと話していて疑問だった。
だけど、俺はその言葉が喉仏の所まで来たが、そっと飲み込んだ。
当時は、何となく、聞かない方が良い思った。何でそう思ったかは分からない。でも、今なら分かる。何でそう思った
怖かったんだ。
そのことを聞いて、もし、さっきの褒め言葉が全部嘘で、皮だけ立派な中身の無い言葉だったら。すべてが嘘だったら。
だから聞けなかった。
「・・・俺の他に個別呼んだ人はいますか」
聞いておいてやっぱりいいですっと言うのはさすがに印象が悪くなる。俺は質問を投げかける。
「あぁ、この後、軟田も呼んである、あいつも期待しているからな」
時衛は俺の質問に嫌な顔をせずに質問に答えてくれた。
「そう、ですか」
俺とあいつを同等に扱ってくれるのか、ありがたいな。
「期待を寄せて頂きありがとうございます。期待に応えられるようにこれから努力致します、ではこれで失礼します」
俺はもう一度、一礼しドアを開けその場を去って行った。あの言葉の真意を考えながら。
次の日の深夜、俺と時衛、田辺、松岡は山奥の廃工場、麻薬組織『落花生』のアジトの前まで来ていた。
「お前ら、今回の任務は敵の殲滅だ、存分にその力を発揮しろ」
「「「はっ!!!!!」」」
いよいよ初任務、緊張で少し震える。本番には強い方だと思っていたが、そうはいかないか。
・・・・・・いや、違う。緊張しているから震えているんじゃない。
この震えは今から人を殺すからだ。
訓練じゃない、初めての実戦。
殺人、人が最も犯してはいけない罪であり、人が最も犯してきた罪。
俺は今からそれを犯す。
怖い、心の底からそう思った。
「おい、おい、何震えてんだよだよ無寺、いざ実戦になってビビっちまったのかぁぁ」
「はっ、やっぱりお前は他の団の方が向いてるんじゃないのか、今ならまだ他の団に入団できるかもしれんぞ」
そんな情けないことを考えていると二人が醜悪な笑みを浮かべ嘲り笑う。
「・・・・・」
正直、この二人が今だけ羨ましい。気楽でいられる精神、自分の実力を疑わない自信、ある意味こういう人間の方が来未団は求めているのかもしれない。
いや、俺も実力が足りているとは思わない方が良い、その油断で死んだら笑えねぇ。
「安心しろ、お前らよりは冷静だ、気を付けろよ」
「は、何に気を付けろって」
「死なないように気を付けろって言ってんだよ、そんなのも分からないのか」
「!!! てめぇ・・・!!!」
俺は強がり、二人を煽った直後、田辺が俺の胸倉を掴もうと左腕を伸ばしながら五指を広げる。
「おい」
しかし、一つの冷たい言葉が田辺の動きを止めた。その声の主は時衛。
「無駄口を叩く暇があるなら、さっさと準備をしろ、死にたいのか」
そう言いながら時衛はゆっくり、俺達を覗く。その目はまるで闇そのものだった。どこまで深く決して底なんて見えないほど。
「!!!!!・・・・・す、すみません・・・・・」
「・・・申し訳ございません」
その目に覗かれた田辺は手を引っ込め深々と頭を下げ謝罪。俺も少し遅れつつも姿勢を整え腰を45度曲げ丁寧に謝罪する。
「早くしろ、準備が整ったら突入する」
時衛は視線を工場のシャッターへと向け、ナイフを取り出す。俺も実戦のために支給されたナイフと拳銃を取り出し、いつでも突入出来るように準備を整える。
一方、田辺と松岡は特に武器を取り出す素振りを見せず、その場でスタートを切れるように準備をする。
「・・・・・準備は出来たか」
「「「はっ!!!」」」
「・・・・そうかでは始める」
時衛は一瞬こちらを見て確認すると手榴弾を取り出し、安全ピンを抜いてシャッターに投げる。手榴弾がシャッターにぶつかった直後、白く光り爆発。
この手榴弾は特別製で従来の物より威力は少し劣るものの、煙の量は通常の三倍はある。俺達は煙にまぎれて突入するという作戦だ。
「ぶはぁぁあ!!!」
「ぶへぇぇえ!!!」
今日は集会でシャッターの近くに人がいたのだろう、爆音と共に数人の悲鳴が響き辺りは大量の煙に包まれ、突入するタイミングが訪れた。
先陣を切ったのは時衛、俺と田辺、松岡が煙が包まれたことを認識した瞬間にはもうすでに動いた。まさに最善のタイミング、その速さはすさまじく、一瞬で手ほどの大きさに見えるほど遠くにいた。
「!!!」
驚いてる暇なんてない、俺もすぐに続きスタートを切り、煙に突っ込む。微かに見えた爆破で出来た穴に入り、戦場へと足を踏み入れる。
「あぁぁかぁぁ!!!!」
「かっはぁぁ!!!」
突入した瞬間に目に入ったのは時衛の狙撃だった。拳銃を左手に持ち、近くにいた構成員二人を撃ち殺していた。
速い、二発撃ったはずなのに銃声が一つしか聞こえなかった。ほぼ同時に撃った時しかならない達人技。
「この・・・!!!」
思わず見惚れていると構成員の一人がナイフで俺を刺しに掛かる。
「ふっ!!!」
俺は脳を戦闘に切り替え、すぐにナイフで弾き、構成員は怯む。俺はその隙を見逃さず、拳銃の銃口を構成員の左胸、心臓がある位置に押し付ける。
「・・・・・っぅう!!!!!」
一瞬、震えたが、迷わず引き金を引く。
「・・・うっ!!・・・・・・
銃弾はそのまま心臓を貫き、構成員は倒れ絶命した。
「・・・・・・」
これで俺は正真正銘、人殺しになった。撃った後も震えは止まらない。
「おらあぁぁあ!!!」
その直後、背後から他の構成員がナイフを振り下ろす。俺は咄嗟に持っていた死体を盾にする。凶刃は死体に突き刺さり、引き抜こうとするがうまく抜けない。
俺はすぐに銃口を相手の額に向け引き金を引く。放たれた銃弾は額を貫き声を上げる間もなく絶命した。どうやら、感傷に浸っている暇はないらしい、敵に向かって走り出す。
一方、その頃田辺と松岡も遅れて突入し暴れていた。
「おら、おら、かかってこい!!!」
「ははは、雑魚どもがぁぁあ!!!!」
田辺は火の玉を放ち続けしっかり敵に当て、松岡は両手をライオンの手に変化させ敵に攻撃する。
「・・・この、クソガキぃぃぃい!!!」
しかし、二人の一撃はどれも致命傷になっていない。攻撃を食らった中の1人が立ち上がり、松岡の背後に着き、刀を振り上げる。
「!!! バ・・・・!!!」
俺は声を上げるが、もう遅い。距離があるから、ナイフは論外、銃は位置的に撃ったら松岡に当たる。何より、俺も数人相手していて助ける余裕が無い。
やられる!!!
そう思った。
が、時衛は違った。松岡の前にいた時衛は一瞬で相手していた構成員数人の喉を裂き、銃を持った左手で肩に乗せ、ノールックで撃ち、松岡の背後にいた構成員の喉を貫き、手から力が抜け刀を落として絶命。
「!!!!」
うそだろ、さっき、時衛は一切松岡を見ていなかった。いつ見たんだ、俺が見てない間か、いや、俺は入口の近くでやっているから位置的にずっと目に入っていた。なのに時衛は正確にノールックの狙撃を成功して見せた。となると、これ異能力か? 常に全員の位置が分かる能力とかか。
「おらぁぁああぁあぁぁ!!!」
考えを巡らせていると構成員の一人がナイフで襲い掛かる。
「くっ!!」
即座に躱し、構成員の懐に入り腹にナイフを刺し突き上げる。
「ふっっ!」
俺はナイフを抜き、死体を味方のいない方いる数十人の構成員がいる方に蹴り飛ばす。
「くっ、邪魔・・・ぶへぇぇ!!!」
一人が死体をキャッチするが、すぐにどかし俺に襲い掛かろうとしたが、直後死体が爆発。近くにいた数十人が爆発に巻き込まれ派手に絶命。
「ふうぅぅー・・・」
良かった、ナイフを抜く時に付けた自作時限爆弾がちゃんと起爆した。だけど、あれなら手榴弾で十分だった。もう少し用途を考えておこう。使えないわけではないしな。
「おらぁぁぁああ!!!」
反省していると一つの叫びが工場中に響いた。叫びの主は蛙川、麻薬組織のボスで在現団の情報によるとかなりの戦闘者らしい。そのボスと時衛は斬り合い、火花を散らしていた。蛙川の武器は両手に付けている先が鋭く尖った手甲鉤と背後に忍者刀を背負っていた。
「ふうぅぅぅう!!!!」
斬り合いが続く中、蛙川が左手の手甲鉤で腹を突きに掛かる。時衛は皮一枚で躱すが、蛙川の攻撃は続き、右手の手甲鉤を振り下ろす。しかし、手甲鉤が時衛の顔に届く直前、時衛は左手で持っていた銃を捨て蛙川の右手首を掴むと同時、手首の付け根に親指をねじ込む。
「うぅうううぅぅん!!!」
関節がズレた音が霞むほどの蛙川の言葉にならない悲鳴、しかし、蛙川は怯まない空いていた左手の手甲鉤で再び腹を刺そうとするが、右手のナイフで止める。同時に蛙川は時衛を強引に振り払い、バックステップで距離を取る。
しかし、強引に振り払ったことで手首の傷が悪化、右手はほぼ使えない状態になる。しかし、蛙川はにやりと笑い舌を出す。するとその舌は長く背負っていた忍者刀の持ち手に舌で巻き付けて引き抜き、さらに舌を伸ばし一歩を踏み出す。
「おらぁぁあぁぁ!!」
舌を忍者刀を持ったまま、上に伸ばし、時衛に向かって振り下ろす。
「!!!!」
振り下ろされる刀のスピードは速く、瞬きの間に時衛の頭上に。
しかし、その刃が届く直前、時衛は左手で振り下ろされる刃を掴んだ。眉ひとつ動かさずに。
掴んだ手からは血が滴り落ち、刃は明らかに骨まで届いて切っていた、もう少し力を込めれば指が千切れている。
なのに、時衛は無表情、痛がってすらいない。ただ、蛙川を冷たい目で睨み付けていた。
「・・!!!」
その姿に思わず蛙川は恐れ動きが止まってしまった。その隙に時衛はナイフで蛙川の舌を切断し、刀から手を離す。
「・・・うぅ!!!」
蛙川は思わぬ攻撃に舌を引っ込めてしまう。それに呼応するかのように時衛は一気に距離を詰め、蛙川との距離を0にし、胸に二閃、胸に✕印の傷を付ける。
「がはぁぁああぁ!!」
傷は深く、臓器まで達し力なく後ろに倒れ絶命した。
「「「ひぃいぃぃぃいい!!!」」」
ボスが死んだことにより、構成員達は混乱し、逃げ出す者も現れた。しかし、俺達が逃がすわけもなく俺は逃げる構成員にナイフを投げ首に深々と刺さる。その後、五分もしないうちに構成員全員殺し、落花生は壊滅。その時の時衛は表情は一切変わらず、淡々と殺していた。
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