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17・追い込まれていく者

 *


「その商人は嘘をついていません」


 現れたティアナの言葉に、ロイエは加勢を得たと確信した。


(そうか、ティアナは俺を助けにきたのか!)


「お前は俺の味方をしてくれるんだな!」


「私は事実を伝えただけです。商人が見た荒魔竜の討伐も魔力の測定も、間違いではありません」


 その淡々とした口調にロイエは戸惑う。


(なんだ? いつもの『ロイ様~ぁ!』とは、ずいぶん雰囲気が違うようだが……)


 それだけではない。

 ティアナは旅装用の外套をはおっていた。

 まるで険しい旅から帰ってきたばかりのような、精悍さすら感じられる。


「ティアナ、どうしたんだ? 『ティアナはロイ様と展覧会でお会いしたいのっ! 私たちの忘れられない日になりますから、絶対に絶対に来てくださいね~っ!!』と言ってくれただろう。今までどこにいたんだ?」


「鼻の下を伸ばして展覧会まで来てくださって、ありがとうございます。でも私、嘘はついていません。今日はきっと、私たちにとって忘れられない日になります」


「そ、そうか。これはサプライズというやつだな!?」


(今はエルーシャの機嫌が悪いようだし、ちょうどいい。ここはひとつ嫉妬でもさせて、俺の魔力測定の結果のことは忘れてもらおう)


「ははっ、ティアナはかわいいところがあるな! それで君は、俺とどんな忘れられない日を過ごすつもりなんだ?」


「あなたが荒魔竜を倒していないと、私が証言します」


「ん?」


「あの夜会の日、私が愚かな女を演じてあなたに近づいた理由はそれです。私の目的は、あなたの偽りを暴くことですから」


 ロイエは一瞬、耳を疑った。

 冷たい手で心臓をわし掴みにされたように息苦しくなる。


「なっ、なんだって……!?」


「そんなに驚くことでもないでしょう? 今まであなたがしてきたことを考えれば」


 ティアナは口元を歪めて嘲笑した。

 眼差しには隠しきれない憎悪を孕んでいる。


「で、でたらめなことを言っても根拠は……!」

 

「もちろん私はあの場にいました。私に協力してほしいのは、そのことですよね?」


 ティアナの視線の先にはエルーシャがいる。


「ティアナ、ありがとう。私の頼み通りホルストさんとロイエを呼んでくれて」


「遅くなってすみません。でも目的は果たせました」


「ではさっそく、ティアナが第2の証言者になる資格があることを明らかにしましょう」


 エルーシャがさりげなく魔力測定石を示す。

 ティアナは導かれるように、その澄んだ結晶に触れた。


 しかしなにも起こらない。

 その異様さに周囲は再び静寂に包まれた。

 やがてティアナのそばで文字が紡がれはじめる。


 ティアナの荒魔を受けた履歴は、信じ難いほど膨大な量だった。


 やがて測定が終わる。

 注目が集まるのは、ティアナが最後に荒魔を受けた記録だ。

 それは商人と同じく半年ほど前、荒魔竜が討伐された時期と一致している。


 会場内ではあちこちから驚きの声があがった。


「この魔力測定の結果だと、あの女性は荒魔竜討伐に参加した騎士だったのかもしれません。その場にいたのは間違いないでしょう」


「ええ。どうやら荒魔竜を討った英雄に関して、第2の証人が現れたようです」


(ティアナが荒魔竜討伐の場にいただって!?)


 ロイエは窮地に追い込まれていくのを予感し、明らかに動揺した。


(なぜ!? なぜ今さら、他に証言者が出てくるんだ!?)


 魔力測定の文面を前に、ロイエは青ざめている。

 しかしそれはエルーシャの予想している結果だった。


「これでティアナは荒魔竜が討伐された場にいたと証明されたわね。知っていることを教えてくれる?」


「その前にお願いしたいことがあります」


 そう返事をした人物はティアナではなく、彼女の背後にいた。





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