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31話 みんなのことが大好きな見守り役

「うわぁぁーーー!! 一年振りの再会なのにぃぃぃぃい!! ひどいよぉぉーおぉぉーー!!」

「だからって、結婚するか」


 さっきまでの妖艶な雰囲気は何処へやら、軟田さんは婚姻届を床に叩きつけ子供のように泣き喚き横になってジタバタする。それに対し無寺さんは冷たい声で鋭いツッコミを入れる。

 

・・・・・・・いや、どゆこと?


 私は状況が理解出来ないでいた。


「あー、すまん新渚、説明するよ」


 私の心情を察したのか、瞬は少し苦笑いをし語り出す。


「軟田さんは無寺さんのことが好きなんだ」

「うん」

「大好きなんだ」

「うん」

「大大大大大大大大大大大大大大大大好きなんだ」

「うん、わかったから」

「大大大大・・・」

「もういいから」

「すんません」

 

 私が少し圧を掛けて言うと瞬は素直に謝る。


「まぁ、ようは軟田さんはめっちゃくちゃ無寺さんのことが好きなんだ」

「うん、それはもう十二分にわかった」

「だから、由安にいた頃、俺が入団して二人に出会った頃には毎日のように告白してたんだ」

「ま、毎日」

「最低でも一日に二、三回。一番多い時は12回告ってた」

「12!!」


 二時間に一回、どんだけ無寺さんと結婚したいのよと私が驚愕していると、軟田さんは泣きながらも立ち上がり私の足に抱きつく。


「うぇー、新渚ちゃん〜〜、振られちゃったよおぉぉぉ〜〜〜〜」

「そ、そうですね」

「ひどいと思わない!」

「え、えっと・・・」


 めんどくせぇ〜〜、この人クソめんどくせぇー。

 軟田さんのだら絡みに私は明後日の方を向き苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「おい、桜、幸田さんにだる絡みするじゃない」


 その様子を見ていた無寺さんは軟田さんの服の襟を片手で掴んで持ち上げ、私からひっぺがす。


「だったら、結婚してよぉぉぉぉーーー、そしたら絡まないからさぁぁあぁーーー!!」


 しかし、軟田さん泣きながらそのまま体を捻り無寺さんに抱きつき、顔をうずめる

 何か、コアラみたい。


「しねぇよ!!」

「し〜〜〜〜て〜〜〜〜よぉ〜〜〜!!」

「しないて、言ってんだろうが!!」

 

 無寺さんは軟田さんをひっぺがそうと軟田さんの肩を掴んで離そうとするが、強く抱きついていて中々離れない。

 無寺さんはさっきより強く掴み引き離そうとする。


「ぜぇ〜〜〜〜ったいに結婚するぅぅぅ!!」


 離れかけた、その時、軟田さんの両腕がどろどろとした桜色のスライムに変化する。


「・・・え!!!?」


 これが、軟田さんの異能力!? 一瞬そんなことを考えていると軟田さんはスライムに変化した両腕を網状に伸ばし、無寺さんの体に絡みつく。

 

「あ!! この野郎!!」


 無寺さんはスライムを引き離そうと、両手を突っ込むが、スライムはべちょべちょしており余計に絡み付いてしまう。

 

「クソ!!」

「ふふふ、今日は水をたくさん飲んだからね、いつもよりべちょべちょしてるよ」


 無寺さんがスライムに苦戦していると、軟田さんは勝ち誇った表情を浮かべる。

 この人さっきまで子供みたいに泣き喚いていたのに。私は思わず少し呆れてしまう。

 

「さぁ、解放してほしかったら、婚姻届にサインを!!」

「するか、ボケ!!!」


 無寺さんが声を荒げると、ため息を吐き、ピタリと動かなくなる。


「え? 何で急に? は・・・!! まさか、ずっとこのままでいたい、てこと!! や〜ん、やっぱり、私と結婚した・・・」

「ちげーよ、馬鹿」


 軟田さんは頬を赤らめていると、無寺さんは乱暴な言葉を吐き捨て、その場で両腕をピンっと伸ばし独楽(こま)のようにぐるぐるっとを回り始める。

 

「あ、ちょっ・・・!!! あ!! 痛ったぁぁ!!」


 直後、軟田さんは顔を青ざめ制止の言葉を発そうとするが、回転は加速してゆき、軟田さんのスライムは飛び散り、軟田さんは落とされその場で尻餅をつく。

 

「いててて、もう!! 智和ひどいよ!!」

「お前が離れないから、強行手段をとっただけだ」


 姿勢を正しつつ言う無寺さんの容赦ない言葉に、軟田さんは頬を膨らませ唇を尖らせ、顔をプイッとそっぽを向く。すると飛び散ったスライムや無寺さんに引っ付いているスライムが宙を舞い、軟田さんの両腕に引っ付き、元の人間の腕に戻る。


「え、えっと、軟田さんの異能力て・・」

 

 私は軟田さんの異能力が気になり、少し緊張しつつも直接問う。


「あ、私の異能力、私の異能力は脳と心臓以外をスライムにできてね、自由に動かすことができるのよ」


 そう言って軟田さんは立ち上がり、私に見せるように右の手のひらを上げ、右手をドロッとした桜色のスライムに変え、スライムの形をハートマークに変え、星、イルカ、蜘蛛の巣、三日月、王冠、とスライムの形状を変化し続ける。


「こんな風に自由自在に変える事ができるんだぁ~、水分をたくさん摂取した時はドロドロしてて、水分をあんまり摂取しなかった時はちょっと固くなって、ゴムぐらいの固さになる」

「へぇ~」


 私はじっとスライムに変化した右手を好奇な目で見る。


「・・・触ってみる?」


 そんな私の視線に気付いたからか、軟田さんは少し微笑み右手を私に向ける。


「え、あ、じゃあ、失礼します」


 私は一瞬思わぬ提案に困惑するが、軟田さんの様子を見て嫌じゃないとわかり、私は恐る恐るスライムに変化した軟田さんの右手を左手で触る。


「あ、」


 スライムは温かく、人の温もりを感じた。百均などで売っている市販のスライムよりも柔らかく、スライムというよりも中華あんかけのようで触り心地はとても良かった。

 

「なんか、すごく、柔らかいですね」


 私は淡白な感想を述べる。


「ふふ、私のスライムは最高級でね、存分に堪能しなさい」


 最高級のスライムって、何? と思っていると誰かがドアを荒々しく開く。足音が全くなかったので私は少し驚きドアの方を向く。開いた主は汗をかき、息を少し荒くしたお兄さんだった。


「はぁ、はぁ、ただいま」


 お兄さんはアタッシュケースを大事そうに抱えていた。


「おかえり、義兄さん、少し遅かったね、難敵だったの?」

「いや、敵はそこそこできるやつだった、けど、苦戦はしなかった。けど、撲天にアタッシュケース置き忘れて、急いで取りに行って、帰って来た」


 お兄さんは息を整え、瞬の質問に答える。


「撲天、て、昼飯もう食べたの?」

「あぁ、お前たちはまだなの・・・・・か・・・」


 お兄さんは瞬と話していると、軟田さんに気付き、固まるが、少し経つと少し口角を上げ軟田さんに近寄る。私はお兄さんが一歩動かした瞬間、一歩下がり、邪魔にならないようにし軟田さんの様子を伺う。軟田さんは少し驚いた表情を浮かべ慌てて右手を元に戻す。


「?」


 私は少し不思議に思った。私と瞬が来た時は喜びの表情、無寺さんが来た時は真面目な表情をしていた軟田さんが驚き、予想に反した表情に私は違和感を覚えざるを得なかった。


「よう、桜、1年振りだな、元気だったか、というか医田さんに連絡するくらいなら俺にしろよな」


 お兄さんはどうやら軟田さんが来るのがわかっていたようでいつもの雰囲気であいさつをする。そして、軟田さんのあいさつに対しての返事は、


「・・・・・あんた、本当に、団長?」


 お兄さんに疑いの眼差しを向け、震え声でそう言った。


「・・・・ま、そうだよな」

「???」


 しかし、お兄さんは静かに頷き、小さく呟いた。私は予想に反した言葉にまたは疑問で頭がいっぱいになった。そう考えているとお兄さんは足音を立てず静かにソファーの左側に座る。


「で、何か用事があって来たんだろ、何の用だ?」


 お兄さんは横目で軟田さんを見つめ静かに問う。


「えっと、そうね・・・・わかったわ、団長」

「その呼び方はやめろ、名前で呼べ、あと、いつまでも突っ立ってないで座れ」


 軟田さんは少し動揺しつつもお兄さんの目をしばらく見て、落ち着いた雰囲気で返事をし反対側のソファーに座る。


「三人も座れ」

「智和はこっちね」


 お兄さんは視線をこちらに向け、自身が座っているソファーの空いたスペースを軽く数回叩きこちらに座るように促す。軟田さんはそれに便乗し無寺さんが自身の隣に座るようにソファーの空いたスペースを強く何度も叩き、こちらに座るように強要する。

 無寺さんは「はぁー」とため息を吐きながら渋渋軟田さんの隣に座る。


「・・・・!!! ふふ」


 無寺さんが隣に座ると軟田さんはパァァっと笑みを浮かべ無寺さんに寄り掛かる。それに対し、無寺さんはすっごく嫌そうな顔をしていた。


「さ、二人も」


 そんなやり取りを見守った後、お兄さんは先ほどよりほんの少しソファーを強く叩き、こちらに座るよう催促する。


「うん」


 瞬は返事をし、私が座れるようにスペースを空けて座る。私もそれに続き瞬の隣に座る。すると、瞬は少し驚き頬を少し赤く染める。


「え、えっと、新渚さん?」

「え、何?」

「何か近くありませんか?」

「え?」


 瞬にそう言われ私は瞬の方を向く。瞬との距離は皮一枚の距離であり、瞬も私の方を向いており私と瞬は見つめ合っていた。まるで、キスをする1秒前。そんな光景にも見える。


「あ!? えっと、ごめん!!!」

 

 私は顔が熱くなり慌てて顔を180度曲げ、瞬から少し離れる。瞬も少し視線をそらし、顔を更に赤らめる。


「・・・いや、気にしなくていいぞ」

「う、うん」


 数秒経つと瞬は少し震えた優しい声で言う。私は少し気まずくなり瞬から視線をずらし縮こまって座る。


「ふふ」


 私達の一部始終を見ていた軟田さんは微笑みこちらを温かく見守っていた。無寺さんは先程より和らいだ表情でこちらを見ていた。お兄さんは・・・・めっちゃくちゃニコニコ笑っていた。


「ん、んんん、で、桜、何の用だ?」


 お兄さんは気持ちを切り替えるためなのか咳ばらいをし、静かな雰囲気を纏い問う。


「・・・うん、私がここに来た理由はね」


 軟田さんは自信に満ちた笑み浮かべお兄さんの目を見ると、自身の右手をでっかい胸に当てる。


「ここで働くためよ」


 軟田さんは少し偉そうに言う。


「!!」


 私は少し驚くが、さっきまでの言動や行動、性格を考えると納得がいく行動だと私は思った。他の三人も驚いた様子じゃなかった。

 無寺さんはめっっっっっっっっっっちゃくちゃ嫌そうな顔をしていた。まるで犬のフンを踏んだ時の様な顔をしていた。

 瞬はですよねぇーと今まで見たことがない穏やかな表情を浮かべていた。すべて諦めたような、仏のような顔していた。

 お兄さんは苦い顔をし、ため息を吐き天井を見つめる。


「・・・・理由を聞こうか」


 お兄さんは軟田さんの方を向き質問を続ける。軟田さんはそれを聞き淡々と話す。


「二週間ぐらい前かな、あるニュース目に入ったのよ、斬島カンパニー汚職発覚、倒産したニュースが」

「・・・・」

「斬島カンパニーは国内トップの会社、政府にとっても大事な会社だから、政府が率先して汚職をもみ消して来た、情報もれるはずもない、知っているのは斬島カンパニーの幹部と政府、そして、汚職をもみ消した張本人である私達だけ」

「・・・・それで、俺達だと」

「えぇ、そうよ」


 話し終えると軟田さんは自信に満ちた表情が一変、真面目な面持ちになりお兄さんの目をじっと見つめる。


「・・・ずっと、あんた達を探していたのよ」

「・・・・・・すまん」


 軟田さんの真剣な言葉にお兄さんは少し黙り小さく謝罪の言葉を述べる。


「ごめん、話をすり替えたわね」


 軟田さんは微笑み、元の雰囲気に戻る。


「さっきも言ったけど、私はあんた達を探していたの、やっぱり、一緒にいたいからね」

「「「・・・・・・」」」


 軟田さんは明るい声で言うと三人は黙るが、私には少し嬉しそう見えた。瞬は少し笑みを浮かべて分かりやすかった。

 お兄さんと無寺さんはあんまり変わってないように見えるが、お兄さんは少し、ほんの少しだけ口角が上がっており嬉しいのがわかった。

 無寺さんは表情こそ変わっていないものの、少し体が動いた。体勢に違和感があったから動いたようにも見えるが、タイミングが良すぎる。

 軟田さんが三人のことが大好きなことはすぐにわかったが、よく見ると三人も軟田さんのことが大好きなことがすごくわかる。

 あ、もちろん、大好きは恋愛的な意味ではない。特に瞬は、絶対に。


「そうか、ありがとな、俺達を思ってくれて」


 お兄さんは静かな笑みを浮かべ感謝の言葉を述べる。軟田さんはその言葉を聞いて少し照れくさそうに自身の髪の毛を触る。


「で、何で俺達の居場所がわかった?」


 お兄さんはさっきまで静かな雰囲気からいつものおちゃらけた雰囲気に戻し、質問を再開する。


「ニュースを調べていくなかで斬島カンパニーの社長令嬢に殺人容疑が掛けれているニュースを見てね、もしかしたら、て思って令嬢がいた学校のデータにハッキングしたら瞬の名前があったからね。近くに医田さんのお店があるからそこにいるのかな、て、調べてみたら便利屋をやっているとはね」

「なるほど、でも、その割には来るのが遅くねぇか」


 確かに話を聞いてみると二週間もかかるとは思えない。本人の性格を考えて遅くても4日後には訪れる思う。何ならもっと早く来そうだが。


「あぁ、それ何だけど、ニュースを知ったその日に急遽依頼が入ってね」

「依頼?」

「依頼はあんた達を殺害」

「「「「え?」」」」

「依頼主は斬島乱介(きりしまらんすけ)、斬島カンパニーの社長で、斬島京子の父親よ」

「えぇぇ!!」


 あまりにも突然の情報に私は驚きを隠せず、叫んでしまった。

読んでいただきありがとうございます。


評価は自分がこれくらいかなと思った評価でいいので、下にある⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎を押してくると嬉しいです


面白い、続きが気になる人はブックマークをしてくれると嬉しいです。


誤字があったら報告してくれると助かります。


良い点でも悪い点でもいいので感想をくれると、助かります。


みなさんが少しでも面白いと思えるように頑張ります。


これからも話を書こうと思っているのでよろしくお願いします。

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