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こんなはずじゃなかった。

 侯爵三女ちゃん視点。


 そして翌日。


 なぜか、お城に行くぞと言われて準備をしたわたくしは・・・


「今日から、ここで暮らして頂きます」

「え?」


 案内された離宮で、告げられた。


「では、娘を宜しくお願い致します」


 と、頭を下げたパパが出口へ向かう。


「パパっ?」

「殿下の側妃になるにしろ、それよりも格の劣る愛妾になるにしろ、宮廷に入るのだから、それなりの教育を受けねばならん。(しっか)りと励みなさい」


 呼び止めたわたくしへ厳しい言葉を掛けて、パパは帰ってしまった。


 教育係として付けられた先生は、表情の読めない顔をしてわたくしに言った。


「とりあえず、今からあなたには……言葉遣い、宮廷作法、所作、歴史などを学んでもらいます。今は付け焼刃で構いませんので、この四つだけは急ピッチで覚えて頂きます。その他のことは、進捗状況によって追々。では、早速授業を始めます」

「え?」


 わたくしがきょとんとしている間に、


「なにを呆けた顔をしているのです。まずは、その立ち姿を矯正ですね。背筋を伸ばして顎を引きなさい。手は、前で揃えて」


 ビシバシと指摘が飛び、背中や顔、腕に手を添えられ、体勢を変えられる。


「はい、ではこの姿勢のままキープ」


 と、わたくしを真っ直ぐ立たせたまま、宮廷のマナーや歴史を聞かされ、それを暗唱させられる。疲れても、


「姿勢が崩れています」


 そう言われて直される。


「い、いつまでこれをするの?」

「『いつまで続けるおつもりですか』、です」

「え?」

「いつまで、と聞かれるのでしたら、あなたができるようになるまで、でしょうか? 公爵令嬢が、何年も掛けて学んだことを、あなたは最低でも二年以内にできるようにならねばなりません。ぼやぼやしている時間はありません。就寝時間以外は、常に授業だと思ってください」

「え? ま、待って! 学園はっ?」

「行く必要はありません。むしろ、学園の方へ行っていては時間が全く足りません。侯爵邸から通う手間と時間さえ惜しいという判断ですので、確りと励んでください。あなたは、殿下の側妃になるおつもりなのでしょう?」


 と、どこか冷ややかな……若干見下すような色の瞳に、


「わかったわ! やればいいんでしょ!」


 イラッとして答えた。


 そうよ、わたくしは殿下のお嫁さんになるんだから! と。


「『わかりました。致します』、です」


 こうして、わたくしはお城で厳しい教育を受けさせられることになった。


 おうちに帰りたいと言っても却下。お休みがほしいと言っても却下。体調が悪いと言えば、お医者様の診察を受けさせられて、痛み止めや胃薬を処方され、立ち姿や歩き方、姿勢の矯正、ダンスレッスンなどは短い時間になった。けれど、その代わりに座学の時間が増える。


 休憩だと言って、お茶や食事の時間が合間に入るけど、それも全然休憩じゃない。


 椅子への座り方から、手の動かし方、食べ物へ手を付ける順番、食べ方などなど、一々細かい指摘や注意が入って、全然美味しく食べられない。


 食べ物やカトラリーの産地なんて、そんなのどうでもいいじゃない!


 うちにいた頃は、こんなに口煩く指摘されることはなかったのに!


 毎日毎日、それこそ朝起きた瞬間から、侍女にも指摘や注意を受ける日々。


 そしてなにより・・・お城に住むことになるのだから、毎日殿下と会えると思っていたのに、全く会えない! 話が違うじゃない! なんて思っても、口には出せない。


 殿下に会わせてほしいとお願いしても、


「ではまず、殿下にお会いしても失礼にならないマナーを身に付けましょう」


 冷ややかにそう返される。


 もうっ、なんなのよっ!?


 怒っても、喚いても、誰もわたくしの言うことを聞き入れてくれない。


 わたくしが殿下と会いたいときには会えないし、偶に殿下の方からわたくしに会いに来てくれても、学園にいた頃のようには自由にお話もできない。


 短時間の間に、わたくしがどんな風に過ごしているのかを話しても、殿下は励ましの言葉や気遣う言葉すら言ってくれない。


「がんばるから、もっと会いに来てください!」


 と、必死にお願いしても退屈そうな様子を見せる。


 そんな殿下に腹が立ち、思わず言葉がキツくなって、喧嘩のようになってしまう。


 学園に通っていた頃は、わたくしのことを誉めてくれたり、会話が弾んだりして楽しく過ごせていたのに・・・


 殿下が会いに来てくれることが減った。


 学園に行かせてくれない。

 お友達に会えない。


 おうちにも帰れない。

 パパとママにも会えない。

 お姉様達にも会えない。


 寂しいって言っても、誰も聞いてくれない。


 誰かとお喋りがしたい。


 外に遊びに行きたい。


 ・・・おうちが、恋しい。


 こんなはずじゃなかった。


 殿下の傍にいるのは、好きな人の傍にいるのは――――もっと、楽しいものだと思ってた。


 こんなに苦しい思いをしなきゃいけないなんて、思ってなかったわ・・・


 そうやって、わたくしが苦しい思いをして耐えているときだった。


 殿下の婚約者である公爵令嬢が、わたくしに会いに来た。



 読んでくださり、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] ぶっちゃけ侯爵家の娘としても下の下ですね まともな淑女教育を受けてないんじゃ領主たる伯爵家でも無理だろうし、精々が代官職の子爵か男爵、もしくは王城の下級文官がいいとこじゃないかな てか今回…
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