『王家も交えての話し合いをしたい』
公爵令嬢視点。1
わたくしのことを嫌っている王太子殿下が、『好きな人ができたから現婚約者との婚約を解消したい』、と騒ぎを起こしたそうです。
お相手は我が家と同じ、貴族派の侯爵家三女であるとのこと。当事者である令嬢のお父君である侯爵様ご本人から、丁寧なお詫びの言葉と、そして『王家も交えての話し合いをしたい』という旨のお手紙が届いたそうです。
相変わらず、困った三歳児ですこと。
お父様は、
「あの小僧、また問題を起こしやがって……」
と、鬼のような形相で低く吐き捨てました。
「うちの娘をどこまで馬鹿にすれば気が済むんだ? クソガキがっ……もういっそのこと、本気で解消に応じてやるか……」
「あらあら、わたくしは構いませんわ。そんなに怒らないでくださいな? お父様」
「いや、しかしだな……」
「ふふっ、今は構いませんわ。ただ、そうですわね……王家との婚姻に当たり、少々条件を飲んで頂きたいと思いますわ」
「ふむ……言ってみろ」
少し考え直したように、お父様がわたくしを促します。
そもそも、我が家は貴族派。領地を、領民を大事にし、中央政権や王家よりも国そのものへと忠誠を誓っている貴族です。
国が存続し、平穏を保てるのであれば、現在の王家に従わなくてもよい、命令を拒否することも辞さないという考えを持っています。
なので、実際のところは現王室の、王位継承を有する殿方であれば、わたくしの婚約者は誰でもいい……というのは、少々言い過ぎではありますが。国を混迷に陥れることの無い、常識的な方であればいいのです。
そう、現在の王太子殿下でなくても。
ただ、周辺諸国の情勢が安定していないので、王太子殿下と貴族派筆頭の家の娘が婚約しているという事実が大事なのです。
それを踏まえた上で、お父様にわたくしの希望を話しました。
「いいだろう。別に、うちとしても国が荒れたり、他国の政情不安の煽りを受けるのを防ぎたいというだけで、王家自体との縁など望んでいないからな」
「ありがとうございます、お父様」
と、お父様と打ち合わせをして――――
侯爵様と、我が家。そして王家を交えた話し合いに出向くことにしました。
挨拶もそこそこに、
「王太子殿下は、我が娘と婚約を解消し、別の娘と結婚したいのだとか。我が家としては王太子殿下のお望み通り、このまま娘との婚約は解消で構いませんよ?」
開口一番、それはそれは晴れやかな笑顔でお父様が言いました。
「い、いや、それはだな……」
陛下はしどろもどろになりながら、王太子殿下の戯言なので本気にしないで、このまま我が家との婚約を続けたいという旨を伝えます。
「まぁ、いいですよ。なにも、王位継承を持つのは現王太子殿下だけではありませんし」
「た、頼む! 徒に国を荒らすことは控えてくれ! 周辺諸国の情勢が不安定な今、わざわざ他国へ付け入る隙を与えてはならんのだ」
と、どうしても婚約を破棄、解消することはできないとお父様を説得しようとします。
「婚約の解消以外であれば、多少のことは融通する」
そう陛下が仰ったところで、
「では、お願いがございますわ」
にこりと微笑みながら、発言しました。
「な、なんだ? 公爵令嬢」
「わたくし、一応王太子殿下と結婚はしても宜しいのですが・・・」
「おお、そうか! それは助かる!」
「但し、してもいいのは婚姻のみ。殿下と寝所を共にはしたくありませんわ」
「なっ、なにを言っているのだ公爵令嬢!」
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次の話も、公爵令嬢視点。