17・追い込まれていく者
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「その商人は嘘をついていません」
現れたティアナの言葉に、ロイエは加勢を得たと確信した。
(そうか、ティアナは俺を助けにきたのか!)
「お前は俺の味方をしてくれるんだな!」
「私は事実を伝えただけです。商人が見た荒魔竜の討伐も魔力の測定も、間違いではありません」
その淡々とした口調にロイエは戸惑う。
(なんだ? いつもの『ロイ様~ぁ!』とは、ずいぶん雰囲気が違うようだが……)
それだけではない。
ティアナは旅装用の外套をはおっていた。
まるで険しい旅から帰ってきたばかりのような、精悍さすら感じられる。
「ティアナ、どうしたんだ? 『ティアナはロイ様と展覧会でお会いしたいのっ! 私たちの忘れられない日になりますから、絶対に絶対に来てくださいね~っ!!』と言ってくれただろう。今までどこにいたんだ?」
「鼻の下を伸ばして展覧会まで来てくださって、ありがとうございます。でも私、嘘はついていません。今日はきっと、私たちにとって忘れられない日になります」
「そ、そうか。これはサプライズというやつだな!?」
(今はエルーシャの機嫌が悪いようだし、ちょうどいい。ここはひとつ嫉妬でもさせて、俺の魔力測定の結果のことは忘れてもらおう)
「ははっ、ティアナはかわいいところがあるな! それで君は、俺とどんな忘れられない日を過ごすつもりなんだ?」
「あなたが荒魔竜を倒していないと、私が証言します」
「ん?」
「あの夜会の日、私が愚かな女を演じてあなたに近づいた理由はそれです。私の目的は、あなたの偽りを暴くことですから」
ロイエは一瞬、耳を疑った。
冷たい手で心臓をわし掴みにされたように息苦しくなる。
「なっ、なんだって……!?」
「そんなに驚くことでもないでしょう? 今まであなたがしてきたことを考えれば」
ティアナは口元を歪めて嘲笑した。
眼差しには隠しきれない憎悪を孕んでいる。
「で、でたらめなことを言っても根拠は……!」
「もちろん私はあの場にいました。私に協力してほしいのは、そのことですよね?」
ティアナの視線の先にはエルーシャがいる。
「ティアナ、ありがとう。私の頼み通りホルストさんとロイエを呼んでくれて」
「遅くなってすみません。でも目的は果たせました」
「ではさっそく、ティアナが第2の証言者になる資格があることを明らかにしましょう」
エルーシャがさりげなく魔力測定石を示す。
ティアナは導かれるように、その澄んだ結晶に触れた。
しかしなにも起こらない。
その異様さに周囲は再び静寂に包まれた。
やがてティアナのそばで文字が紡がれはじめる。
ティアナの荒魔を受けた履歴は、信じ難いほど膨大な量だった。
やがて測定が終わる。
注目が集まるのは、ティアナが最後に荒魔を受けた記録だ。
それは商人と同じく半年ほど前、荒魔竜が討伐された時期と一致している。
会場内ではあちこちから驚きの声があがった。
「この魔力測定の結果だと、あの女性は荒魔竜討伐に参加した騎士だったのかもしれません。その場にいたのは間違いないでしょう」
「ええ。どうやら荒魔竜を討った英雄に関して、第2の証人が現れたようです」
(ティアナが荒魔竜討伐の場にいただって!?)
ロイエは窮地に追い込まれていくのを予感し、明らかに動揺した。
(なぜ!? なぜ今さら、他に証言者が出てくるんだ!?)
魔力測定の文面を前に、ロイエは青ざめている。
しかしそれはエルーシャの予想している結果だった。
「これでティアナは荒魔竜が討伐された場にいたと証明されたわね。知っていることを教えてくれる?」
「その前にお願いしたいことがあります」
そう返事をした人物はティアナではなく、彼女の背後にいた。




