4月26日夕方:呼掛
険悪な一日が終わった。今日は早く帰ることにしよう。そう決めて高寄駅に近付いたところで、
「お兄さ~ん」
女性の声が聞こえた。
目を向けると、手を振られた。
またその身長が低い! こんなに立て続けだと怖い!
その女性が近寄ってきたことでどのくらいの背丈かが分かった。小出先生よりは大きい、150cmぐらいか。
ただその服装が俺を身構えさせた。
中学生の制服だ。
小出先生も若杉さんもこの女性より小さいのだから、実際成人でこれがコスプレみたいなものの可能性もある。だがこの背の低さは現役の中学生と言い張るには十分だった。髪型ツインテールだし。
「ウチと遊ぼ?」
うん。やっぱりこういうことだよね。
「いや~、ちょっと……」
「え~? 中学生は駄目ですか?」
「普通に駄目じゃないかな」
女子中学生、みたいな成人女性なら良かったな。……それでも駄目かな。
「お兄さんは普通じゃないのに?」
「……はい?」
「ストーカーだよね。お兄さん」
彼女はそう囁いた。
な……噂が街中にも!?
どうする? 何を言えば良い? 何を訊けば良い? それとも逃げるか? いや、それはそれで怪しまれるか。
取り敢えず肯定も否定もしない質問を……。
「俺のことが分かってて声をかけたんですか?」
「うん! 絶対喜ぶな~って」
確かに喜んだけどね。
「どうなるか分からないのに?」
「え~? ウチで何したいんですか~?」
「怖い目でも?」
「キャッ! 初対面でそーゆーのするんだ~。やっぱ変態だ~!」
俺はこういう態度が嫌なんです。本当に中学生だわ。
でもそうは言いながらなんで腕に抱き付いて物欲しそうな目をしているんですか!? すげぇ愛おしい! でも人通りが多い所だから! やめて見ないで!
「ね~、どうすんの? 嫌なら帰っちゃおっかな~」
今度は退屈そうな顔で挑発してきた。
ーーーーどうするか?
小さくて、可愛らしくて、正直俺が好きな見た目だ。遊べるならそうしたい。本当の性格が分かるかもしれないし。それでもし合えば年齢がいくつだったって構わない。まあ中学生と合う気はしないけど。
でも何か、そういうことじゃなくて。
「……すみません。とても魅力的ですけど、遠慮します。何故かこのままだと楽しくないというか、虚しいと思ってしまって」
「え……。そっか……」
やけに素直に腕を放してくれた。
「もし今度会えればちゃんとお話しましょう。あ、でもつまんないか」
「うん……」
俺は会釈してその場を去った。
その時の彼女はどこか遠くを見ているようだった。