4 王妃からの信頼
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先日エルーシャに届いた手紙は、王妃からのものだった。
返書した翌日、エルーシャは子どもの世話が得意な12歳の侍女を伴い、離宮を訪問する。
案内された中庭にはお茶の用意がされていた。
静養中とされる王妃は艶やかな銀髪をひとつにまとめ、ゆったりとしたドレスで迎えてくれる。
そして「ふたりで気兼ねなく楽しみましょう」とメイドや侍女をさげた。
ひだまりで過ごすティータイムは優雅なひとときにしか見えない。
エルーシャがロイエを追い返した、あの顛末を説明する会話を聞かなければだが。
「ロイエがそこまでアホ……いえ、愚かだったとは。私の許可を装った偽の面会状を作るなんて」
王妃は公式の場では決してしない多大なため息をつき、心から呆れたように額を手に当てた。
「エルーシャ、あなたが上手く切り抜けてくれたこと、そして速やかに申し出てくれたことに感謝します。ロイエは無能……いえ、不備が多かったため偽証未遂となりましたが、その行為は王家としても看過できません」
王妃はロイエに厳重注意を告げること、そして金銭的な処罰や、エルーシャの住むジュファティー領への立ち入りを禁じると約束した。
そして『見張りの豪鬼』と恐れられる屈強なダンディを監視にあてるようで、ひとまずは安心する。
「アライダ王妃殿下、ありがとうございます」
「当然よ。エルーシャのためだもの」
王妃が王子を身ごもったときのこと。
彼女は重度の魔病を起こして命を落としかけたが、エルーシャの治癒により一命をとりとめた。
しかし悪い噂は無責任に広まる。
王妃は魔病の後遺症に悩まされながら、悪質な誹謗中傷を受けた。
「心身が不安定だった私を、エルーシャは何度も励ましてくれたわね。『王妃殿下とお腹の御子は魔力量が多くて魔力が絡まりやすいだけですから、心配はいりません』って。私が孤独にのみ込まれそうになるたび、まだ見たことのない息子の存在を思いだせたのはあなたのおかげよ」
「こちらこそ光栄なひとときでした。でもつらいときは王妃殿下の素敵なご主人様に支えてもらうこと、忘れないでくださいね」
(王妃殿下へのわずらわしい誹謗中傷の元は、彼女が知らない内に国王陛下が綺麗に掃除してくれたのよね)
王妃に勧められ、エルーシャは色とりどりの菓子と紅茶を楽しむ。
心をくすぐる甘い香りと上品な味をしばし満喫した。
「それでエルーシャ、頼んでいたものは進んでいる?」
「はい、持参しました」
「もうできたの!? すごいわ、さっそく見せてほし――」
王妃の声に反応するように、猫の鳴き声がした。
見ると花の咲き誇る中庭で、銀色の子猫が蝶とじゃれあっている。
王妃は席を立つと、その子猫を愛おしげに抱き上げた。
子猫は片手に収まりそうなほど小さい。
エルーシャはカップを置くと、子猫を驚かせないように静かに歩み寄った。
「アライダ殿下がお手紙でほのめかしたのは、その子についてですね」
「相変わらず察しがいいのね。見ただけでわかるの?」
「私はそうですね。その子猫の持つ魔力から、制御しきれていない違和感が伝わってきます」
王妃から笑顔が消えた。
「エルーシャ、あなたの『魔力浄化』でこの子を助けてほしいの」
「お任せください」
エルーシャは王妃から子猫を預かる。
それから意識を集中して、乱れた魔力の流れを誘導した。
子猫はエルーシャの腕の中で光を放ちながら、本来の姿を取り戻していく。