41話 相棒3
施設に入ってから9年、血のにじむような努力のおかげで俺は来未団に入ることになった。
「やったね~~!! 智和、希望の団に入れて」
来未団の入団が決まった直後、近くにいた桜が嬉しそうに話しかけて来た。
「あぁ、そうだな」
それに対し俺は淡白な返しをする。
「? 反応が薄くない、嬉しくないの」
「・・・・・・本当なら1年前に入団するはずだったからな」
「そっか、智和、1年前から総合成績トップだったもんね」
入団試験を受けるには2つの条件がある。1つは14歳以上16歳未満であること、もう1つはすべて3以上(学校の通知表のようなもので最低が1、最高が5)であること。この2つの条件を満たしている者が入団試験を受けられる。しかし、例外があって教官長の推薦があれば13歳から試験を受けることが出来る。例年であればその代の成績トップの訓練生が選ばれるはずだが、俺達70期生で選ばれたのは当時から成績トップの俺ではなく異能力がアホほど強い者だった。
「あれ、どう見ても本郷が智和のこと嫌いだから選びたくなくて、2番に成績が良い私も嫌いだから、お気に入りの子を選んだだけだよね」
「俺達、喧嘩売りまくったもんな」
本来、無能力者は異能力の項目がないので、成績にプラスされることもマイナスされることもない。しかし、この9年間、俺と本郷は喧嘩をしまくり、仲はアホみたいに悪かった。桜はその都度俺を庇ってくれていたからあいつまで嫌われてしまった。
桜もこの9年で成長した。あの泣き虫の女の子はもういない。努力と研鑽を重ね、俺に次ぐ70期生の代表になった。容姿も洗練され俺が今まで会った女性の中でもっとも美しい。
「すまんな、順当にいけばお前が推薦されるはずだったのに」
「何言ってんの、例え推薦されたとしても私はけるよ、私は智和と親友と一緒にいたいし、それに今の私が五体満足で絶世の美少女として生きていけるのは、健康体で生んでくれたママとパパ、あの夜、鼓舞してくれた智和のおかげだから」
「・・・・・鼓舞した覚えはないが」
「私にとってあの言葉はどんな宝石よりも輝いてたけど」
「音が輝くわけねぇだろう馬鹿か」
「例えよ、例え、もう、ま、これからもよろしくね、私も来未団に入ることだし」
「・・・・そうだな、よろしく頼む」
俺は少し呆れながらも手を差し伸べる。
「!!! うん!!!!!」
桜はぱあぁぁっと笑顔を浮かべ俺の差し伸べた手を握る。
「ひゅー、ひゅー、おあついことで」
「調子乗り上がってよ、無寺くぅぅん、ゴミの分際でよぉぉ」
そんな時だった、俺達の前に2人の男が現れた。
「田辺、松岡」
この2人は田辺と松岡、同期で俺と桜と一緒に来未団に入団する。よく訓練で俺を甚振られていたが、11歳の頃にはこいつらの戦い方が分かり、戦闘の技術も格段に上がったことで逆にボコボコにしてやった。そのせいで2人にはよく絡まれている。
「何か用か、冷やかしならやめてくれ、俺と桜はそんな関係じゃない」
「うんなことは知ってんだよ、嫌みか、この野郎」
「違う」
「チっ!! お前のそういう態度が気に入らねぇんだよ」
「調子に乗んなよ、お前は成績がいいだけで実戦になったら俺達のような戦闘向きの異能力持った奴の方が強いからな」
「? じゃあ、なんでいつも俺と戦う時、毎回負けるんだ?」
「!!! てめぇぇ・・・・今のは本当に嫌みだな」
「違・・・・・いや、そうだな」
「!!! 調子に・・・・のんなあぁぁ!!!!!」
俺の言葉が癪に障ったのだろう、田辺が叫びながら手のひらから火の玉を放ち、玉は真っすぐ進み俺を襲う。俺は近くにいた桜が当たらないように少し突き飛ばすと同時に、少し屈んで斜めに進んで躱す。
「よっと」
桜は突き飛ばされつつも体勢を崩すことなく邪魔にならない所までバックステップで移動してくれた。
俺は横目でそれを確認した直後、田辺との距離を完全に潰し、伸ばしていた腕を掴みそのまま流れるように背負い投げ。
「かはぁぁ!!!」
見事に決まり、田辺はその場でのびた。
「!!! この野郎!!! 調子に!!!」
隣にいた松岡は右手をライオンに変化させ俺の顔目掛けて右のスイング。
「ふっ・・」
だけどそんな予備動作が大きいパンチが当たるわけもなく、少し屈んで躱しながら懐に入り、予備動作最低限の右アッパーを腹にねじ込む。
「ぐばぁぁぁ!!!」
もろに食らった松岡は膝から崩れ落ちる。
「ぐうぅぅ、この、やろうぅぅぅう!!! ゴミがぁぁぁあ!!!」
田辺と松岡は殴られた部位を手で押さえながらふらつきながらも立ち上がる。まぁ、腐っても9年の訓練を積んだだけのことはある。殴られるのに慣れている。
「無理をするな、立つのもキツいだろう、すぐに在現団の人を呼んでくるから待って・・」
「!!! そういうところがムカつくんだよ!!! その上から目線がぁぁあ!!!!!」
俺の言葉に激昂した田辺は俯きながら醜く光ったギラギラの目で睨み付け、ナイフを取り出す。
「!!! ちょっと、何してるの」
それを見ていた桜はさすがに見過ごせず、間に入る。
「うるせぇぇ!!! 今からこいつをぶった斬るんだよ!!」
「た、田辺、さずがにそれは・・・・」
「うるせぇぇ!! うるせぇぇ!! うるせぇぇえぇ!!!!!! 俺はゴミを処理するだけだ、なんも問題はねぇぇ!! 黙って見てろ!!!」
「・・・・そうか」
(少し、煽りすぎたか)
俺はやり過ぎたことに反省しつつもナイフを取り出す。
「それを出したら、俺も加減出来ねぇぞ」
俺は最終通告を告げ、田辺を斬るために一歩を進めた時だった。
「何をしてるだぁあ、貴様らぁあ!!!」
1つの怒号が響き部屋を包み込んだ。怒号の主は本郷、どうやら騒ぎを聞き駆け付けたらしい。
「田辺!! 無寺!! ナイフをすてろぉぉお!!! 命令だぁぁ!!」
本郷、上官の命令には従うしかない、俺はナイフを手放す。しかし、田辺は聞かず、俺に殺気を向けたままナイフを持ち続ける。
「止めないでください!! 教官ちょ・・ぶへぇぇぇえ!!!」
田辺が口答えした次の瞬間、本郷は眉間にシワを寄せ、静かスタートを切るが、そのスタートは途轍もなく速く、瞬きの間に田辺のとの距離を0にし、田辺の顔に右ストレートをぶち込む。
田辺は訳も分からず、避けるどころか一寸も動くことも出来ず歯と骨が砕ける音を鳴らしながら吹き飛び意識を失う。
「ひ、ひぃぃいぃぃ!!!」
近くにいた松岡はビビり散らす、自分達の味方だと思っていた本郷にいきなり殴られるのは想定外だったのだろう。
「おい、誰が上官に口答えして言いと教えた、次にやったら本気でやるからな」
本郷の異能力は手から振動を発生される、その振動は大岩を粉々にすることが出来るほど。さっきのストレートは異能力を発動させていたが手加減されており、顎の骨だけで済んでいる。本気でやったら頭蓋骨がわれ、骨が脳に刺さって死んでいただろう。
「お前もだ、無寺、来未団に入団するからっといって調子に乗んなよ、ゴミ」
本郷はこちらを睨み付け警告する。やはり、俺のことが気に入らないようだ。
「俺はゴミじゃありません」
俺は奴の睨み付ける目がムカつき、思わず本心の一部が出てしまった。本郷はそれに反応し、突っ込んで来た。さきほどと同様、途轍もなく速い動き。一瞬で距離は無くなり、拳が振り下ろされる。
俺は拳が下ろされるタイミングに右に一歩進み皮一枚で躱す。
「・・・・ゴミにしてはやるようになったな・・・癪だがな・・・」
「はい、お前に一泡吹かせために頑張りました」
「おい、お前って、オレのことか」
「はい」
「は、やっぱり気に入らねぇが、実力は認めるしかないな」
本郷はそう言うと俺から一歩離れ、射て殺すような目で俺を見てくるが、俺も同じように殺気を込めた目で本郷を睨み付ける。
「まぁ、いい、どうせお前は2、3年で死ぬだろうしな」
そう言って、本郷は去って行った。俺は奴の背中が見えなくなるまで見ていた。
「何あれ、感じわっっっっる」
本郷が見えなくなった直後、桜がこちらに駆け寄り本郷に悪態をつく。
「いつものことだ」
「でもさぁ、いいの智和は腹立たない?」
「立つさ、でも、やっぱり、強い」
さっきの拳の威力、速さ、予備動作の無さ、俺には出来ない。異能力に頼らずともあれは人を殺せる。俺の拳は精々、意識を失う程度。ガキの喧嘩では良くても俺がこれからやるのは殺しだ。
「正直、羨ましい、戦闘者としては見習うべき所がある、実際、さっきのパンチは参考になった、いや、今回だけじゃない、今まであいつから受けたすべての攻撃が参考になってる」
ま、絶対、あんな人にはなりたくないが。
「はぁぁ、智和は変わってるね、でも、総合トップの理由が改めて分かった気がするよ」
「俺はお前らと違って無能力だからな、好き嫌いする余裕がねぇだけだよ」
「経験って、食べ物だったんだ」
そう、俺には余裕なんてない、少しでも強くなりたい。それが例え、10でも、1でも、100の1でもだ。
「そう言えば、智和はスカウトされたの?」
すると、桜が話題を変え、質問を投げる。由安で言うスカウトは2種類ある。1つは外部から、もう1つは施設から、前者はそのままの意味で殺し屋や情報屋、闇医者を由安に引き入れる。
ただ実例は少なく、160年の歴史の中で、殺し屋が16名、情報屋は5名、闇医者はたった1名とそこまで多くない。そして、もう1つは施設からのスカウトは入団テストの時、各々の団の代表3名が終盤で行われるサバイバル戦と模擬戦を観戦する。そこで欲しい人材がいればテスト合否関係なく入団させることが出来る。一応、断ることも出来るが、ほとんどの場合断る理由がないのでスカウトされた団に入ることが多い。
「俺にくるわけないだろう、無能力者だぞ」
「でも、私達の代の成績トップだし」
「そんなもんさ、無能力者ってだけで劣等者扱いだから」
「そっか・・・」
「ま、どうでもいいことだ、すべての団の入団ラインを越えているから、選び放題だ」
「入団ラインって、団が3つ指定した科目の90%の点数をとっていたら、合格したらその団に入団すること出来るってやつだよね」
「俺はすべての科目で90%以上取ったからどの団にも入ることが出来る」
ちなみにどの団も入団ラインを越えられなくとも、テストに合格した場合は成績を見てその者に最も適した団に強制的に入団されることになり、ほとんどの合格者はこれにあたり、スカウト、入団ラインで入団する訓練生は合格者の1%しかいない。
「そう言うお前はスカウトされたのか」
「うん、来未団と在現団に」
「そうか・・・・」
桜は優秀な人材だ、その美貌と高い殺しの技術があれば引く手数多だろう。俺と違って異能力もあるし、己の異能力の使い方も熟知している。計算が苦手じゃなかったら間違いなく去過団にもスカウトがきただろうに。
勿体ない。
しかし、その欠点があっても、間違いなくこいつは大物になる。
当時、俺はこの考えが確信が確証へと変わっていた。それだけこいつには未来があった。
だけど、俺にはなかった。
正直、異能力がないっていうだけで俺の人生は詰んでいった。
調べて分かったが、無能力者で幹部になった者、隊長以上の地位についた者はいない。それどころか全員下っ端止まり。
こんなこと、調べなくても分かりきったことだ。でも当時の俺は希望が欲しかった。無能力者でも偉くなれるって、アニメや漫画の主人公みたいになれると。
でも、現実がそれを否定した。残酷な事実を添えて。
来未団に入団した無能力者は入団してから2年以内に全員死んでいる。
「俺は・・・後、何年生きられるんだろうな・・・」
桜には聞こえないように小さい声で俺は呟いた。
それから5日後、入団式を終え、俺達5人は来未団の団員になった。式が終わった直後、俺達の班分けが決まった。桜はもう1人新しく入る女性団員と同じ班になり、俺は田辺と松岡と同じ班になった。正直すごく嫌だ、めっちゃくちゃ嫌だ。しかも、俺が入る班の隊長がやばい男だった。
そいつの名は時衛来叶。由安のトップ、総帥の息子で最強の団員と呼ばれている。13歳で入団し、入団した直後、来未団と同等と言われていた蛍田組をたった一人で壊滅。1年間で数々の組織の壊滅に貢献した。噂では来未団の最高戦力の3人の隊長と1対3の模擬戦を圧勝したと聞いたことがある。
まさに次期団長候補筆頭、そんな奴が班長。普通に考えれば媚びを売って、甘い汁を啜るところだが、生憎と俺は媚びを売るのが苦手・・・いや、やりたくなかった。
そもそも、こんなのどう見ても総帥が息子に経験を積ませるために班長にしたようにしか見えない。何が最強の団員だ、デマに決まってんだろう。13歳の子供が1人で組織を潰せるわけねぇだろうが。
でも、俺はそんな坊ちゃんに今、個別で呼ばれている。おそらく無能力者の俺にいちゃもんでも付けたいのだろう。めんどくさいなあぁ、本当に。
そう愚痴を心の中で言いながらも俺は坊ちゃんの執務室に向かった。行きたくないが、行かなかったら最悪殺される。重い重い足を無理やり動かし一歩一歩前に進む。そうして坊ちゃんの執務室の前まで来た。
俺は袖を通して日が浅い制服を正し、ノックを3回する。
「入れ」
冷たい声が俺の耳に入ってきた。
「失礼します」
ドアを静かに開け、入り、開けた時と同様に静かに閉める。そこにいたのは仰々しい古い机に、机に全く似合ってないオフィスチェアに座っていた銀髪の青年。
「先日、来未団に入団した無寺智和です、本日はお声掛け頂きありがとうございます」
俺は姿勢を正し深く一礼する。
「あぁ、呼んで悪いな、顔を上げろ」
「はっ!!!」
椅子から立ち上がった坊ちゃんを薄目で見て、俺はお言葉に甘え顔を上げる。
「!!!!!」
顔を上げて、俺は驚いた。
なぜなら、坊ちゃんはすでに俺の前にいた。音もなく静かにそこにいた。その青年は銀色の髪、冷たいあらゆるもの凍らせ拒絶する夜空色の瞳。今まで見た男の中で間違いなく一番容姿が整っていた。
「初めまして、俺は時衛来叶、第2班の班長でお前の上司だ、これからよろしく頼む」
これが俺と社長との出会い。
(・・・・・・・・・何だ、こいつは!!!!)
それが社長の第1印象だった。
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みなさんが少しでも面白いと思えるように頑張ります。
これからも話を書こうと思っているのでよろしくお願いします。




