28話 トラウマ
オレ、下村鬼太郎は11年前まで、由安の来未団に所属していた。異能力が戦闘向きだったため、オレはメキメキと力を付けて行き同期で一番強くなった。
当時のオレは自分が強いと思っていて、オレが象で他の奴らは蟻だと思っていた。いつかは来未団の幹部になって、人を殺しまくって、お金を沢山稼いで、沢山の美女を囲って生きて行く、そう信じて疑わなかった。
あの日までは。
11年前、由安の総帥、時衛空時の三男坊が来未団に入団した。その子はどうやら落ちこぼれらしく、異能力が全くと言っていいほど戦闘に向いておらず、上の双子の兄が異能力が戦闘に向きすぎているのもあり、三男坊は『時衛家の失敗作』と言われるほどだった。
当時、オレを含めた大多数の団員は三男坊のコネ入団を不満に思っていた。
オレ達は死に物狂いで訓練し強くなり入団したんだ。強いならまだしも、弱者を入団させるのは、正直、すげぇー嫌だった。
だけど、入団した翌日、三男坊は一つの任務を一人で成功させた。その任務は『蛍田組の組長及び幹部の暗殺』だった。
蛍田組は日本最強のヤクザであり、武力だけなら、来未団とも渡り合えると言えるほどの精鋭揃いの超武闘派組織だった。
オレはこの話を聞いて、信じられなかった。そんなの、一人で来未団を壊滅させたようなものだ、14歳のガキが、雑魚が出来るわけがない。
もちろんオレ以外の大多数の団員もそう思い、不満はさらに大きくなりそれに呼応するように組織へのも不満も大きくなった。
それを上も感じたのだろう。団は三男坊と三男坊に不満を持った奴で模擬戦をすることにした。このままでは、不満が高まり組織の力が弱まってしまう事を考えてのことだろう。
全員それを聞いて、歓喜を上げた。生意気なクソガキをボコボコにできる、そう思ってなのか、ほとんどの団員が志願した。
もちろん、オレもだ。
しかし、オレは参加出来なかった。参加したのは当時の来未団の隊長、幹部3人だった。どうやら強いやつから優先的に選んでこうなったらしい。
オレは少し悔しかったが、三男坊がボコれる姿が見れると思うと、悔しさが何処かに消えていった。
そして、三男坊が入団してから一週間後、模擬戦の日がやってきた、オレは観客席で同期で仲が良かった二人と一緒に見ていた。着いてからすぐに始まり三男坊VS隊長3人の模擬戦が始まった。
結果は三男坊の圧勝だった、完膚なきまでに。
三男坊は無傷、隊長3人は意識不明の重体。
内容は酷いものだった。まず、1人の隊長が襲いかかるが、三男坊は襲いかかる隊長の足をハンドガンで正確に打ち抜き倒れる。三男坊は撃った瞬間、残りの2人の隊長に突っ込んでいった。2人は即座に戦闘態勢に入るが、三男坊は迅速に的確に急所をナイフで斬り2人を倒す。
その直後、倒れていた1人が立ち上がり自身の異能力で電の槍で突こうとしたが、三男坊はそれを躱しカウンターで斬撃を喰らわし屠り、
たった1分で終わった。
試合が終わった直後、観客席は静かだった。始まる直前までは全員大騒ぎしていたのに。だけど、数十秒経つと静寂は騒ぎに変わっていった。
それはそうだ隊長3人を1人で倒したのだ。戦力が急激に高くなったのだから。
「おい、これ、やばいじゃねぇか」
「上の過時様と在定様を超えてるじゃ」
「この強さなら歴代最強と言われた100年前の由安に匹敵するじゃ」
「とにかく、凄え!! これでうちも敵なしだな!!」
等と思っている奴が多かった。
けど・・・・オレはそうとは思わなかった。
あの強さを見たら、自分の強さを疑わざる負えなかった。いつもオレ達をボコボコにする隊長が簡単にやられた。
ガキに、完敗した。
そんな奴が入団したらオレはいらなくなるじゃないのか。
いや、それどころか、舐めた態度をとったオレは酷い目に遭うじゃないか。会ったこともないのにそんなことばかり思ってしまった。
他の奴らも同じように思っているのか隣にいた同期2人、若い奴らの殆どが不安そうな表情を浮かべていた。
そんな希望と不安が混じり合った雰囲気の中、三男坊が観客席にいる団員を見つめる。
その眼は夜闇のように輝きが全く見えない夜空色で絶対零度のように見られているだけなのにこっちが凍りそうな眼だった。
それを見たオレは恐怖し、三男坊、時衛来叶の名前とその目がオレの心、魂に刻み込まれ、オレの一生、いや、死んでも忘れないトラウマになった。
そして、オレは自分が弱者だとわかった。
それから1週間後、オレはあの時隣にいた同期2人と一緒に由安を勝手に抜けた。だけど、由安を勝手に抜けることは死と同義で、当時、オレよりも強い中堅の人に襲れ、何とか殺せたがオレと一緒に抜けた2人は死んだ。
でも、オレは、悲しむことなく、抜けれたことに安心した。
あの化け物と一緒にいたくないから。
それからオレは殺し屋になり、各地で依頼をこなし、フリーにしてはそこそこ有名になり、そこそこ稼いだ、美女は囲えないが。
そして今、オレは化け物と殺し合いするため、時衛来叶、いや、今は空原来叶だっけ、の目の前に来た。
トラウマを乗り越えるために。
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