39話 常識人
便利屋の初仕事から四日後、放課後日課になりつつある事務所の待合室兼リビングの掃除をしていた。
「なぁ」
「何?」
「ここ、三日前に掃除したよな」
「うん」
「別に目立った汚い場所もないよな」
「まぁ、そうね」
「じゃあ、掃除しなくてよくね」
「だめよ、汚れってすぐに溜まるから定期的に掃除しないと、本当は毎日掃除したいぐらいよ」
「うぅ・・・」
掃除をしている最中、一緒に掃除をしていた瞬と他愛のない会話していた。
「新渚はえらいなぁ、俺なんて自分の部屋の掃除何て半年に一回にやるかどうかってレベルだぞ」
瞬は雑巾を強く絞り、床を拭き会話を続ける。
「一ヶ月に一回はやりなさい」
私はふきんでテーブルを拭き、会話に答える。
「三ヶ月に一回じゃだめですか」
「だめ、一ヶ月に一回は大掃除、二日に一回は掃除機を掛ける、今度チェックするから」
「そ、それは勘弁してください、自分の部屋は自分で掃除するから」
「・・・・・ちゃんとやるのよ」
まぁ、確かに自室なんてプライベートの塊みたいなものだしね。さすがにやめておこう。そんな話をしていると廊下に繋がるドアが開く。
「二人とも掃除をしていてえらいな」
ドアを開けたのは無寺さん、手には重たそうな工具箱を持っていた。私達の掃除を見て、開口一番褒められる。
「いえ、そんな、仕事ですから」
「いや、そんなことはない、二人とも自分で考えて行動するのはすごいことだ、誇っていいと思うぞ」
「・・・・・」
お兄さんや撲天の大将、ここらへんの人達はみんな温かいな。思わず泣きそうになった。
「本当にえらいよ、桜は続打と一緒にスイーツ巡りに行ったし、社長は依頼がないと分かったら競馬に行ったし、本当に二人はえらいよ」
そう言う無寺さんは疲れ切ってるように見えた。さすがにもう分かった、この人、苦労人だ。
「俺はこれから、急遽入った依頼に行ってくるよ、二人とも一回休憩挟んでおけ、体を壊したら元も子ないからな」
「はい」
「わかりました」
無寺さんは私達に気遣いの言葉を残し、その場を去ろうとドアノブに手を掛ける、が、ドアノブを握り占めた直後動きが止まる。
「? どうしたんですか、無寺さん」
その様子を見て不思議に思い、瞬が逸早く声を掛ける。
「あぁ、その、さっき休めって言っておいてなんだが、幸田さん、一緒に来てくれないか」
「え・・・」
突然の誘いに私は思わず声が出てしまった。
「え、えっと、何で私を誘うですか、瞬じゃなくて」
「この前社長が『智和、幸田さんと仲良くなるために、次に一人で依頼をこなす時は幸田さんも連れて行ってほしい』って言われてね、見学でいいからさ」
「そう何ですか、わかりました。瞬、後の掃除は任せていい? 後は机と床、窓の掃除何だけど・・」
理由を聞き、断る理由もないので私は承諾し、残りの掃除を瞬に頼む。
「分かった、俺に任せとけ」
瞬はそれを快く承諾する。
「ありがとう、じゃあ私は準備しますね」
私は瞬にお礼を述べ、ふきんを机に置き手を洗いに洗面所に向かう。
「あぁ、荷物も持ってきてくれ、依頼が終わったら、そのまま帰っていいから」
「わかりました」
私は無寺さんの指示に返事をし、洗面所で手を洗い、スクールバッグを持って無寺さんと仕事に向かった。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
き、気まずい!!!
流れに身を任せて出発した私と無寺さんだったが、歩き出して数分、私はこの無言に耐えれなくなっていた。無寺さんと二人きりで行動するのは今回で初めてでみんなといる時は話せるが、二人きりになって何を話せばいいのかわからない。
どうする、私から話しかけるべきだろうか。
私の会話デッキは三つ、一つは「今日はいい天気ですね」、うん、絶対違う。
二つ、「今日は雲一つなくて太陽の陽が気持ちいいですね」、いやさっきとあんまり変わらない絶対違う。三つ、「今回の依頼はどのような内容ですか?」、これだ!! 良い、依頼の内容も聞けるし、仕事の話で会話も広げられる。よし、話しかけるぞ!!
「すまない、急に誘って、困惑しただろう」
と、思っていた無寺さんが先に話し始めた。
「い、いえ、そんな、社長、お義兄さんの指示なら仕方ないですよ」
「あぁ、あれ嘘」
「え?」
少し悔しく思いつつ私は少し慌てて声を返すと無寺さんの返しに驚き思わず声が出てしまった。
「あれ、嘘だったんですか」
「半分嘘って、言った方が正しいかな、幸田さんと仲良くなるように言われたが、別に一緒に仕事に行けとは言われてない」
「・・・・じゃあ、どうしてそんな嘘を」
私は少し間を空け、落ち着いて問いかける。下心から・・・・・はないか、ありえない。
「どうしても、二人きりで話したいことがあってな、こんなつまらない嘘をついた」
「私と」
「話とというより、頼み何だけど、もし、俺達のことについて質問するときは出来れば俺に質問してくれないか」
「無寺さんに、ですか」
「君が無暗に俺達のことを深堀しないことは分かってる。だけど、これから必ず俺達のことで疑問を浮かべることが多くなる、その時は俺に聞いてほしい。三人にとってはつらいことを言わせるかもしれないからな」
「・・・無寺さんは大丈夫なんですか」
それは、無寺さんにとってもつらいんじゃないか、そう思い私はもう一度問いかける。
「俺を気遣う必要はない、俺は三人ほど善人じゃないから」
その言葉は少し悲しく、自分を卑下していた。
「わかりました、ただし、二つ条件があります」
「出来る範囲なら」
「一つは私がもし絶対本人に聞くべきことだと判断した場合は本人に聞きます」
「あぁ、かまない、だけど、俺が一度質問の内容を聞いて意見してもいいか、ただこの時の意見は参考するだけで構わない」
「・・・わかりました、それで私もいいです。アドバイスも貰えて私にはメリットしかありませんから」
「ありがとう、で、二つ目の条件は」
「もう一つは・・・自分のことを卑下しないでください」
「!!」
「・・・私は無寺さんのことを善人だと思ってます、だから、自分を貶めるようなことは言わないでください、後、私は尊敬している人を馬鹿にされたら不快に思います、それが例え尊敬している本人だとしても」
「・・・・・わかった、その条件を述べる、後、さっきのこと、気をつけるよ」
私の提示した条件を受け入れた無寺さんの口角が少し上がっていた。
「おっと、そうこう言っているうちに着いたな」
無寺さんはそう言うと歩みを止める。その前にあったのはある一軒家。
「ここですか」
住宅街の中にある少し広めの庭がある一軒家、綺麗な白い壁でかと言って新築というわけではなく、しっかり丁寧に清掃されているのが分かる。庭には雑草がほとんどなく、人が転ぶような石もない、こまめに手入れをしているの分かる家だ。
「こんにちは、便利屋の無寺です」
無寺さんはピンポンを押し挨拶をする。押して数十秒後、扉が開きエプロンを着た三十代前半くらいの女性が少し慌ただしく現れる。
「無寺さん、こんにちは」
女性は丁寧に挨拶を穏やかに笑う。
「あら、そちらの綺麗な女の子は?」
私の存在に気付いた女性は声を掛ける。
「は、初めまして、先月から入った幸田新渚です、今日は無寺さんの仕事を見学しにきました。以後よろしくお願いします」
「まぁ、そうなんですね、熊田です、こちらこそ今日はよろしくお願いします」
私のぎこちない挨拶に熊田さんは笑みを返す。
「熊田さん、ラジコンの修理に来ました」
「いつもすみません、じゃあ、お願いします」
要件を伝えると熊田さんは玄関に置いてあった車のラジコンを持って、無寺さんに渡す。
「ラジコン・・・私、実物を見るの初めてです」
昔の時代ではこういうので遊んでいたらしいが、現代のおもちゃは積み木や人形ぐらいしかなく、そのおもちゃ達ですら、今は動画やゲームであまり遊ばれていない。
「だろうな、今はこういうのはあまり見ないし、数も少ないから修理出来る所はここら辺だと俺ぐらいしか出来ないよ」
無寺さんは私に軽く説明すると持っていた工具箱を地面に置き開く。
「どこが悪いんですか」
「前のタイヤが動かなくて、電池を変えたりしたんですが」
「どれどれ」
問題を聞いた無寺さんは箱から工具を取り出しラジコンを慣れた手つきで丁寧かつ迅速に分解する。
「すごい」
分解した部品は全く傷ついてなく、それなのにこのスピード、まさに職人技。思わず感嘆の言葉が出てしまった。
「はは、そんなにすごくないよ、分解なら社長と瞬だって出来る」
「そうなんですか」
なるほど、瞬とか事務所で銃をいじってたし、お義兄さんも銃を扱っていたっけ。
・・・・軟田さんは出来ないだな。
「まぁ、ここからは俺にしか出来ないけど」
そう言うと無寺さんは分解したラジコンを隅々まで見る。
「あ~~~、これは配線が断線してますね、もうボロボロですし、交換した方が良いですね、丁度今部品もあるので交換しますね」
「じゃあ、お願いします」
「分かりました」
交換の了承を得た無寺さんは箱から交換の配線を取り出し素早く丁寧に交換し、丁寧に組み立てる。
「はい、修理終わりです」
「わぁ、ありがとうございます」
修理されたラジコンを見た熊田さんは満面の笑みを見せ、無寺さんに感謝する。
「ママぁーーー」
すると、一人の小学校低学年くらいの男の子が道路の方から叫びながら熊田さんに向かって走って来て、熊田さんに抱き着き熊田さんのお腹に顔を埋める。
「おかえり、健くん」
熊田さんは穏やかな笑みを浮かべ男の子を抱きしめる。
「こんにちは、健くん」
「こ、こんにちは」
無寺さんはその様子を見て温かい笑みを浮かべ挨拶をし、続くように私も緊張しながらも挨拶をする。
「うん、こんにちは!!!」
男の子、健くんは満面の笑みを浮かべて元気いっぱいな挨拶をする。
「・・・・・・」
あぁ、生きてて良かった。思わずそう思ってしまった。
子供の笑顔は何でこんなにも可愛くて、眩しくて、愛おしいのだろう。もう緊張とか吹き飛んで思わず抱きしめたくなってしまった。
「あ、それ!!」
私達に挨拶する時にラジコンが目に入ったのだろう、健くんは大はしゃぎ。
「わぁ~!! 無寺お兄さんが直してくれたの」
「あぁ」
「あろがとう!!!!」
健くんはまっすぐな感謝の言葉を述べるとラジコンを受け取り、水を得た魚のように喜ぶ。
「そうか、よかったよ、おじいちゃんから貰ったものだろう、大事に扱うだぞ」
「うん、本当にありがとう、大切に扱うね」
健くんはラジコンを両手で抱え改めてお礼を言い、一度家に戻り、ラジコンのコントローラーを持って走って家から飛び出る。
「友達と遊んでくる~~!!!」
去り際、健くんはそう言い残して近くの公園の道を走って行った。
「あ、もう、気をつけるのよ」
「はは、元気ですね」
「はい、おかげ様で、本当に無寺さんには助かってます。二年前までは父が直していたんですが、父が亡くなってからは直せずじまい、おもちゃ屋やラジコンを作ったメーカーに頼んでも今は取り扱って直せないと言われていて、本当にありがとうございます。私にとってもあのラジコンは父の形見なので」
「いえ、お気になさらず、自分は頼まれた仕事をしただけです、喜んでいただけるなら本望です」
「あぁ、そうそう、修理費、今渡しますね」
熊田さんは思い出したように言い、エプロンのポケットから財布を出し、五百円玉を取り出す。
「はい、どうぞ」
「はい、確かに」
無寺さんは一礼し、五百円玉を受け取る。
「それと」
熊田さんは渡した直後、一度家に戻り、紙袋を持って無寺さんに差し出す。
「これを」
「いや、大丈夫ですよ、いつも貰っていますし」
「いいえ、いつもお世話になっていますから受け取ってください」
「ですが・・・」
「受け取ってください!!」
無寺さんは遠慮するが、熊田さんの押しは強く無理やり渡される。
「・・・分かりました、いつもすみません、ですが、もう無理に用意しなくていいですよ」
無寺さんは渋々受け取りながらも、もう十分だと伝える。
「はい、分かりました、また、依頼する時に用意しますね」
「はぁー、では私達は失礼します」
無寺さんは一言言い、工具箱を閉め持ち一礼して去って行く。私も失礼しますっと言い、深く頭を下げ慌てて無寺さんに付いて行った。
「はい。本当に・・・ありがとうございました」
熊田さんの心が籠った感謝の言葉を聞き、私達は再び一礼し去り、次の仕事に向かった。
あれから三件の依頼をこなし、今日の仕事は終わった。どの依頼も物の修理を頼まれた。結婚式場のライト、栄馬カンパニーの子会社のエアコン、麦田さんちのプラモデルの色が褪せている部分の塗装などをした。私は終始見ているだけで、正直いる意味はなかったが、それを無寺さんに言ったら「意味はある、見学は読んで字のごとく、見て学ぶ、しっかり見て学ぶんだ、軟田みたいならないようにな」っと言ってくれた。
「わざわざすみません、送ってもらって」
「いいだ、気にするな」
「ありがとうございます、そういえば、今日の依頼って修理ばかりでしたね」
「まぁ、急な仕事のほとんどは修理だから、慣れたものだよ」
「修理って、全部無寺さんがやってるんですか」
「そうだね、簡単な物なら社長にも任せているんだけど、ラジコンやエアコンみたいな複雑な物、資格が必要なやつは俺がやってる」
「・・・・・資格、偽造とかしてないですよね」
「ちゃんと試験を受けて合格してるよ」
依頼を終え、すっかり緊張は解け無寺さんと話せるようになり、雑談しながら一緒にアパートに向かっていた。本当は一人で帰るつもりだったが、辺りが暗くなってきたため、一度、事務所に荷物を置き送ってもらうことになった。
「無寺さんて、機械をいじったり作るのが得意ですよね」
「まぁあ、俺にはこれくらいしか出来ないから、団にいたころは機械いじりばかりしていた」
「何かきっかけとかあるんですか」
「・・・・4、5歳ぐらい時かな、食うものがないかとゴミ箱を漁っていたらゲームのカセットがあったんだ」
「カセット?」
「あぁ、今の子は分からないか、200年以上の前ではゲームはハードにゲームをインストールするんじゃなく、ハードにカセットを差し込んでゲームの情報を入れるのが主流だったんだ、だけど今はすべてインストールだからね、当時のカセットは最低でも1000万は超える。だけど、同じものを作るのは簡単だ、ゲームの会社に頼めば、金は掛かるがソフトもカセットも作ってくれる。そのカセットが捨てられていてね、他にやることがなかった俺はそれを分解した。親が工学に精通していてね、工具の使い方は一通り教えてもらっていたから、分解は簡単だった」
そう言った直後、無寺さんは楽しそうに言う。
「それが思いの外楽しくてな、それからゴミ捨て場に行っていろんな機械を分解したよ。エアコン、冷蔵庫、タコ焼き機、スマホ、パソコン、使い物にならない拳銃、色々分解したよ。まぁ、その半年後、親に売られたけどな」
「・・・・・・」
「でも、正直売られてよかったよ、あのクソ親といるよりはマシだった」
私は思わず言葉が詰まってしまった。やっぱり便利屋のみんなはこれまでたくさん辛いことがあったのだろう。私が想像すらできないほどのことがたくさん。
正直どんな言葉を掛ければいいのか分からない。
「・・・・じゃあ、無寺さんは機械いじりが好きでそこを伸ばしたんですね」
それでも、私は必死に絞り出し、言葉を出す。
「そうだな、でも一番の理由は別にある」
「別?」
「俺は機械いじりを鍛えるしかなかった、鍛えなきゃ、多分死んでいた」
「それはどういう・・・」
「俺、無能力者だから」
「・・・え?」
それは何ともない普通の会話、平常で、何でもないことのように、ただ普通のことのように無寺さんは言った。
「え、あの」
「はは、驚かせてすまない、俺も幸田さんと同じだよ、俺は無能力者だ、由安の教育施設に入る時に最新の機器で調べた、間違いない、そのことを知った俺を由安に連れてきた人の顔は今でも忘れないよ、失望に満ちた眼で俺を見ていた」
「・・・・・・」
「その後は大変だった、教官からはゴミ扱いされて訓練ではこれ見よがしに異能力を使ってボコボコにされて、同じ訓練生にはサンドバックにされるし」
「・・・・・・」
「だから、俺はそいつら見返すために、生き残るために自分の長所を極限まで伸ばした、結果、何とか社長の目にとまってね、来未団に入団出来て、副団長にまでのぼりつめて、教官も同期も黙らせた」
「・・・・・・」
気づけば私は無寺さんの話を黙って聞いていた。驚きで声が出ないのもあるけど、それは一番の理由じゃない。一番の理由は、私と同じだったから。
私もそうだ。私が無能力者だと知られた時、友達だった子達からいじめられた。
まぁ、いじめと言っても斬島よりはましだった。上履きを隠されたり、無能力者であることを弄られたり、これ見よがしに異能力を使ってお前も何かしてみろと煽られたりと、そんな軽いいじめだ。そのいじめ子達はすぐに先生にバレていじめはなくなったけど、別に辛くなかった。本当に辛かったのはみんなが私を見る眼だった。
みんな私を無能力者と知って私をこう見ていた。
哀れみと見下しが混ざり合った眼。
そんな視線が嫌で、嫌で仕方がなかった。
私はせめて見下されないように勉強を血反吐を吐くほど頑張った。そうして結果をだしたら、私を見下す人は少なくなった、が、見下す人は小学校、中学校、高校、どこに行っても必ずいた。
「・・・・・同じですね」
「あぁ、同じだ」
「ふふふ、ははは」
「ははははははは」
気づけば私達は笑っていた。同じ仲間がいる、それだけで、嬉しくて、笑ってしまった。
そうしている内にアパートに着き入口前まで来ていた。
「じゃあ、俺はここまでだ、今日は付き合ってくれてありがとう」
「いえ、私も貴重な体験が出来て楽しかったです、ありがとうございました」
「そうか、ならよかったよ、それじゃあ」
「はい、また明日」
別れを告げた、瞬間だった。
無寺さんの足と足の間にゴキブリが通り抜ける。
「・・・ひっっ!!!」
私は思わず声を上げて後ろに一歩下がる。
「・・・・!!!!!!!!!!!!」
そして、無寺さんは顔が青ざめていた。魚かってぐらいめっちゃくちゃ青ざめていた。その瞬間、流れる様に懐から所々丸い凹凸が直径7cmほどの鉄のボールを取り出し、落とす。
ボールが地面に着いた瞬間、ボールの凹凸からガスが噴射され、足元がガスに包まれる。
「え? え? え? え!?」
私はさきほどよりも驚き困惑する、そうしている間にガスは晴れゴキブリはひっくり返って死んでいた。
「はぁー、はぁー、はぁー、はぁー」
一方の無寺さんは息を荒げており、息を整えるために、深く息を吐く。しばらくすると呼吸は整ってゆき、いつもの無寺さんに戻った。
「え、えっと、ゴキブリ、苦手なんですか」
「・・・・・あぁ、虫が苦手で、常に特製の殺虫剤を散布するボールを持ってる」
「そうなんですか」
「そ、それじゃあ、また」
無寺さんは話を終えると再び別れを告げ足早に去って行った。
「・・・・・・意外と普通の人だな」
今まで感情の起伏が少なくて、どこか話しかけづらかったけど、話してみるとある意味、一番便利屋でまともな人だった。私は笑みを浮かべ、無寺さんの姿が見えなくなるまで見送った後、入口のドアを開き、部屋に向かった。
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みなさんが少しでも面白いと思えるように頑張ります。
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