37話 視点T
来叶が銃を取り出した時だった。気絶したボスが目を覚ました。
「・・・・うぅ・・」
さきほどまで気絶していたので天井のライトが眩しく思わず、手で目を覆い隠す。
「・・・・・うぅ」
数秒経つとライトの光に慣れてゆき、手を下ろし立ち上がる。
(何が、あったっけ・・・)
ボスは少し混乱していた。後頭部を強打したのだ、無理もない。
額に人差し指と中指を置き、思い出そうとした時だった。冷たい声が部屋中に響いた。
「さぁ、お前ら、ここを、地獄にしようか」
「!!!!」
その言葉を聞いてボスはすべてを思い出した。
現在の状況を。
一生忘れることのない冷たい声を。
一生消えることのない恐怖を。
「はぁ~~、何言ってんだ、てめぇ」
来叶が宣言した直後、銃を撃った半グレが立ち上がり、再び銃を握り銃口を向ける、瞬間だった。
来叶はリボルバーの銃口をゆっくり銃を持った半グレに向ける。
「てめぇを殺すのはオレ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
半グレが殺害宣言を述べる途中、来叶は引き金を引いた。銃口を向ける時とは打って変わり引き金を引く時は一瞬だった。
銃音は小さかったが、威力は凄まじく、半グレは頭が吹き飛び、血を撒き散らしてその場に倒れ、あっさり死んだ。
それを見た子供達以外の桜を含めた全員が恐怖した。アイマスクをして何も見えないはず女性までも恐怖した。
半グレがあっさり死んだからじゃない、いや、それももちろんある。だけど、一番はそこじゃない。
一番の原因は、来叶の殺気だった。
来叶は引き金に触れた瞬間、殺気は姿を現した。
それは言うのであれば、死そのもの。向けられたら、虫のように簡単に殺される。そう思ってしまうほどの殺気。例え向けた相手が豚であろうと、強者であろうと、ライオンであろうと、龍であろうと、向けられた恐怖し、自分はここでこいつに殺される、そう思って、いや、確信してしまうほど、殺気は悍ましいほど黒く、氷のように冷たく、ナイフのように鋭く、そして、この場すべてを覆うほどに大きい。
この場にいる桜と子供達を除いた全員が確信した。
やつは死神だ、と。
この場にいる半グレ全員が息を荒げた、大量の汗を掻いた、心臓の音がうるさくなった、震えが、止まらなくなった。
((((((((オレ達、死ぬんだ・・・・・・・)))))))
半グレ全員がそう思った。
今までのことが本当にただの時間稼ぎだと、その気になれば自分達なんて一瞬で殺せることを。
半グレが残された道は3つ。
「う、うぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁ!!!!!」
戦うか。
「あ、あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・!!!!!!!」
絶望するか。
「あ、あぁぁ、嫌だ、嫌だ、嫌だぁぁぁぁ!!!!」
逃げるか。
だけど、どの道を選んでも辿り着く場所はただ一つ。
「・・・かぁぁ!!」
「・・・こへぇぇぇ!!」
「・・・・・・ぁぁ・・・!」
死のみ。
来叶は一瞬で3発撃ち、一発も外すこともなく半グレ3人の頭蓋を撃ち抜き、一瞬で殺す。
「・・・ぶはぁぁ!!」
「・・・ぐへぇぇ!!」
次に近くにいた半グレ2人に1発ずつ撃ち、それぞれ心臓、喉仏を撃ち抜き1人は胸に風穴を空け、もう1人は首が吹き飛び、頭と体が分かれ死んだ。悲鳴を上げる間もなく、ただ、恐怖に囚われて。
たった数十秒で6人も殺された。たった数十秒で空気を一変した。
「・・・・・・・!! お前ら、逃げ・・・・・」
ボスは全員に指示を送ろうとしたが、遅かった。自身の部下の顔を見たら、嫌でも分かってしまう。
分からせられてしまう。
もう、何をしても無駄だと。あの死神の前ではすべて無力だと。あの殺気を一度、感じてしまったら、絶望してしまう。どんなに抗おうと自分達は殺されてしまうと。
「う、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!」
しかし、それでも諦めない愚者がいた。
そいつは名は蟹田。
彼はボスよりも少し早く目覚めており、来叶に襲い掛かろうとした時に、死神が現れてしまった。他の半グレ同様、恐怖に囚われているが、自身に喝を入れ己を奮い立たせ、雄叫びを上げ、自身の腕を蟹のハサミに変化させ、来叶に襲い掛かろうと一歩を踏み出す。
本来なら、その行動は讃えるべきことなのだろう。
「・・・・・・」
だけど、死神相手にはただの愚行と化す。
「・・・・・・・・え?」
一瞬だった。蟹田が動いた時、来叶は蟹田に殺気を向けた。
その刹那、来叶は静かに、ほぼ無音で動いていた。足音は一切響かず、衣擦れの音もしなかった。しかし、その動きは速く、蟹田が1m動いた時にはすでに来叶は蟹田の前にいた。
その直後に来叶は一瞬で蟹田の両肩をナイフで切断した。斬撃はあまりにも速く、あまりにも正確だった。斬られた肩は斬られたすぐに血は流れず、肩が床に落ちた直後に傷口から栓を抜いたワインの樽のように大量に流れた。
「あぁぁぁぁぁ!! あぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁ!!! あぁあぁ!! あぁぁぁぁああ!!」
その瞬間に、一気に激痛が蟹田の体に駆け巡り、蟹田は子供様に泣き、その場で右往左往し、膝を床に付けた瞬間、来叶はナイフを走らせ、蟹田の首を刎ねる。
「・・・ぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
それは肩の時と同様に切断した首が床に落ちた直後に切断面から大量の血が噴射し、蟹田は死んだ。斬り落とされた頭は転がって行き、ボスの前まで行き、ボスが表情を見える位置で止まった。
その顔は子供が泣いた後の様にぐしゃぐしゃだった。
「・・・・・・・」
来叶は返り血を頭から浴び、全身が真っ赤に染まるが、気にすることもなく次の獲物に視線と殺気を向ける。
「・・・ひぃぃぃぃ!!!」
視線を向けられたのは近くの半グレ。その半グレはすぐに視線と殺気を向けられたことに気付き、情けない声を上げ、後ずさる。
「はぁぁ!! はぁぁぁ!! はぁぁぁ!!! はぁぁぁぁ!!!!」
半グレは息を更に荒げ、どうすればっと、生き残るために周りを見る。
「・・・!!!!」
その時、半グレの目に檻に囚われていた子供達が目に留まる
「は、ははは!!」
半グレは醜い笑みを浮かべ、懐から銃を取り出し、子供達に銃口を向ける。
「!!!!」
桜は半グレの行動を察知し、止めに入ろうと動く。
「動くな!!! 動いたら殺・・・・・・え?」
動いた桜を見た半グレは忠告し、銃に視線を向けるが、銃を持っていた腕が切断され、床に落ちていおり、落ちた腕の近くにはナイフを振り下ろしたばかりの来叶がいた。
「・・・・・」
その表情はさっきまでの無表情とは打って変わり、怒りに満ち、般若と化していた。
(私のいる意味ないじゃん)
桜はそれに対し、苦笑いを浮かべ、その場で止まる。
「あ、あぁぁ、ぐはぁぁ・・!!!!」
半グレが悲鳴を上げようとした瞬間、来叶はナイフを握った拳で半グレの頬を殴り飛ばす。
半グレは背中から倒れ、倒れた直後に来叶は馬乗りになり、ナイフを半グレのもう片方の手の腱に突き刺し、リボルバーを捨て、拳を振り上げ、一発一発力込めて半グレの顔を殴り続ける。
「・・・・・・ぐ・・・・・・ぃ・・・・・・・かぁ・・・・・・・たしゅ・・・・・・・・・・け・・・・・・・・・・ゆりゅ・・・・・・・・・し・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
半グレは悲鳴を上げる暇もなく殴り続けられる。それが3分以上続き、顔が嘔吐物のようにぐちゃぐちゃになって死んだ。両腕からは大量の血がそれが死因になったのだろう。
殴り続ける三分間、来叶は隙だらけであったが、誰も動かなかった。
動いたら一瞬で殺される。全員、本能でそう理解していたからだ。
死んだことを確認し、来叶はナイフを抜いて立ち上がり、リボルバーを拾い、ナイフを口に咥え、懐から銃弾を取り出し一瞬で装填する。
(・・・あぁ、やっぱり、化け物だな)
その行動一つでボスは絶望してしまった。あまりにも速すぎた。銃弾の装填に一秒も経っていない。それだけで自身との技術の差が分かってしまう。
「・・・・・・・・・・・」
震えが止まらない、時間が経つにひどくなってる。思わずその場で尻もちを付いてしまい、まともに立つことが出来ない。
「ぼへぇぇ!!!」
そうやってビビっている間にまた一人。
「がはぁぁぁ!!」
また一人。
「ぎゃはぁぁあぁ!!!」
部下がどんどん死んでいく。
(・・・・・ここまでか・・・・)
男は自分の運が尽きここで死ぬことを、今、初めて受け入れることが出来た。
死ぬことを受け入れることが出来たおかげか、恐怖が消えたわけじゃないが、震えが止まり少し余裕が出来た。
(あの時よりは成長・・・・・いや、ひどくなったな)
9年前、男は死神に会っていた。
9年前、台風という組織があった。台風は殺し屋約400人が集まり国家転覆を狙っていたテロ組織。創設当初はメンバーがたったの21人だったこともあり、ただのゴロツキの集まりだと揶揄されていたが、トップの跳田大火がすさまじかった。台風を創設する前からフリーの殺し屋と名を馳せており、間違いなく当時トップクラスの実力だった。
残虐性も同じぐらい有名だった。依頼人を気にいらないという理由で30人は殺したと聞いた。そのため二つ名は悪魔の子なんて言われていた。
でも、跳田は優秀だった。人脈の広さと圧倒的強さで優秀な部下をどんどん集めて行き、一気に400人まで増やしてゆき、当時、死の教授とよばれ長年来未団の最高戦力を務めていた時衛操真と単独で撃破した。
ってことになっている。実際は罠に嵌め、400人全員で襲い、殺した。単独で殺したことにしたほうが箔が付くし、跳田がさらに恐れられるからだ。
その効果は絶大だった。
来未団最強と言われていた男を殺したのだ。いやでも国家転覆が現実味を帯びてゆき当時の裏世界を騒がせた。だからだろう、構成員全員が調子に乗った。下っ端だった当時20歳のオレ、河豚原血則も調子に乗っていた。たまたまお世話になった殺し屋が台風の幹部で創設してすぐに誘われて組織の一員になった。下っ端ではあったが、幹部のお気に入りだったこともあり、優遇されていた。
金は馬鹿みたいにもらい、その金で、良い酒が飲み放題だったし、女も抱きたい放題だった。最高の日々だった。
この頃までは。
時衛操真を殺害した三日後、生き残った全構成員300名が集まってアジトで祝勝会をしている時だった。
死神は静かに現れた。
死神が現れて30分後、オレ以外の全員が殺された。
10分で跳田を惨殺。
3分で実力者の幹部4名を殺害。
17分で295名を殺害した
戦いにもならなかった。
全員油断していた。当時の死神は名を轟かせていたが、所詮はガキ。
実際は大したことなくて、ただの雑魚。蛍田組の件だって自分の保身のために部下の手柄を横取りしたのだろうと。だって、14歳のガキがあの来未団とタメを張っていた組織を壊滅出来ると誰が思う。
でも、死神は真の強者だった。
まさに地獄、全員が恐怖の中死んでいった。
その時の死神の顔は怒りに満ちており、ほとんどの奴が過剰に傷つけられていた。
オレはビビり、死体の山に身を潜め、息を止めていたので何とか生き残った。
まぁ、死神が去った後も怖くて、呼吸が出来ず、気絶して目覚めたのは翌日だった。
その時の遺体が腐りきった異臭は今でも鮮明に覚えている。
あれは本当にひどかった。クソの十数倍はひどかった。
それからオレの人生は腐りきった。
ただの若造だったオレは少しでも稼ぐために相場の1割で仕事を受け持った。最初は相場の5割でやっていたが、依頼が来ず、3割でやってみても仕事は来ず、一割になってやっと仕事が来るようになった。数をこなせば稼げると思っていたが、100万の仕事を10万でやっているんだ。命を懸けているのに割に合わない。
そんなぎりぎり生きいける生活が二年続いた。けど、耐えられなくなり、オレは人の道を外れた。
売人の護衛、人さらい、子供の殺害、拷問、上げればきりがないほどの外道の仕事をやってきた。おかげで金は貯まってゆき、もっと増やしたくて、半グレを集め、組織を作った。
人身売買、これが一番金になる。外道に堕ちて8年、これが一番増やせることがわかった。
だからだろうな、こんなことしてたら、それりゃあ死神だって来るわなぁぁ。
残るはあと一人、半グレのボスだけになった。その場はまさに地獄。あちこちで血の池が出来ていた。
「はぁぁぁーー・・・・・」
ボスは息を吐いて立ち上がり、ナイフを取り出し、ナイフで手の平を斬り、自身の血を付ける。
彼の異能力は自身の血を毒に変化させることが出来る。
血が大気に触れた直後は痺れ毒、食らえば像だって5分は動けない。
血が大気に触れてから1分後、毒は変化し、催眠ガスと同じ成分になり、食らえばとてつもない睡魔が襲う。
さらに血が大気に触れてから3分後、トリカブトの毒と近しい物に変化、食らえば臓器を吐き出すほど吐き気が襲う。
「うぉぉおぉぉ!!!!」
ボスはスタートをきり、来叶に突撃する。しかし、来叶はすでに動いていた。すでにリボルバーを構え、やつの心臓に標準を合わせ撃つ。
「くぅうぅぅぅ!!!」
弾はボスの体に当たるが、何とか心臓は避けた。しかし、臓器には当たっており、喉から大量の血が口から出ようとする。
しかし、ボスは吐き出さず、そのまま口の中で溜める。
「ぶうぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」
口の中が血でいっぱいになった直後、ボスはそれを来叶に思いっきり吹きかける。
(頼む、当たれ!!!)
命を懸けた捨て身の攻撃。
しかし、その攻撃はたった一歩、来叶が横に移動するだけで避けられた。
(あぁ、だめか・・・・・)
次の瞬間、ボスの頭は静かな銃音と共に吹き飛んだ。ボスの血は誰にも触れることはなかった。
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