25話 ババアは大切に
「答えろ!! あの薬をどこで入手した!!」
瞬は銃口を側頭部に押し付ける力をさらに強めながら叫び、憤怒の表情を纏わせる。
「ひぃぃ、ごめんなさい、ごめんなさいぃぃ!!」
町田は怯え、さきほどまで見せていた醜悪な笑みから一変、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で瞬に向かって謝り、薬のことを全く言わない。
「ま、待って瞬、どうゆうことなの、何でそんなに怒っているの落ち着いて!」
瞬のあまりの豹変ぶりに私は愕然としていたが、少し時間が経ったことで冷静になった、このままではわけがわからないと思い、私は瞬の肩に右手を置き慌てながら宥める。
すると私の言葉に少し冷静になってくれたのか少し表情が和らぎ銃を降ろし、町田の胸ぐらを掴んでいた手を離す。
「・・・・・体を拭いてから話そうか」
瞬がそう言葉をこぼし、私は思わずほっと胸を撫で下ろす。町田もぐっちゃぐっちゃの顔で安堵のため息を吐く。しかし、瞬は「ただし!!」と叫び町田を睨みつける。
「こいつは拘束しておく」
瞬は銃を懐にしまうと胸ポケットからとても細くぐるぐる巻きにされているワイヤーを取り出す。それを見た町田はまた情けない悲鳴を上げ少し後退る。その後、町田は瞬によってワイヤーで両手両足縛り、目隠し代わりに目をワイヤーで縛り視界を塞ぎ、そのまま床に転がってもらった。
私と瞬は持ってきた2枚のバスタオルをそれぞれ使い、体を拭き(瞬は町田を連れて別の部屋で拭いた)私はさっきまで縛り付けらていた椅子に、瞬はベッドに腰を下ろす。
「じゃあ、改めて聞くけど、この薬は一体なんなの?」
私は蓋を閉めた白い長方形の箱を瞬に手渡しながら問い掛ける。
「・・・・・・・・新渚は、何故人間に異能力が発現したか、知ってるか」
瞬は箱を受け取り、じ〜〜っと箱を見つめ黙りながら、重々しい雰囲気を纏い私に言う。
「え、急に何? 妖美の光のこと?」
「その妖美の光が人間に何をもたらしたか、説明できるか」
「いや、別にいいんだけど、瞬はわかるの?」
「うぅん、確かに俺の知力を知っているお前なら疑ってもしょうがないか」
「なんか、ごめん」
複雑な表情を浮かべながら言葉を発する瞬に対し、私は謝る。
「えっと、妖美の光が人間に何をもたらしたかって話だよね、色々な説があるけど最も有力なのが人間の進化、かな」
私は人差し指の第二関節と親指の爪の先を顎に当て、記憶を掘り起こして答えた。
200年前、世界は妖しい光に包み込まれた。その光は数十秒ですぐに消えたが、特に人の体に害を与えなかった、光が人類に与えた物は異能力という力だった。ある者は口から火を吹く力、ある者は獣の力、ある者は物を自由自在に操る力、ある者は好きな場所に移動する力。光は一人一人に異能力を与えた。
昔の教科書では妖美の光のことをまるで神が与えた恵みのように書いていたらしいが、今では研究が進み妖美の光には人を進化させる効果があると判明した。
「うん、そうだな、異能力は一人一人の進化の形とされている、さて、問題です。生物が進化するわけは何でしょうか」
「え、えっと、環境に適応する為」
「ピンポーン、正解」
「ちょっ、ちょっと! 私はその薬について聞いているの、話を脱線させないで!!」
瞬の突然の問題に私は戸惑いながら答え、ふざけながながら両腕でまるポーズを瞬に私は腹をたて怒気がこもった言葉を瞬にぶつける。
「安心しろ、この話は今から話すことについて知る必要な知識だ」
「そ、そうなの、じゃあその薬は異能力に関係してるの?」
「あぁ、さっきも言ったが、異能力は一人一人の進化の形だ、でも、異能力があるからって進化が終わるわけじゃない、だろ」
「それって・・・・!!」
私は瞬の答えが想像し、驚きのあまり立ち上がってしまう。そんな、まさか!!
「そう、そう異能力は進化して新たな能力を得る」
瞬は暗い表情のまま私の眼を少し陰りがある目でじっと見つめ、覇気が全くこもってない声で言う。
「ちょっ、ちょっと待って、そんな話聞いたことないよ、異能力は生まれた時に全て決まるはずよ!」
異能力は6歳頃に使えるようになり、ほとんど異能力は親の遺伝で父の異能力、母の異能力、父と母の異能力が混ざったような異能力が基本だ、そして、政府の研究では異能力は一切変化しないとされている。小学生の時に教えられた、1192年に鎌倉幕府が創設されたような知ってて当たり前の知識だ、私は事実に対し声を荒げる。
「政府があえて誤った研究内容を発表したんだ、異能力の進化なんて、世界一のビビり国家日本がわざわざ教えるわけがない」
「で、でも、隠す意味なんて、そもそも、もし誰かの異能力が進化したらどうするの」
「・・・異能力を進化させる確率を高める訓練が由安にあったが、それをして、進化するのは1000万人に1人、訓練なしの場合は10億人に一人だ、日本人口は103545243人だ、進化する確率は低い」
「じゃあ、隠す意味は?」
「政府がなるべく国民に力をつけて、反乱を防ぐなどもあるが、1番は間違いなくこれのせいだ」
瞬は白い長方形の箱から注射器を取り出し、私に見せながら言う。
「この薬の名前はSNK、異能力を強制的に進化させる薬だ」
「強制的に」
私は椅子に座り落ち着いて瞬の話を聞く。
「SNKはエボリューションストーンと呼ばれる石を粉になるまで粉砕した物を原材料として作った薬だ、この薬を一定量接種すると、異能力は進化する、だが欠点がある」
「欠点?」
私は首をかしげなから吸い付くように瞬の目を見て思わず言葉が出る。
「人によって進化する為の接種量が違うんだ、ある人は一回注射すれば進化する人もいれば、2本、3本、10本以上必要な人もいる、そして、もし0.0001gでも多く接種すれば一時的に進化するが、異能力が過剰に進化により、数週間後、異能力が使えなくなる」
「!! そんなに精密にやらないといけないの?」
「あぁ、過剰に進化すると肉体が壊れる」
「じゃあ、何でわざわざこんな物を使う人がいるねの? 異能力を失うが大きすぎる」
私がそう指摘すると瞬は注射器の針を下にして持ち私の目線に入るように優しく揺らす。
「接種量は人によって変わる言ったが、82.375%の人は21g、注射一回するだけで異能力を失わずに進化することができる」
「ほとんどの人は注射一回すれば、異能力を失わずに進化できるってこと?」
私がそう答えると瞬は「そうだ」と言いながら静かに数回頷き、注射器を白い長方形の箱にしまい懐にしまう。
なるほど、それならやる人の気持ちも少しはわかる、ほとんどの人が大丈夫なら自分も大丈夫だろうみたいな感じなんだと思う、でも、そんな物を公表すれば、手を出す人が増え異能力がない人が増えて間違いなく国力が低下する。
「そして、この薬の欠点はもう一つある、バカみたいに高いってことだ」
「高いって、金額のこと?」
「あぁ、21gで、安くて1000万円だ」
「いっ!! 1000万!!」
家建てられるじゃん!! 私は驚き、また立ち上がる、こいつ、そんな超高価な物だと知ってよく持ってたな。
「な、何でそんなに高価なの?」
「今、国内で確認されているエボリューションストーンは99.8%は政府が厳重に管理している、残りの0.2%、12.327kgはSNKに変えられ587回分の薬になり、闇市場や裏オークションで取引されている」
瞬の説明を聞いて私は頷き納得した、なるほど、確かに相応の値段と言える・・・・ん? ちょっとまてよ。
「ちょっとまって、何で町田がそんなヤバくて超がつくほどの高価な薬を持っているの?」
町田はただの高校生だ、1000万なんて額を用意できるわけがない、私はそこに疑問を抱き瞬に問いかける。
「そう、そこが問題なんだ」
瞬は少し怒気が籠った言葉を発すると町田を睨みつけ、町田の前に立って両膝を折り、胸ぐらを掴み顔を目と鼻の距離まで町田の顔に近づける。
「町田ぁぁあ、どうやって入手した、いくらで買ったんだ、これは!」
「ひぃぃい!!」
瞬は威圧をかけて言うと、町田はまた泣き始め、がたがたと震え怯えながらも答える。
「じゅ、10万円です!」
「「!!!?!!?」」
町田の答えにさっきまで聞いていた値段とは違い過ぎて私は驚き固まる。
「嘘つけ!! そんな金で取引されるわけねぇーだろうが!!!」
瞬も驚き固まるがすぐにまた町田を睨みつけながら眉間に皺を寄せる。
「ほ、本当でしゅ!! いつも麻薬や媚薬を買っている密売人に『面白い薬があるから買わないか』っと言われ、異能力の進化について聞いて買いました!!!」
町田は震えビビり散らかしながらも震えた声で答える。こいつ、麻薬もやってたんだ、しかも媚薬ってどこまでクズなんだこいつは、でも。
「瞬」
「あぁ、嘘はついてなさそうだ」
私が声を掛ける瞬は威圧を解きながら私に言う。ここまでの怯えているんだ、嘘をついているとは思えない。
「じゃあ質問を変える、さっき俺を襲ったババアはお前の仲間か?」
「!!!!!」
瞬の言葉に私は自身の耳を疑った、え、は、え、ババアに襲われた? ・・・・・・
「いや、どゆこと!!!!!!!!??」
私は驚きのあまり思わず瞬の肩に軽くチョップしツッコミをかましてしまう。
「し、知らないです」
瞬の意味がわからない発言を聞いても、町田は怯えた表情で体を丸め震えながら言う。
「そうか」
「いや、いや、『そうか』っじゃないわよ!!! え、どういうこと、ここに来る途中でババアに襲われたってこと?」
「え、言ってなかったけ」
「いや、まるで今回の授業は移動教室だと伝え忘れた先生みたいな反応で済まされることじゃないわよ!! え、本当にどゆこと?」
私がそうツッコムと瞬はまぁまぁっと言いながら私に手のひらを見せ、「ドウ、ドウ、」とまるで動物を落ち着かせる時のようなポーズをとる。
「私は動物じゃないわ!!」
「まぁ、落ち着け、今から話すから、俺あれはお前ら去った後会長に数分間土下座した後、走って発信機を辿ってた時のこと」
「あなた、やばいこと言ってる自覚、ある?」
その時の俺はひたすらがむしゃらに人がいない住宅が並んでいる道を走っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!! よかった、新渚がスイッチを持っていてくれて、これで場所わかる」
位置はすでにスマホで確認済み後少しで着く、そう思った時、刺すような視線を感じた。
「!!!」
殺気か!! 俺はその場に止まると、やはりと言うべきが二つ銃弾が俺の横からスレスレで飛んでくる。危なかった、まったくといっていいほど銃音がなかった、止まっていなかったら死んでいた、地下の戦闘がなかったら気づかなかったかもしれん。
俺は即座に銃弾が飛んできた方向を向くとそこには怒りの形相のシワシワババアが銃を構えていた。
「おい、おい、婆さんボケたのか、そんな物騒な物なんかもってよぉぉぉ」
俺は嘲笑うかのようにババアを煽る、まぁ、正直煽ってる暇はないけど。するとババアは俺の目を見るなり3発撃つ。
「このクソガキガァァァ!!」
そう叫ぶババアだが俺は飛んでくる銃弾をするりと全て避ける。
「こらこら、婆さん、そんな物騒な物全然似合ってないぜ、震えていたから簡単に避けられたぞ」
俺はふざけたポーズをとり舌をだして笑う、そうすると単調なババアは銃を捨て両腕をでかい出刃包丁に変える。
「うぉお!! 玉の仇ぃぃぃ!!」
ババアはそう叫びながらこちらに突っ込んでくる。俺は姿勢を低くしババアを迎え撃つ構えをとる。
「てりゃぁあ!!」
ババアは俺との距離が1mぐらいまでになるとジャンプし出刃包丁になっている右手を振り上げ勢いをころさないまま斬り掛かる、俺は好機だと思い、ババアが振り下ろされるより早く猪のようにババアの腹にタックルする。
「がはぁ!!」
ババアは骨がヒビが入った時に鳴る鈍い音をだしながら吹き飛び大の字に倒れる。俺はすかさずババアに馬乗りし、ババアの首を両手で掴み締める。
「・・・・あ、あ・・かぁは・・・」
「悪いな婆さん、さすがにここで射殺するのはまずいからな、絞殺するわ」
俺はそう言ってさらに締める力を強めるとババアはすぐに気絶し両腕は元に戻り、痙攣を起こしながら死んだ。
「その後、俺はすぐに分田さんを呼んで死体を処理してもらって、ここに来た」
「なるほど、全くわからん」
瞬の説明を聞いた私だが全くわからん。いや、わかりたくない!!
「だから、もしかしたら、町田に雇われた殺し屋だと思ったんだが、違うのか、何か俺を仇とか言ってたし、今回とは別件なのか」
瞬がぶつぶつそう言っていると瞬の懐からスマホの着信が鳴る。
「うん?」
瞬は懐からスマホを取り出す、どんだけ懐に道具いれてんだよ!!っと私が思っていると、スマホを起動させ、少しいじると「あぁー」と言いながら納得した表情を見せ私にスマホの画面を見せる。
急になにっと思いながらも私はスマホの画面を見る。有事のグールラインのトーク画面でそこには兄というお兄さんと思われるユーザーが襲われたと送っていた、その0.5秒後、無寺さんというユーザーが俺もと返事をする。
「うん、意味わからん」
私はあまりにも意味がわからなくてそう思わず言ってしまった。
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