4月26日朝:責任
朝になった。確かに嬉しいが、浮かれ過ぎるのもどうかと思った。いつも通りでいよう。
新聞ではストーカー被害が、今度は高寄で発生したと報じられていた。本当に南下しているな。
まさか、昨日のあの人影が……?
俺が最後尾に乗った電車は遂に前向駅に到着した。
ホームには若杉さんがいてくれた。
「おはようございます」
満席になり、ドア近くに立ったままお互いに挨拶した。
どうも少し元気が無さそうだった。
「あの、無理させてしまいましたか?」
「え? あ、そんなそんな!」
「じゃあ実は低血圧」
「それはちょっとあります……」
若杉さんは視線を外して、呼吸を整えて小さく頷き、もう一度俺を見てくれた。
「今日の新聞見て、昨日のあの人を思い出したんです」
「ストーカー、ですか」
俺と同じことを若杉さんも考えていたようだった。
「昨日の、私が逃げようとしなかったら本当に幼い女の子は怖い思いをしなかったんじゃないかって」
「優しいですね。そう考えていたなんて」
首を横に振る若杉さん。
「違います。自分のことしか考えていなかったんです」
「……俺は嫌ですよ。若杉さんが怖い思いをすること」
困惑させたようだったので話を続けた。
「もちろんその女の子で良かったってわけでも無いです。若杉さんが責任を感じて落ち込んでいるのも嫌です。本当に悪いのは、そのストーカーです」
若杉さんは呆気にとられたように小さく口を開けていたが、微笑んで頷いた。
「ありがとうございます。そうですね。ごめんなさい、考え過ぎてしまっていて。しかも最初なのにこんな暗いこと……」
「大丈夫です。話せるだけで嬉しいですから。それよりそろそろ連休になることの方が悲しいです……」
「嫌なんですか?」
「せっかくこうしてお話しできるようになったのに当分お会いできなくなると思うと」
「そ、そんなに……。大丈夫ですから! 休みが明けても会いますから!」
◇
高校では妙な緊張感があった。廊下に出れば囁きが聞こえ、すれ違えば眉をひそめられる。どうやら遂に俺がそのストーカーだと確信されつつある、といったところだろうか。
「もう、手遅れだな」
その後中島から言葉を掛けられることはなかった。
それでも話し掛けてくれる人がいた。
「子日くん。話したいことがあるんだが、今大丈夫か?」
小出先生だ。
人通りの少ない廊下で会うことができた。
「昨日は申し訳ない。今まで通りで良いはずだったのに」
「いえ、大丈夫ですよ。気にしないでください。どんな先生でも構いませんから」
「そ、そうか」
「あ、できればもう少しだけお話しする機会があれば嬉しいです」
「それは……考えておく……」
俺の本心が止まらない。先生を戸惑わせてでも。
「それより、今の状況、大丈夫か」
「それも気にしなくて大丈夫ですよ。前からこんな感じなんで」
「そうか……。それでも、先生は分かっているし、信じているからな。子日のこと」
好きな人だけはこんなことを言ってくれるなんて。これ以上無いほどありがたい。