愛されていた。手遅れな程に・・・
※この話までが、【短編ver】と同じ内容の話となっています。
わかりました。では・・・
人の顔を見るなりブスだなんだ、権力で無理矢理婚約者になったと文句を付け、執拗に嫌がらせをして来るクソガ……いえ、道理のわかっていない年下のお子様と、こちらこそ無理矢理婚約を結ばされ、その暴言と嫌がらせとに耐え続け、わたくしは疲弊して行きました。
こちとら義務で嫌々付き合ってやってんのに、当のクソガ……いえ、お子様の嫌がらせのせいで公爵家よりも下位の貴族にも馬鹿にされて、悔しくて悔しくて、散々泣いたり嫌がったのに、婚約は絶対に解消にならず、益々クソガキは調子こいて、わたくしにキツく当たる。
殿下のお父君である国王陛下や王妃殿下にも直談判したこともありました。こんなに嫌われているのだから、婚約を解消してほしい、と。けれど、『国のために堪えてくれ』と言われました。『そなたの方が年上でもあるだろう?』と。
わたくしは、絶望しました。
そして、段々追い詰められて――――
公爵令嬢として、王太子の婚約者として、一発で完全アウトになるようなやらかしでもしてみようか? と夢想するようになったとき・・・わたくしを見かねた侍女が、わたくしに一冊の本を差し出したのです。
その本が、わたくしの救いになったのです。
「それはどのような本だったんだ?」
それは・・・育児本ですわ!
「は?」
ですから、育児本です。
侍女は、わたくしへ言いました。『お嬢様、第一王子をお嬢様と対等の存在だと思うからそんなに腹立たしくて悔しくて堪らなくなるのです。けれど、想像してみてください。第一王子が実は三歳児なのだと』と。
そうして、悪魔のようだと言われる、幼児のイヤイヤ期と同じだと示唆されたのですわ!
「は?」
三歳児のワガママ!
三歳児の嫌がらせ!
三歳児の憎まれ口!
三歳児のマナー違反!
殿下のやることなすこと、全てを『あれは三歳児のすることだから仕方ない』と。そう思えるようになったとき、わたくしは救われたのです!
「さ、さんさいじ……」
はい。丁度、親族の三歳児や孤児院の視察で小さな子供と接する機会もありまして――――
その結果、わたくしの母性が目覚めたのです!
それからは、殿下がわたくしへどのような理不尽な言動をしたところで、『三歳児が駄々を捏ねているのね? 微笑ましいわ』と、穏やかで優しい心持ちになり、殿下へ苛立つこともなくなりましたわ。
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彼女は、爽やかな笑顔で俺に語った。
「俺が、君を冷遇していたことに謝罪をしたときに、あんなに喜んでくれたのは」
「ああ、あれですか? あれは、本当に嬉しかったですわ。初対面の頃からずっと反抗期で、ず~っと嫌いだと言い続けていた三歳児の子供が成長し、自分の所業を振り返ってわたくしへ謝罪したのです。それはもう、グレてしまった我が子が更生したという母のような感動で胸が震えたのです!」
嬉しそうに頬を染めて、彼女は優しい眼差しで俺を見詰める。
グレた息子が更生したような気分。そんな気分で、彼女は・・・女性としての彼女に惚れた俺に付き合ってくれていたというワケか。
「なので、わたくしは殿下と寝所を共にすることはできません。わたくしは、殿下のことを実の息子のように愛しております」
ああ、だから・・・
だから、彼女は俺との触れ合いをやんわりと拒否していたのか。
だから、『王太子殿下と寝所を共にするだなんて悍ましい』と。そう言ったのか・・・
「や、やり直すことは」
「無理ですわ」
にっこりと、彼女は俺にとどめを刺した。
「なので、侯爵令嬢を娶る時期をお早めください。そして、周辺諸国の情勢が落ち着けば、離縁には応じますので。ご安心くださいませ」
愛情は籠っているが、一切の恋情の見られない、慈しむような眼差しを俺に注いで。
俺は彼女に、愛されてはいた。そう、手遅れな程の愛情で・・・
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こうして彼女は、俺のお飾りの妻として、けれど公務は確りとこなしながら過ごすことになり――――
同級生の侯爵令嬢の教育が一段落したところで、『世継ぎを生めていませんので』と言って、自ら正妃の座を退き、側妃へと下がった。
しばらくして、俺の子を生んだ侯爵令嬢が正妃となった。
彼女は徐々に表へ出ることを控え――――
周辺諸国の情勢が安定した頃、病気療養を理由として、ひっそりと離縁をした。
「それでは、殿下のご多幸をお祈り致します」
と、相変わらずの慈しむような眼差しを俺に注ぎ、彼女は城から出て行った。
俺は彼女に恋をして、愛していた。
そして彼女も、俺を愛してくれていた。
ダメ息子の成長を喜ぶ母のような目線で、だったが。愛されていた。手遅れな程に・・・
数年後。彼女が年上の男性と結婚し、幸せに暮らしていると、俺に辛辣な側近がこっそりと教えてくれた。
「お相手の方は初っ端から最悪な態度だった殿下……あ、いえ。陛下とは比べものにならないくらい、いい男みたいですよ」
と、笑顔で俺の心を抉りながら。
こうして俺は、盛大に失恋をした。
――王子視点終了――
読んでくださり、ありがとうございました。
王子視点終了。
次の話から、視点変更で新しい話。同級生の侯爵三女ちゃん視点となります。
以下、【短編ver】あとがき。
というワケで、『愛されていた。手遅れな程に・・・』終わりました。
視点変更というか、途中で元奥さんの独白になったのでちょっと読み難いかもですが、元奥さんの話している部分を全部セリフにすると長セリフが多くなるので、こんな感じにしてみました。(*>∀<*)
その後から、一気にコメディーチックになったと思います。(笑)
婚約者だった元奥さんは、王子が自分に謝ったときから、自分のことを「クソババア」と呼んで嫌うグレた息子が、「今までごめん、母さん」と言って更正した気分でほろりと感動。(´ノω;`)
そして、デートに誘われたり、プレゼントを色々貰ったり、ちゃんとエスコートをされたりしたときには、「あのクソガキが、こんなに立派になって……」と親孝行をされてるおかんの気分で喜んでました。ꉂ(ˊᗜˋ*)
年は二才しか変わらないのに、婚約者が育児本で救われた頃からもうずっと親目線で三歳児扱いされてました。しかも、完璧三歳児扱いされてるのに、それを知らずに惚れちゃう王子。(((*≧艸≦)ププッ
婚約者はずっとおかん気分だったので、王子が「侯爵三女が好きだから結婚したい」とか言い出しても、「王子にもとうとう好きな人が……!」と、喜んでました。
まあ、結局王子はこっちのお嬢さんとパートナーとしてやって行くんだと思います。今更別れられないというのもありますが。(*`艸´)