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23・おまたせ

 *


 意識を失っているロイエは、あっという間に取り押さえられた。

 その無様な姿を、彼と似た容姿をした青年が、眉ひとつ動かさずに見下ろしている。


(エルーシャがこだわっていたのは、ノアルトの奪われていた名誉か)


 国王はエルーシャに婚約者を替える提案をしたとき、彼女が拒否した理由に思い当たった。


(どうやらエルーシャは最良の形で婚約相手を取り戻したようだ。それならこちらも気兼ねせず、彼らにとって邪魔でしかないロイエの処遇を決めることができるな。まぁ、それは後ほどの楽しみにして)


「見事な一撃だったよ」


 国王はほがらかな笑顔でノアルトに歩み寄る。

 そして確信に満ちた様子でたずねた。


「君は6年前に亡くなったとされるロイエの双子の兄、ノアルト・クリスハイルで間違いないね?」


 ノアルトは表情を動かさず、騎士の最敬礼をする。


「陛下のおっしゃる通り、私はノアルト・クリスハイルです。双子でも見間違えないくらい、ロイエの顔の雰囲気は変えてあります」


「あれならしばらくは、君にすり替わらせるのも無理だろう。しかしそれ以上は加工しないでくれ。資源は大切に使わないとね」


 国王はエルーシャもそばへ呼んだ。


「明らかになったことが事実ならば、ロイエは王国に対して諸々の損害を与えようとしていたのだろう。これから詳細を調べるが、エルーシャとロイエの婚約は無効となる見通しだ。その偽りに気づかなかったのは私の責任でもある」


 国王はエルーシャとノアルトに対し、深く謝罪した。


「改めて後日、ふたりの婚約に関しての誓約書を取りまとめよう」


 国王の宣言を聞き、展覧会場内は盛大な拍手で満ちあふれる。

 偽りに引き裂かれていたふたりが掴み取った結末を、誰もが祝福していた。




 *

 

 意識を失ったロイエは捕縛されたまま、ホールから連行されていく。

 それを見届けた国王は、あいかわらずの笑顔で去った。


 エルーシャは隣に立つ背の高い騎士を、まだ信じられないような気持ちで見上げる。

 休憩室でティアナがノアルトの姿に戻ってから、まともに話す時間もなかった。


 ホールから叫び声が聞こえた瞬間、ノアルトは「大丈夫だよ」とやさしく囁き、逃亡しようと向かってくるロイエをあっという間に止めてしまったのだから。


「あの、ティアナ……じゃなくて。えっと……」


「ノアルトだよ。ずっと言えなくてごめん」


「い、いいの! メラニー様が人質になっていたんだもの。それに騎士様とはじめて会ったときから、なにか事情があるのはわかっていたし」


 出会ったときのノアルトは、正体を隠すように甲冑を身に着けていた。

 今も荒魔竜との戦いで傷だらけとなった鎧姿だ。

 しかし荒魔竜のブレスを受けてヘルムが壊れたため、顔はあらわになっている。


 エルーシャははじめて、彼の顔を正面から見上げた。

 ノアルトはロイエと似ても似つかない、まったくの別人に思えた。


 その青髪はロイエよりずっと鮮やかで美しい。

 顔立ちには凛とした爽やかさがあり、すれ違えば誰もが振り返るほどに整っていた。

 なにより穏やかで誠実そうな眼差しから、顔が見えなくても感じていた彼らしいやさしさが伝わってくる。


(そういえば私がティアナを助けたのは、ちょうど荒魔竜が倒された後……ロイエと婚約誓約書を結んだ直後だったわ)


「もしかして騎士様は荒魔竜を倒してから滝に落ちて、私がティアナと会ったあの川辺に流れ着いたの?」


「ああ。俺は荒魔竜からブレスを受けたあと、見た目が変わる程度の魔病を起こしていたらしい」


 しかしそれは乳母の若いころの姿になるだけという、軽い魔病だった。


「よかった……。騎士様の持つ天恵『魔力堅固』の力で、危険な荒魔のブレスから身を守れたのね」


「それだけじゃない。君が守ってくれた」


 ノアルトは自分の胸元に手を置いた。

 そこにはエルーシャがお守りとして渡した、あのアミュレットが輝いている。


「エル、俺を助けてくれてありがとう」


 はじめて見る彼の笑顔に、エルーシャの目の奥が熱くなった。


「わ、私の方こそお礼を言いたいわ。だって騎士様が無事でいてくれただけで、本当に嬉しいから……」


 エルーシャは声をつまらせながらも、少しいたずらっぽい笑みを浮かべる。


「だけど私、あなたをすっかりティアナだと思い込んでいたのよ。美女の演技が上手すぎるんだもの!」


 ノアルトは慌てた様子で視線をそらすと、少しバツの悪そうな顔で呟いた。


「それはできることなら隠しておきたかったんだけど……。でも正直に言うと、ロイエのふりをするほうがずっと難しいんだ」


「確かに、騎士様ってロイエと全然違うわ」


 ノアルトは背けていた顔をエルーシャに向けると、真剣な様子で言う。


「もちろん、俺はあいつみたいなことをエルにしないよ。たとえ演技でも絶対に無理だ」


「そうね。あなたは会ったときからそういう人だったわ」


 ふたりはようやく、視線を交わして微笑みあった。


「エル、おまたせ。これでようやく……ずっと君に伝えられなかったことを話せる」





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