38話 便利屋の仕事 裏終
「・・・・・・・・・・・・・・」
半グレを全員殺した後、来叶は黙ってその場に立ち尽くしていた。
「・・・・・・・・・・・・・・」
その目はどこか遠くを見ているようで、少し虚ろいでいる。
「・・・・・・社長・・・・」
その様子を見ていた桜が少し心配そうに声を掛ける。
「・・・・・すまん、久しぶりに怒りに任せて殺してしまったから、少し、疲れてな」
声を掛けられた来叶は数秒経ってから口を開く。その声は先ほどまでの冷たさはなく、疲労感を感じさせる。
「・・・・そう」
「さて、これじゃあ子供達に見せられないな」
来叶は桜の方を向き両腕を広げ、血まみれの服を見せびらかす。着替えは黒いキューブに収納していて持ってはいるが、さすがに浴びた量が多すぎる。
「えぇと、そうね、シャワーでも浴び・・・・・いや、どうやって事務所まで行くの? こんな姿で公道を歩けるわけないし」
「・・・・・・・・・」
「社長?」
「・・・・医田さんに来てもらおうか、車で」
「・・・そうね」
そんな会話しているとハシゴを登ってくる音が響く。
「・・・・どうやら、あっちも終わったみたいだな」
「・・・・・そうみたいね」
二人は少し笑みを浮かべ、ハシゴを今か今かっとじっと見ていると、一人の男がハシゴから登ってきた。
「義兄さん!! 軟田さん!! 遅れてすいません!! 助けに・・・・・終わったみたいですね」
ハシゴを登って現れたのは緑の液体と血まみれの瞬だった。
「えっと、瞬、その緑どうした?」
「えっと、これは返り血です」
「返り血・・・・・・・・あぁ、虫に変化する奴と殺ったのか?」
「はい!!! 踏みつけえてやりました!!!!」
ハシゴを登りきると瞬は二人の元に駆け寄る。
「・・・・・・・」
二人の元に駆け寄る途中、瞬は周囲を見渡していた。この、無残な死体の数々を。
「・・・・・・義兄さん、軟田さん、お疲れ様です」
この状況を見て、瞬は姿勢を正し丁寧に頭を下げ労いの言葉を掛ける。
「・・・・・ありがとな」
瞬の気遣いに来叶は感謝し、瞬の頭に手を伸ばす。
「・・・・!!!」
しかし、触れる寸前、自身の血まみれの手が目に入る。
「・・・・・・」
伸ばした手は止まり、来叶は自身の手を引っ込める。その手は微かにだが、震えていた。
「おぉ、終わったか」
そうしていると今度は血まみれの智和がハシゴを登って現れた。智和はゆっくり三人に駆け寄り、瞬と同様周囲を見渡す。その時、智和の目に刎ねられた蟹田の首が止まった。
「・・・・・相当クズだったんだな、お前が首を刎ねるなんて」
「・・・俺はこいつらを人間だと思えなかった」
首を刎ねるとは古来より相手の存在を根本から否定するという意味がある。
「・・・そうか、社長がそう言うなら俺は納得するしかない」
その意味を知っている智和は頷いて納得する。それがどれだけの覚悟いるか分かっているからだ。
「さて、これからどうする? 桜以外血まみれだけど・・・」
「あぁ、医田さんを呼ぼうと思って・・・・・・」
来叶がそう言いかけた時、来叶の言葉は止まり、僅かにハシゴに視線を向ける。
「「?」」
瞬と桜がその行為に疑問を浮かぶ。
「・・・・来てたんですね、将軍さん」
「・・・さすが、気配を消したつもりだったんだけどねぇ」
来叶がそう言うと、ハシゴを登って将軍が現れた。
「将軍さん・・・!!!!! 気づきませんせんでした」
「私も・・・・」
瞬と桜は驚き声を上げるが、智和は驚かずゆっくり振り返る。
「どうやら、無寺君も気づいていたようだね」
「・・・将軍さんの足音はリズムが心地良いですから、たまたま覚えていただけですよ」
「そうですか、何か少し恥ずかしいねぇ」
「で、何しに来たんですか」
来叶はゆっくり将軍の元に向かいながら質問を投げかける。
「そろそろ片付いてる頃だと思ってね、死体の後処理、それと女性と子供達の保護しに来た。どうせ、そこら辺のこと考えなかっただろ」
「うぅ・・・・・!!!! バレてました」
将軍の鋭い指摘に来叶はビクっと震え動揺を見せ、言葉を返す。
「ふふ、君、分かりやすくなったねぇ、昔は常にポーカーフェイスを崩さなかったのにね」
来叶の動揺を見て、将軍は口元を右手で隠しながらくすくすと小さく笑う。
「そうだろうと思ってね、こっちが手配しておいたよ、もちろん、これもサービスだからお代はいらないよ」
「すいません、任せっきりで、ありがとうございます」
「いいよ、お詫びなんだから、さ、下にシャワー付きのキャンピングカーがあるから、浴びてきなさい着替えはもってるでしょ」
「はい、何から何まで、本当にありがとうございます」
「やったぁぁぁぁ~~~!!! シャワーだぁぁぁ!! わ~い」
「「「「あんた、汚れてないでしょうが!!」」」」
シャワーと聞いた桜は四人の息の合ったツッコミも気にせず、一目散に降りていった。それに続いて瞬も降りて行き、三人はゆっくりハシゴに向かう。
「・・・・将軍さん」
「ん、何だい、智和君?」
「あなた、紙に発信機と盗聴器付けました」
「・・・・やっぱり、バレてた」
「タイミングが良かったので、社長も気づいていたでしょう」
「まぁ、一応」
「あはは、ごめんよ、少し心配でね、来叶君が我を忘れて、暴れるんじゃないかって」
「・・・・いつの話ですか、それ」
「6年前、海外マフィアを撲滅する時、君、マフィアのボスと幹部をミンチにするぐらい怒っていたよね」
「・・・・・・・」
そう言われた来叶は冷や汗を掻き、そっぽを向く。
(あぁ、あの時のマフィアも子供や女性を攫っていたな、しかもも誘った人達を自分達の性の捌け口にして、他のマフィアや腐った政治家に売買していたからな。それに怒った社長がマフィアのボスと幹部を生け捕りにして、足からゆっくり時間をかけてミンチにしたっけ)
「確かにあの時はやり過ぎだったっと俺も思う」
「・・・・・すまん、あの時は完全に私情でやった」
「・・・・今回も私情だろうが」
「・・・うぅぅ・・・」
「・・・・・たく、やっぱりあんたは人間だな」
「・・・・・・」
智和の言葉に来叶は少し口角を上げていた。そんな会話をし3人は順番にハシゴを降りていく。
「・・・・・」
降りた直後、来叶は1階の光景に絶句した。
「おい、下にいたのは80人だよな」
「・・・あぁ」
「遺体の数、200はあるぞ」
「あの後、援軍が来てな、派手に殺った」
その光景は2階に負けず劣らず、否、2階以上の地獄だった。遺体のほとんどが銃創だらけで、あちこちに血の池が出来ており、血と肉が焼けた匂いが充満していた。
「これ・・・・片付けるのいくら掛かる?」
この匂い、遺体の数、かなり手間が掛かるのはこの場にいたら誰だって分かる。
「・・・・や、やっぱり自分が」
「いや、いいんだよ、これも・・・サービズ、さーびす」
将軍は笑って言っていたが、明らかに元気がなく、目が笑っていなかった。
「「・・・・・ありがとうございます」」
二人は深々と頭を下げ、感謝した。
40分後、四人がシャワーを順番に浴びている間にJKが贔屓している掃除屋が死体をほとんど片付けてくれていた。血の池も掃除してくれて、池があった場所はピカピカになっていた。血と肉が焼けた匂いも何かすごい薬品を使って消してくれた。
「・・・・・・・」
その薬品を使っている場面を見て、将軍は顔を真っ青にしていた。
(・・・相当、高い薬品何だろうな、今度、飲み行く時奢ろう)
その時、早めにシャワーを浴びて一緒にいた来叶はそう決意し、掃除を一緒に見守る。
それから20分後、二階の掃除も終え、掃除屋は去って行った。去る間際、掃除屋のリーダーらしき人物が将軍に紙を渡していた。おそらく請求書だろう。その紙を見た直後、将軍の顔が真っ青を超えて紫になっていた。
その後、女性と子供達は将軍が責任を持って送り届けることになった。すでに子供達の身辺を調べており、すでに半数は分かっている。
女性達についてはこれから聞き出して帰すらしい。だけど、口封じをするために少し脅す。もちろん、裸体を撮るとかそういうのではなく、普通に金を渡して黙らせるらしい。
しばらくは発信機と盗聴器を付けるらしいが、喋らないと分かれば、遠隔でショートさせるようになっている。
ただ、まいかちゃんに関しては来叶達で送り届けることになった。身元は分かっているし、来叶達がやった方が早い。怪我の功名と言うべきか、半グレ達は監視カメラがない場所でまいかちゃんを誘拐している。なのでまいかちゃんが捕まる映像はない。まいかちゃんの両親や警察にいくらでも言い訳が出来る。
それにまいかちゃんが両親に来叶達のことを言うことはない。他の子供達が言ったとしても大して問題にはならないが、まいかちゃんの場合は違う。もし言ったら、逃亡生活まっしぐら。だけどはまいかちゃんはちゃんと言い聞かせればこのことを言わない。そういう子だからだ。
まいかちゃんのアイマスクと耳栓を外した時、外した来叶を見て、笑ってお礼を言っていたが、その笑顔はぎこちなく、ずっと、来叶の服の袖を掴んで離さず、震えていた。
将軍と掃除屋が去った後も、様子は変わらずずっと怖がっていた。
「・・・・・・まいかちゃん、大丈夫」
将軍と掃除屋見送った直後、心配した来叶が声を掛ける。この言葉はアイマスクと耳栓を外した時、服の袖を掴んだ時も来叶は言っていた。
けど、決まって。
「う、うん、まいか、大丈夫だよ」
と精一杯の笑顔で言う。その笑みはやっぱりぎこちない。
「・・・・・・・・まいかちゃん」
その様子を見て来叶はその場で膝を付き、まいかちゃんと視線を合わせ、優しい笑みと声で少女の名前を呼び、やさしく、そっとハグをする。
「!?」
まいかちゃんは困惑するが、来叶は優しい声で言葉を続ける。
「助けるのが遅れてごめんな、怖かったろう、周りは知らない人だらけで、泣いたら殴られて」
そう言いながら、来叶は少し躊躇するも頭をまいかちゃんの頭を優しく撫でる。
「本当にまいかちゃんはすごいよ、桜から聞いたよ、あの時まいかちゃんが声を掛けてくれたから、俺達はみんなを助けることが出来た」
その言葉は心の底から言っているとその場にいる全員がそう思うほど、まっすぐな言葉だった。
「ありがとう、まいかちゃん」
「・・・・え・・・・・ぁ・・・」
来叶の感謝の言葉にまいかちゃんは戸惑いその場で固まってしまう。
「でも、俺達に気を使わなくていいよ、子供なんだから泣きたかったら泣いていいし、大丈夫じゃないなら大丈夫じゃないって言う、そして、怖かったならちゃんとパパやママ、先生、俺達に言う事」
「・・・・え・・・」
「だから、ちゃんと俺達に言ってくれ、我慢しなくていい、本当によく頑張った」
「・・・うぅ・・・うぅぅぅぅ・・・・」
その言葉を聞いて、まいかちゃんの笑顔が崩れ、年相応の泣き顔になってゆく。
「う・・うえぇぇぇえぇんん!!!」
そして、声を我慢せず、感情のまま、泣いた。
「よしよし、頑張った、さぁ、パパとママの所に行こう」
そう言って来叶は泣き続けるまいかちゃんを抱きかかえ歩く。
「帰ったら、二人にいっぱいぎゅうしてもらおうな、まいかちゃん、パパとママのぎゅう好きだろう、で、お風呂に入るんだ頭と体しかっり洗っていしっかり浸かって温まるだぞ、ごはんもおなかいっぱい食べて寝るんだぞ」
三人はそれに続き、後を追う。
「・・・・・・ちゃんと、洗うんだぞ」
その時のまいかちゃんをあやす来叶の手はかすかに震えていて、まいかちゃんは気付いていなかったが、三人は気付いていた。その光景に三人は胸を痛めた。
それでも三人は気付かないふりをして後を追う。
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