35話 便利屋の仕事 裏1
時刻は午後11時、新月の夜。月や星の光が無く、街灯や店、スマホの画面などの人工の光だけで照らされた町、鶴在町。
そんな無数の光で照らしている町でも光が無い場所があった。その場所は路地裏、洗浄されている表通りとは違い、ごみが散乱し異臭を放ち、壁はシミだらけできれいな所を見つけるほうが難しく、とてもじゃないが人が通る場所ではなかった。
そんなクソな場所を俺、空原瞬は義兄さん、無寺さん、軟田さんと一緒に暗い中、目的に向かって歩いていた。
「相変わらずここは臭いわね、暴漢とかも出そうだし、怖いわね~」
目的に向かっている中、軟田さんが周囲を見渡してそう言い、暗くてほとんど見えないはずなのに歩きながら無寺さんの腕に絡みつく。可笑しいな、無寺さんと軟田さんの間には俺と義兄さんがいるのに。
まぁ、俺達は常人よりも夜目が数十倍は利く。実際、俺はこうやって二人の状況がわかっていることだし。それでも、気付かれずに隣に移動できるのは化け物だけど、少なくても俺には出来ない。
「アー、ソウダナ」
軟田の動きに感心していると、無寺さんは軟田に対し片言で返す。
「お前ならスライムを口に突っ込んで窒息死させればいいだろうが」
二人の様子を見ていた義兄さんが呆れて言う。確かにこの人なら出来る。実際、一緒に海外マフィアを潰す時にマフィアのボスにスライムを馬鹿みたいに突っ込んで呼級を止めた。おそらく死ぬ瞬間までマフィアのボスは苦しんでいた。マフィアのボスの苦悶の顔は、今でも鮮明に覚えている。
「いやよ、その窒息に使ったスライム何て使いたくないし」
「じゃあ、捨てればいいじゃねぇか」
「勿体無いじゃない、捨てた分のスライムを生成するのに、最低でも三週間は掛かるわよ」
そうして言い合っていると、目的地に辿り着いていた。
「義兄さん、目的地に着いたよ」
俺と無寺さんは止まり、軟田さんは無寺さんに連れて歩みを止めるが、そのまま進もうとする義兄さんを呼び止める。
「あぁ、そうか、ここか」
俺の言葉で気づいた義兄さんは足を止める。
「えーと、まだ来て・・・・・いや、来たようだな」
義兄さんがそう言うと、俺は初めて俺達以外の気配に気付き、気配があるほうに向くと一人の男がゆっくり歩いて来ていた.
その男は季節に合わない黒いチェスターコートを着ており、暗い場所と黒髪も相まって、怨霊のようだった。この人は将軍さん。自他共に認める日本一の情報屋で二大情報組織の一つ、情報協会、通称JKのリーダーを務めている。いつも、何か町に問題が起きてないかこの人に聞き、問題があったら対処する。それが便利屋有事の裏の仕事。ちなみに将軍という名前は偽りの名で本名ではない。
「便利屋の皆さん、こんばんは」
将軍さんは俺達と対面した数秒後、胡散臭い笑みを浮かべ、頭を下げ丁寧にあいさつする。
「こんばんは、将軍さん」
それに対して義兄さんも丁寧にあいさつを返す。続けて俺達も頭を下げあいさつする。
「はは、そんなかしこまらなくていいよ、私達の中ではありませんか」
「いや、丁寧なあいさつをされているのに、適当に返すわけにはいきませんよ、いつもお世話になっていますし、俺のほうが年下ですし」
「そんなの気にしなくていいですよ、私のあいさつは癖みたいなものですから、本当に気にしないでください」
「あはは、ありがとうございます。そう言って貰えると肩の荷が少し軽くなりました」
将軍さんの温かい言葉に義兄さんは安堵の笑みを浮かべる。
「いえ、お礼何ていいですよ、むしろこちらは謝る方で、こちらのミスでみんな危険な目にあったのですから」
そう、今回のメインの話はこれだ。斬島カンパニーの不正情報を広める際に、義兄さんは信用できる情報屋10人に不正情報を渡し広めてもらった。その時の情報屋の中には将軍さんもいた。その時、将軍さんは情報を効率良く広めるために自身の部下三名にも情報を渡し、広めてもらった。もちろん、この時ちゃんと義兄さんからアポは取っている。
しかし、部下の一人がJKに入ったばかりの若手で、活発に動き過ぎてしまい斬島カンパニーの情報網に引っかかってしまった。すぐにその若手は斬島カンパニーに捕らえられ、情報を吐いて殺されてしまった。その時、将軍さんの居場所に関する情報も吐いてしまい、俺達同様刺客を送られたが、返り討ちにしたらしい。今回はその件で謝罪したく、俺達は呼ばれたわけだ。
「若手を鍛えるために任せたのだが、本当に申し訳ない」
「いえ、いえ、大丈夫ですよ、別に誰も怪我してないし、もうその件はいいですよ」
「・・・ありがとうございます、そう言ってもらうと、気持ちが、少し、楽に・・・・」
そう言う将軍さんは笑ってはいたが、少し暗い表情にも見えた。
「・・・・部下を死なせたこと、気にしていますか?」
そんな将軍さんの顔を見て義兄さんは声を掛ける。
「・・・・そう、だね、私がちゃんと実力に見合った仕事させていれば、彼は優秀だった、最近はでかい成果も上げていて勢いがあった。だから、今回の仕事は私の補助なしでやらせていたんだが、まだまだ、経験が足りなかったようだ」
「・・・・」
語っている時の将軍さんは握り拳を作っていて、腕の血管が浮かび上がっていた。
この業界ではこんなことはよくあることだ。自分の実力よりも上の仕事をするということは自殺しにいくことと変わらない。だからこそ、上の人達はその仕事の難しさをしっかり理解し、やらせる人の実力と照らし合わせ、成功するかどうか考えなければいけない。そうしないと、後進がまったくと言っていいほど育たないし、無駄死にさせることになる。
特に優しい人が上の人間になると、命を背負っているという責任を負わせてしまうことになる。実際そうなんだが、もし死んだとしてもそれは当人の能力不足が大部分なんだが、将軍さんや義兄さんみたいな人は嫌でも責任を感じてしまうだろう。
「大丈夫ですよ、将軍さんはよくやっています、部下からも信頼されていますし」
「そう、ですね、信用はされているとは思うよ、君ほどではないけどね」
「え?」
将軍さんは少し羨ましそうな目で義兄さんを見つめ返す。
「・・・そうなのか?」
将軍さんのまさかの返しに義兄さんは俺達の方を向き、不思議そうに聞く。
「はい、もちろんです!! 義兄さん以上に尊敬し、頼りになる人は未来永劫いません!!!!」
俺はそれに対し羨望の眼差しを向けて、全力の感謝の言葉を述べる。
「まぁ、してるちゃあ、してる」
「頼りにはなるわよねぇ」
俺に続き、無寺さんと軟田さんも各々言葉を並べる。
「そ、そっか・・・」
俺達の言葉を聞いた義兄さんは珍しく少し照れていた。
「ふふ、よかったね、頼りにされて」
「あ、あぁ・・」
「えっと、話を戻していいかな」
「あぁ! すいません、大丈夫ですよ」
「ありがとう、で、今日は部下のミスで君達に迷惑を掛けたことへの謝罪とそのお詫びしに来た」
「お詫び?」
「とっておきの情報を入手してね、二日前に頼まれた江坂まいかちゃんの行方がわかったよ」
「「「「!!!!!」」」」
江坂まいかちゃん、事務所の近くに住む小学二年生の元気な女の子。3日前から行方不明になっていて、行方不明になったその日は学校には行ってたらしいが、一人で帰っていたらしくて、情報がほとんどなく、警察が現在捜索しているがまったく進展がない。義兄さんはそのことを聞いた直後、将軍さんにまいかちゃんの行方を調べてもらっていた。
「・・・・・上物が入ったとは聞いていたが、ここまで早いとはな」
「まぁ、そこは良くも悪くも情報屋の伝手ってやつさ」
「?」
「まいかちゃんのいる所は人身売買をする半グレ組織だ」
「「「「!!!!」」」」
「その半グレ組織は子供と女性を主に取り扱っていてね、捕まえる際に情報屋を使って入念に調べてから誘拐してる」
「そうか、で、アジトの場所は」
将軍さんの話を聞いた義兄さんは食い気味にアジトの場所を聞く。それに対し将軍さんは一枚の紙を取り出す。
「この紙に書いてあるよ、組織名とリーダーとお抱えの情報屋の情報、メンバーの総数も記しておいた」
「そうか、ありがとう、報酬は後日、色を付けて払うよ」
「いいよ、今回はお詫びだ、金はいらない」
「でも・・・」
「それより、早く行きなよ、ここで押し問答をする時間はないでしょ」
「・・・分かった、ありがとう」
そう言って、義兄さんは紙を受け取り歩いて行った。その足取りはいつもよりも数倍早かった。俺達も将軍さんに一礼し、義兄さんの後を付いて行った。
「たく、本当に忙しいやつだな」
去り際、将軍さんは笑みを浮かべて言う。だけど、その言葉は義兄さんには届いていなかった。
その場を去った後、俺達は紙に記されていた場所に向かった。向かった場所はここから歩いて10分もしない場所にあるそこそこでかい廃工場。
「さて、さっさっと終わらせるか」
着いた直後、義兄さんはリボルバーを取り出す。それに続き俺は持って来た黒いキューブを握り、サブマシンガンに変化させ、片手で持ち、空いた手で拳銃を持つ。無寺さんは二丁拳銃を取り出し、軟田さんは二本のナイフを胸から取り出し逆手で持つ。
「紙に書いてあったが、組織名は羅巣駆、構成員の数は100名、リーダーが元殺し屋、お抱えの情報屋二人も戦闘者だ、油断せず殺せ」
簡潔に、冷たく、俺達を気遣って忠告する義兄さんの背中はいつ見ても。
遠い気がする。
義兄さんは一度こちらを見て戦闘態勢に入ったことを確認すると、工場のシャッターの前に立ち、右手でシャッターを触る。
「ふー」
息を吐き、右手の指を掻き毟る時のように指を立てる。
「ふん!!!」
そして、一気に力を入れ、シャッターを貫通させそのまま強引に斜めに引き裂き、シャッターに人一人入る分の穴を空ける。
「行くぞ」
穴が開いた直後、義兄さんが小さく発し、突入。俺達も続いて突入する。
突入した直後、目に入った光景はやはりと言うべきか吐き気を覚えるものだった。
工場の中には80人ほどの半グレがおり、それぞれマージャやポーカンなどの賭け事をしており、大音量の音楽を流してこちらには目もくれず暇を潰していた。
そして、
部屋の隅の檻にボロボロの服を来た女性が何十人もとらわれていた。しかも、全員虚ろな目をしていて、服も少し乱れている、しかも栗の花のような匂いが充満している。
「な・・ぼへ!!!」
「き・・かひゅ!!!」
シャッターの間近にいた半グレ二人は異変に気付き、戦闘態勢に入ろうと腰に掛けていた銃に手を伸ばすが、無寺さんが移動の最中に頭を撃ち抜く。
「何だてめぇらーー!!」
「襲撃だぁぁぁ!!!!!」
ゲームをしていた半グレ達も銃声でこちらに気付き、戦闘態勢に入る。しかし、もう遅い。
義兄さんは半グレ達が戦闘態勢に入った瞬間、一瞬で六発撃つ。
「ぶへっ!!!」
「ぼひゅ!!!」
「ぐはっ!!!」
奴らに避けられるはずもなく、弾は六人の半グレの脳天を貫き、血しぶきを上げ倒れる。
しかし、やはり前の宗教の様には行かない。半グレ達は怯むことなく襲い掛かる。
まぁ、どうせ、全員自分のことしか考えてないから襲い掛かっているだけだと思うけど。
そう思っていると、今度は無寺さんが襲い掛かる半グレの足元にありったけの銃弾を放つ。
「おわ!?」
「あぶね!!」
しかし、銃弾は当たらず、コンクリートに打ち込まれる。
「ホイっと」
弾が無くなった瞬間、無寺さんはつま先で地面を数回蹴る。すると、先ほど放った銃弾が青白く光り、電流が流れる。銃弾の間近にいた数十人の半グレが電流を浴び動きが止まる。
「「「「あっびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅ!!」
そんな呑気に止まっていたら、撃っていいよって言ってるようなものだよ。俺はサブマシンガン銃口を向け乱射する。
「「「「「「ぎゃはぁぁぁぁ!!!!」」」」」」
電流を浴びた半グレ達はただの的、全員、体中に風穴を開け絶命する。
「瞬、その調子で頼む、俺はまいかちゃんを探しに桜と一緒にあのハシゴを上ってくる」
銃弾が無くなり、即座に銃弾を装填していると、義兄さんが俺に視線を向け、奥にあるハシゴに親指を向けて言う。
「了解、ここは任せてください」
「頼む、智和、瞬の援護を頼む」
「わかった」
無寺さんの返事を聞いた直後、義兄さんは袖から弾薬を取り出し、まばたきする間に装填、自身とハシゴの間にいた半グレ五人に向かって早撃ち。一瞬で五発撃ち、心臓を貫き半グレ五人はバランス崩す。
「しゅ!!」
撃たれた半グレがバランスを崩した瞬間、スタートを切る。次の瞬間、走っている義兄さんを殺そうと半グレ達が銃弾を放つが、義兄さんは銃弾を見切り、減速することもなくすべて躱す。
さらに躱した瞬間、義兄さんは懐から四本の投げナイフを指の間に挟んで取り出し、撃って来た半グレ四人に向かって投げる。ナイフは寸分たがわず半グレ四人の喉を貫き、悲鳴を上げる時間すら与えず殺す。そのまま、殺した半グレに目もくれず義兄さんは走り、ハシゴに到達する。
軟田さんもそれに続いて急いで向かうが半グレ達も馬鹿じゃない、軟田さんに銃口を向けるが、構えるのがおそすぎるだよ。俺は即座に拳銃を構え、二秒で六発撃ち、やつらの銃口に撃ちこみ銃を使用不能にする。
その光景を目の当たりした半グレ達は一瞬膠着、その隙を逃さず軟田さんは一気に駆け抜け、ハシゴに到達し、二人は一気に登っていった。
二人を狙おうとする半グレもいったが、俺が撃っている間に弾を装填していた無寺さんが手を撃ち抜いて黙らせた。
「さてと」
二人を見送った俺は無寺さんの隣に移動する。
「あと50人ぐらいいますけど、どうします?」
「俺は適当に足止めするから、そこを撃て、動かない的を当てる何て、お前にとっては小一のテストで満点取るより簡単だろ」
「うぅ、はい、そう、ですね」
少し否定したかったが、事実なので俺は苦い顔で同意する。
「おいおい、これはすげぇぇなぁぁ~~~、結構やられてんじゃねぇぇか」
返事をした直後、後ろから太い男の声が響く。俺と無寺さんは驚くこともなく、そのまま振り返る。後ろに人がいることは気付いていたからな、動揺なんてするはずもない。
振り向くと、そこにいたのは今帰ったばかりだと思われる男が一人、義兄さんが開けた穴から来た。その男は身長が190cmほどで、どう見てもそこらにいる半グレではなかった。
「これ、やったの、そこのお二人さん?」
男は静かに怒りを見せ、不気味に笑った。
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みなさんが少しでも面白いと思えるように頑張ります。
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